2020年6月15日 第628号
家賃滞納の対処法
明渡合意書作成しない
代々木法律事務所 弁護士 林 治
新型コロナウイルスの感染拡大により、経済活動が停滞しそれに伴い収入も減少し、住まいの家賃を支払えない人が増加している。賃料の不払いが続いた場合、賃貸借契約が解除され住まいの明渡を求められる恐れも出ている。
滞納した場合、大家や家賃保証会社が強硬に(時には強迫など違法な手段を用いて)明け渡しを求めてくることもある。このような場合でも直ちに出て行かなければならないわけではない。大家が強制的に明渡を求めるには、裁判で明渡請求をして勝訴判決を得てから、その判決に基づき強制執行手続きを改めて裁判所に求めるという法的手続きを経なければならない。実力で部屋から追い出すことはできないのであり、もしそれを行ったら違法行為であり大家の方が責任を問われることになる。このような法的手続きを経ないで違法に退去を迫る者を追い出し屋と呼んでいる。
また、追い出し屋の中には、実力で無理やり追い出したのではなく、合意により出て行ってもらったことを装うために、明け渡しの合意書を作成させることもある。例えば「私と大家は、本件物件を〇月×日までに明け渡すことを合意した。〇月×日以降本件物件内の残置物は大家が任意に処分することに私は異議を述べない」などと言う内容の書面に署名・押印させることがある。このような書面を基に、追い出し屋は「合意したんだから出ていけ」と迫るのである。
滞納した負い目や自分でも合意書を作成してしまったことから、転居先も決まっていないのに仕方なく退去してしまうことも多い。しかし、この合意書が直ちに法的に有効になるものではない。
しかし、無用なトラブルを避けるため実現できないような合意書は作成しないこと、もし仮に合意してしまった場合でも直ちに書面が有効になるわけではないことを知ってほしい。
もし追い出し屋からの請求や実際に追い出されそうになった場合は、近くの借地借家人組合や弁護士に相談をしてほしい。