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2022年9月15日 第646号

東借連2022年「夏季研修会」を開催
裁判例を参考に借地借家の相談事例を学習
更新料支払慣行認められない
定期借地借家契約への切替は要注意

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東借連2022年夏季研修会(2022年9月4日)

 東借連2022年「夏季研修会」は、9月4日午前10時から豊島区内の会場で行われ、組合役員や組合員14名が参加した。
 講師は東借連常任弁護団の黒岩哲彦弁護士が担当し、裁判例を参考に「よくある借地借家の相談事例」について講演した。

借地権とは

 黒岩弁護士は、第1に借地権について自ら担当した東京地裁の判決について解説し、「鋼材及び駐車場」にプレハブの仮設住宅が建っていても、撤去が容易である上に未登記で、土地の所有権を取得した者に対し、対抗要件を備えておらず、建物所有を目的としていないとして借地権が認められなかった事例を説明した。

デジタル契約の危険に注意

 第2に定期借地契約について、借地借家法の改正で定期借地契約と定期借家契約が増えていることを指摘し、デジタル化の促進で、借地借家法が改正され、定期借地権や定期建物賃貸借関係について、書面での契約や書面の説明義務が賃借人の同意によって、オンラインで契約することが可能となった。電子契約は便利な反面、借地借家人に不利だとわからずに契約してしまう落とし穴があり、注意する必要があると指摘された。

更新料の請求は具体的な算定基準が必要

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講演する黒岩哲彦弁護士

 第3は耐震診断報告書で賃貸人は耐震性能が確保されておらず、借地契約の解約申入れの正当事由について、解約の正当事由はないとした東京地裁の判決を紹介した。
 第4は「更新料」について東京地裁の3つの裁判例「借地の法定更新の際の更新料の支払合意を支払い慣行も否定した事例」、「更新料支払い請求権は客観的に金額が算出できる具体的基準の定めが必要とされた事例」、「民事調停で次回更新時に双方協議の上合意更新した更新料を支払うことを条件として更新するとの内容で合意した場合」いずれの事例も地主の更新料請求が認められず、借地人が勝訴している。
 東京地裁平成23年3月31日判決では「更新料の支払請求権が具体的に権利性を有するためには、少なくとも、更新料支払の合意をする際に、裁判所において客観的に更新料の額を算出することができる程度の具体的基準を定めることが必要であって、そのような基準が定められていない合意は、更新料支払請求権の発生原因とはなりえないものと解される」。
 以上の判例が紹介され、単に更新料を支払う合意があっても、更新料を支払わなくても契約解除の理由にならないと指摘された。

借家の明渡し京都地裁判決

 借家に関して京都地裁の令和3年10月の判決「築80年の借家の明渡明渡訴訟」で借家人勝訴の判決が紹介され、借家人が高齢者かつ単身で転居先の確保が困難であることを重視した大変意義のなる判決である。
 講演終了後、午前中の残りの時間で活発な質疑応答が行われた。普通借地から定期借地契約への切替え、借地権の譲渡、借地上の建物の登記と対抗力、地主の相続人間でもめている場合の譲渡承諾、地代増額訴訟と地主側の立証責任等について質問が出され、黒岩弁護士から丁寧な回答がされた。最後に参加者からアンケートが回収された。


地主から契約解除通知
外壁塗装が無断増改築?
地主が根拠なき一方的通知
外壁塗装は地主の承諾不要
世田谷区

 世田谷区内に土地約26坪を賃借している藤堂さん(仮名)は地主から突然契約解除の通知が届き驚いている。
 地主の契約を解除する主張は、
一、地主の承諾を得ず無断増改築に当たる外壁塗装の工事をしたことが契約違反になる。
二、今まで一切更新料を支払っていないため。
三、賃料未払いがある。
 組合は以下の文言をアドバイスした。
 一は外壁塗装なので全く承諾を得る必要がなく、組合でも承諾は必要ないが外壁塗装の修理修繕はしますと一言言っておけば良いとアドバイスした。
 二は契約書に一切の更新料特約がなく、そもそも支払い義務がない。
 三は現在東京法務局に供託中で、地主が受領拒否し手続きに時間がかかったため遅延した。
 今後是正したいと考えている。この通知に対し藤堂さんはご自身で通知書を作成し組合で添削をした。
 正当事由が全くない契約解除であり、一つ一つの事柄につき法的根拠を述べるよう通知した。
 また一方的な主張では成立しない旨も通知した。藤堂さんは未だにこのような法的知識がない地主がいておかしな主張をしてくることに驚くとともに滑稽さを感じ、この主張内容で調停裁判をしてくるならばまた組合と相談し、法律を基に対処したいと語っていた。