新型コロナウイルスの感染拡大は経済的にも重大な影響を及ぼし、「仕事を失い家賃が支払えない」といった相談が急増しています。住まいの貧困に取り組むネットワークでは、家主や不動産業者、家賃債務保証会社に対して緊急アピールを3月末に発表し、「家賃滞納者への立ち退き要求止め、共に公的支援を求めましょう」を発表しました。《以下全文掲載》
新型コロナウイルスの感染拡大を発端とする経済危機により、雇い止めや解雇、内定取消しが広がり、雇用は継続しているものの収入が減少した非正規労働者、仕事が減って窮地に立つフリーランスや自営業者も増えています。
コロナ危機とも言える社会状況のもと、今後、減収によって家賃の支払いが困難になる人が急増することが懸念されます。2016年の「国民生活基礎調査」では全体の14・9%にあたる世帯が「貯蓄がない」と回答しており、こうした世帯を中心に3月末に支払うべき家賃から滞納する人が続出すると見られます。賃貸住宅を経営する立場の皆さまにおかれましても不安を募らせておられることと思います。
私たち「住まいの貧困に取り組むネットワーク」は、2009年の結成以来、賃貸住宅の借家人(借主)の権利向上をめざしてきました。その中で特に力を入れてきたのが民間賃貸住宅での「追い出し屋」問題です。
家賃滞納者に対して、家主や不動産業者、家賃保証会社等が法的手続きを踏まずに立ち退かせる「自力救済」行為は違法行為で、民事上の責任だけでなく刑事上の責任も生じ得る行為です。家賃滞納者が続出しかねない社会状況において、改めてそのことに留意を促したいと思います。
また、家主と借主は「賃貸住宅契約書」を締結していますが、この契約書は「借主の居住の安定及び貸主の経営の合理化を目的」(国土交通省の説明)としているものです。この賃貸契約書の趣旨もぜひ受け止めていただきたいと考えます。
そして、貧困拡大を食い止めるための政府の緊急対策が具体化していない現状において、家賃滞納者を立ち退かせるための裁判手続きである明渡請求を提起することも控えていただくよう、お願いいたします。
家主の中には家賃収入が減少することにより、生活が脅かされる方もいることは承知しておりますが、家賃滞納問題を解決するためには、滞納者を立ち退かせて空き家にするよりも、借主が公的支援を得て再び家賃を払える状態に復帰できる方がはるかに近道です。
政府が思い切った現金給付を早急に実施し、低所得者の生活を支える制度(生活保護や生活困窮者自立支援法に基づく住居確保給付金など)の要件を大幅に緩和すれば、家賃滞納問題のほとんどは解決します。また、今回の新型コロナウイルスの感染拡大という特別な事情で家賃滞納したことによる家賃収入の損失を政府に補償させる方策も考えられます。
家賃滞納により住居を喪失した人は、ネットカフェ等の終夜営業の店舗に移ることが予測されますが、そういった施設は閉鎖的な空間であり、経済的困窮により体力が落ちた人々の間で感染症リスクが高まる可能性もあります。
コロナ危機の混迷をさらに深めないために、すべての家主、不動産業者、家賃保証会社の皆さまに心から訴えます。家賃滞納者への立ち退き要求を行わず、公的支援の拡充を通した問題解決を共に求めていきましょう。
2020年3月28日
住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人坂庭国晴、稲葉剛
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