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2022年9月15日 第655号


安倍元首相の「国葬」問題と憲法「改正」の動き
弁護士 黒岩 哲彦
元首相の国葬法的根拠なく
思想・良心の自由(憲法19条)の侵害

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参議院憲法審査会

 7月の参議院選挙の結果、憲法「改正」に賛成する政党が国会の議席で3分の2を超え、一気に憲法「改正」に進むかと思われましたが、統一協会問題で岸田政権は窮地を迎えています。安倍元首相の「国葬」問題と憲法「改正」の動きについて、自由法曹団東京支部支部長で東借連常任弁護団の黒岩哲彦弁護士に語っていただきました。

 岸田総理は自民党内の「保守本流・リベラル派」だと言われていましたが、自民党の主導権を掌握している「保守傍流・右派」の支持をとりつけるために、「国葬」と憲法「改正」に突き進んでいます。しかし、各種世論調査では、統一協会との関係で内閣支持率が急落しています。
◇安倍元首相の「国葬」問題
 岸田内閣は、安倍晋三元首相の「国葬」を9月27日に執り行うことを閣議決定しました。報道各社の世論調査(8月20日・21日実施)では、「国葬」実施について反対が賛成を上回っています。
【そもそも法令上の根拠がない】
 大日本帝国憲法のもとで、天皇の命令である「勅令」として「国葬令」が1926年に制定されました。天皇や皇太子などともに「國家ニ偉功アル者」について「国葬」を行うとされ、国民の服喪の義務が明文化されました。天皇制政府は、天皇に仕え国家に尽くした功臣の死をみんなでしのぶことを強制して、国威発揚のために利用しました。しかし、「勅令の国葬令」は国民主権・人権擁護・平和主義の日本国憲法に反します。「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力に関する法律」1条により、「国葬令」は日本国憲法に反するとして効力を失いました。岸田内閣は内閣府設置法の所掌事務として「国の儀式」にあたるとして強弁をしていますが、そもそも「国葬」についての根拠法がないのですから、内閣府が「国葬」を行う職務権限はありません。法的な根拠がないのに「国葬」の費用を国民の税金で賄うことは財政民主主義に反します。
【私の思想・良心の自由(憲法19条)を侵害します】
 私は安倍元首相について強く批判をしてきました。2017年には集団的自衛権行使を容認した安保法制を多く国民の声を押し切って成立させました。また、アベノミクスにより貧富の格差を著しく拡大させました。森友・加計学園問題、「桜を見る会」など政治を私物化し、国会で虚偽答弁を繰り返しました。自殺者まで出した行政文書の改ざん問題についても、未解決なままです。国葬を行えば、安倍元首相を礼讃することになります。弔意の強制は、私自身をはじめ、安倍元総理に批判を持っている市民の思想・良心の自由(憲法19条)を侵害します。
◇日本を戦争する国にする自民党の憲法9条改憲案
 岸田首相は、自民党の憲法9条改憲案について、国会発議(憲法96条)の手続きをすすめるとしています。
【自民党の憲法9条改憲案】

第9条の2
(第1項)前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。
(第2項)自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。

【「何も変わらない」はウソ】
 自民党は、憲法9条1・2項を残し、9条の2を新設して、今ある自衛隊と明記するだけなので「何も変わらない」と強弁しています。しかし、何も変わらないのになぜ、時間と多額のコストをかけて憲法9条改憲をしようとするのでしょうか。
 第1のトリックは、「自衛の措置をとることを妨げず」としていることです。これまで政府は専守防衛の建前から武力行使は「必要最小限度」とする建前をとってきました。改悪案では「必要最小限度」の制限がなく、無制限の海外での武力行使を認める仕掛けとなっています。
 第2のトリックは「法律の定めるところ」としていることです。「後の法律は前の法律に優先する」という法の原則があります。現在の安保法制(戦争法)は反対運動の成果で「限定的」集団的自衛権行使を容認するものですが、改悪案では「全面的」集団的自衛権行使容認に改悪することに歯止めがありません。
【現在の安保法制(集団的自衛権)の危険性】
 現在の「限定的」集団的自衛権行使を容認した安保法制の危険性も明らかになっています。
 日米首脳会談(5月23日)後の共同会見でバイデン米大統領が、台湾有事の場合に軍事的に防衛するかと問われ「はい。それが私たちの責務だ」と明言しました。岸田首相はバイデン大統領の発言に賛同しました。
 安保法制違憲訴訟・東京差し止め訴訟控訴審で元内閣法制局長官だった宮崎礼壱さんは、(1)「安保法制の最も重大な欠陥として「存立危機事態」の建付けの致命的な不明確性」であり、日本がいかなる場合に、どの範囲まで武力の行使をすることになるのか、日本がアメリカとの関係で主体的判断などできるのか等の点について、「何ひとつ限定になっていない」、(2)台湾有事が起こると、日中全面戦争に一本道であることと証言しました。
◇あきらめないことが大事
 私は、先の参議院選挙市民と野党の共闘の前進を期待していましたので、結果については率直言って、自公政権に「黄金の3年間」を与えてしまったと思い、落胆をしました。しかし、統一協会問題などで急速に情勢が変化しています。自民党内には、「来年の統一地方選挙にこのままでは勝てない」として秋には衆議院解散総選挙を行うとの噂もあるようです。あきらめないことが大事だと実感をしています。

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