国土交通省は、住生活基本計画(全国計画)の見直しをおおむね5年ごとに行っています。1月に同計画の変更案を発表し、1月20日から2月9日に国民の意見を聞くためのパブリックコメントの募集を行いました。同計画案は3つの視点から8つの目標を定めていますが、コロナ禍の住宅事情を全く反映しない内容となっていることから、多くの団体・個人から批判の意見が寄せられています。
本計画は、住生活基本法の基本理念を踏まえ、令和時代の新たな時代における住生活の目標として、住生活の現状と課題に対応するために、三つの視点と8つの目標を示していますが、国民にとって住生活を営む上で最も重要は住居費(家賃・住宅ローン)の負担が大変重くなっているにも関わらず、この問題が全く触れられていません。
新型コロナ感染症の影響で、2度にわたり「緊急事態宣言」が大都市に発令され、多くの勤労者が仕事を失い、休業やシフを減らされ、とくに非正規で働く若者・女性から「家賃が支払えなくなった」、「このままでは生きていけない」等々の相談が「新型コロナ災害緊急アクション」等の支援団体に昨年4月以来連日寄せられています。
コロナ禍で家賃の支払いに困窮し、住居を失う恐れのある生活困窮者に支給される「住宅確保給付金」が昨年4月から8ヶ月間で11万5千件の人が家賃補助を受け、一時的に住まいの危機から救済されました。しかし、支給される家賃は生活保護の住宅扶助費と同額です。給付期間は昨年末の要請で今年の3月迄と最大12か月に延長されましたが、ハローワークなど就職活動を行うことが前提とされ、コロナの影響で就職先を探すことも困難な状況です。
欠けている家賃負担の軽減
住宅団体、学者研究者、弁護士の共通した意見として「住居費負担、家賃負担」の軽減策について基本計画案全体を通じて記述がないことが指摘されています。「これが住生活基本計画かと疑念を感じる。法の精神に戻って、確かで志のある計画に書き改めるべきである」(住まい連)、「施策として、家賃低廉化措置を予算上の制度から法令上の制度にするなど、恒常的な家賃補助制度の創設を盛り込むべきである」(増田弁護士)。
「住生活にとってもっとも重要な住居費や家賃の問題が欠けている。国民各層の収入が低下する中で、住居費や家賃の負担が今日重大な問題であり、(計画案)に付け加えることを求める」(全借連・細谷)。「住宅確保要配慮者が安心して暮らせるためには、所得格差の拡大や高齢者社会の中で市場家賃ではなく、収入に見合った家賃制度が不可欠です。このことを記述して下さい。そのためには、家賃補助制度が必要です」(和久晴雄)。
「セーフティネット住宅も、国による家賃助成を大幅に増額することによって低家賃住宅を実現することになります。公営住宅の補完として、家賃助成を、国の施策として新たに制度化することは、急務であると考えます」(和洋女子大・中島)。
セーフティネット機能せず
計画案の「居住者・コミュニティの視点」では、目標(3)〜(5)で、子供産み育てやすい住まい、高齢者が安心して暮らせるコミュニティ等、セーフティネット機能の整備の推進が上げられていますが、全く中身のない内容です。目標5の住宅確保要配慮者の住まいの確保については、「公営住宅が住宅セーフティネットの中心的役割と指摘しているが、中心的な役割を果たすための具体的な施策がないことが問題である。セーフティネット登録住宅の活用が強調されているが、セーフティネット登録住宅は市場においても借り手のない空き家を対象にした対策であり、公営住宅を補完する家賃低廉化等のある専用住宅はほとんど登録されていない。どのようにしてセーフティネット専用住宅の登録を促進させるのか、課題や具体的な施策を明記すべきである」(全借連・細谷)と批判しています。 |