2020年9月15日 第634号
コロナ禍の中で、借地や老朽化した借家を狙った底地買い事件が各地で多発している。首都圏の東京、神奈川、埼玉、千葉までターゲットになっている。底地買い事件は、通常の土地取引と比べ、利益の幅が大きいため、東証一部上場の不動産会社から地上げ屋と呼ばれる業者まで幅広く参入している。基本的な手口は「底地を買うか、借地権を売って明け渡すか、借家を明渡すか」の選択を迫る。借地借家人組合には様々な業者からの相談が寄せられている。
バブルが崩壊して、底地買い・地上げ事件が組合に頻繁に相談が寄せられるようになったのは、2000年以降である。バブル時代と違って底地買い業者のT社は、地主から底地を安く購入し、関西の地上げ屋を使って借地借家人を脅して、地主の底地を高く借地人に売りつけるか、借地権を安く購入する。借家の場合は僅かな立退料で追い出す手法をとっていた。
T社はその後、本社を大阪から千代田区永田町に移し、脅しの手法はさらにエスカレートし、2014年には三鷹市の借地人Mさんが底地の買取りも借地権の売却にも応じないと交渉を拒否すると、「貸したものを返せ」と近所に聞こえるように大声で怒鳴り、Mさん夫妻の後を追跡し、嫌がらせを行った。Mさんは組合に入会し、東借連の弁護団と相談し、T社に対し面談禁止の仮処分を行い撃退した。T社は、脅しを行った社員を辞めさせ、同様な脅しは行わなくなったが、強面で強硬な主張を繰り返す態度は変わっていない。
東証一部上場のS社のホームページを見ると、地主に対し、底地を所有していても収益性がないのにも関わらず、相続税評価額が高く、相続すると資産を減らしてしまう。早期の底地の売却を勧め、権利関係が複雑で、借地権者が複数いて維持管理の煩わしさから解放されたいとの地主の悩みに応えている。同社は地代の集金・契約書の作成・更新料の受領支援等の管理もサポート料を取って行っている。地代の集金は受取地代の10%程度を報酬として受け取っている。2000年代当初は、底地買い業者はT社の独壇場だったが、現在は数多くの業者が参入し競争が激しくなり、地主に対するセールスも活発になっている。借地や老朽借家は何時底地買い業者に売却されるかわからない。
足立区でも地上げ屋と呼ばれる底地買い業者が組合員の自宅を訪問し、脅迫まがいの行動で組合員を委縮させている。
組合では担当社員を組合員宅に訪問しないことで、地代の集金、交渉も組合を通じて行い、最終判断は組合員にしてもらっている。現在、組合では底地買取りと更新料請求を拒否すると地主が地代集金を地上げ業者に委託している例がある。底地買取りの一件は借地面積が百坪以上もあり、組合員が組合の顧問弁護士交渉を委任している。
もう一件は、担当社員に組合事務所に地代の集金に来てもらっているが強気な性格の社員である。また、もう一件は組合を通じて担当者と組合員は事務所で交渉を行うことを事前に取り決め対応している。また、更新料請求されたが、契約書に更新料に関する支払い約束がないので、地主宛に内容証明郵便で更新料支払い拒否の通知を出した。すると、地主から土地の管理を地上げ業者に依頼した旨の通知があり、後日下請けの建設会社担当者が当初は毎月地代の集金に来ていたが、途中から二ヵ月に一度の集金になっている。
底地の買取りをするのであれば、借地人は業者からお願いされている立場を忘れず、納得がいかない場合は交渉を断る決断も必要である。
底地買い業者はコロナ禍でも動きは活発だ。コロナ危機による来年以降の地価の下落を見据えて、高値の内に売買を狙っている。都内ではT社、S社、E社、N社の4社が代表的な業者だ。
T社はまず地代を集金に来る。底地を買うか借地権を売るか二者択一を迫るためである。しかし、借地人に売買の意思がないと知ると、以降地代の集金に来なくなる。
半年位の経過後T社宛に集金催告の通知書を出し、返答なければ受領拒否とみなすと通知し、供託している。
S社も基本集金に来る。しかも丁寧な態度で集金する。組合に借地人を説得して下さいと懇願する時もある。E社は買い取った底地を2年位しか所有しない。借地人と売買の話が決裂するとすぐに転売の動きに出る。2年以内に買わなければ他に売却するというのはソフトな脅しである。N社は社名変更し、関西系元祖地上げ屋タイプである。とにかく追い出そうと嫌がらせをしてくる。警察問題や弁護士による法的措置に発展する事態が多く発生している。
底地買い業者問題は即組合に相談することをお勧めする。
「相当額の更新料を支払う」特約を有効とし、坪8万円で215万円の更新料請求を認めた東京地裁の判決の控訴審で、東京高裁は本年7月20日に判決の言い渡しがあり、地主の更新料請求を棄却し、借地人が逆転勝訴の判決が下った。地主は最高裁に上告せず、判決が確定した。
「相当額の更新料を支払う」の合意が更新料支払い義務を発生させるかが控訴審の最大の争点となり、高裁判決では「更新料の支払請求権が具体的権利性を有するのは、それが、更新料の額を算出することができる程度の具体的基準が定められていることが必要であるところ、本件合意第3項は、その「相当の更新料」という文言が、抽象的で、裁判所において客観的に更新料の額を算出することが出来る程度の具体的基準ではないから、具体的権利性を肯定することはできない」と判事した。同高裁判決については11月号で弁護団の種田弁護士から解説を受ける。