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2018年夏季研修会

50年を経て様変わりした借地借家問題と民間賃貸住宅制度の問題点

2018年7月28日
東京借地借家人組合連合会
事務局長 細谷 紫朗

1、東借連が創立された1967年はどんな時代だったか
 戦後の住宅難が解消されないまま、1960年代に入ると日本は高度経済成長で東京などに人口が集中し、住宅問題は都市問題として深刻さを増した。公営・公団・公社住宅は、昭和40年代後半には年間1万戸を超える供給が行われたが、大半は民間に頼らざるを得ず劣悪な木賃アパートが大量に供給された。
 中堅所得者層は、戦後の一時期持ち家で住宅を建設するために地主から土地を借りて借地契約を締結する借地人が大量に生まれた。
 東借連が結成された直後から、借地借家人組合に地代・家賃の値上げ、明渡し等の相談が殺到し、全国の都市で組合が結成された。当時の木賃アパートは、トイレ・流し台も共用で、4畳半・6畳1間に家族が4人、6人と生活し、夜中に赤ちゃんが圧死するとう悲惨な事件も起きていた。

2、狂乱地価と借地借家法「改正」
 70年代に入り、田中角栄の「日本列島改造論」が発表され、全国各地で土地の買い占め問題が発生し、土地と物価の高騰が国民生活を直撃し、土地の評価替えで固定資産税が毎年大幅に上がり、地代・家賃の便乗値上げが多発した。1970年代後半から80年代にかけて、地上げ問題が発生し、地上げ屋による脅迫・脅しなど暴力的な明渡し事件が発生した。80年代に入ると「臨調行革」路線の規制緩和が借地借家法の分野に及び、住宅運動団体の協力で借地借家法改悪反対運動が全国的に盛り上がり、既存の借地借家契約には改正した新法の契約更新などの規定が適用されないまま、1992年借地借家法が「改正」された。新法の目玉が更新のない「定期借地権」で、借地の供給が期待されたが供給増にはつながらなかった。

3、政府の住宅政策「市場重視・ストック」重視への大転換
 2003年(平成15年)9月に社会資本整備審議会住宅宅地分科会(分科会会長:八田達夫東京大学教授)は「新たな住宅政策のあり方について」の建議を発表し、公的直接供給重視・フロー重視から「市場重視・ストック重視」へ日本の住宅政策を大きく転換させた。2000年3月に導入された「定期借家制度」や「定期借地制度」の積極的活用と普及促進を促すと同時に、「賃貸市場」について「持主が安心して貸し出せるように、管理会社が賃貸し、自ら転貸人となり借主に賃貸するサブリースが重要」と指摘し、ルームシェア制度の検討を行うよう提言している。市場重視の政策によって、弱者が切り捨てにならないようにと、住宅セーフティネットの再構築が強調された。

4、家賃保証会社・管理会社による「追い出し屋」問題の多発
 2000年代に入り、非正規雇用の労働者に対する派遣切りや失職に伴い、家賃の滞納で家賃保証会社や管理会社による鍵の交換や家財道具の撤去などの問題が多発し、悪質な貸主も含め「追い出し屋」の規制が大きな社会問題となった。2009年には国の審議会に初めて民間住宅部会が設置され、2010年1月に「最終とりまとめ」が発表されたが、家賃債務保証会社の適正化と民間賃貸住宅市場の活性化等が同時に審議されるなど意見はまとまらず、全く不十分な審議のまま10回の審議で終わった。審議会の委員には貸主側の委員が多く、審議会の構成の不公正さが指摘された。「おわりに」で「本最終とりまとめに基づき引き続き検討を具体的にすすめることを期待するともに、公的賃貸住宅も合わせ、住宅セーフティネットの充実について取り組むことを望むものである」と締めくくり、2016年の新たな住宅セーフティネット検討小委員会の設置につながっている。

5、50年を経て様変わりした借地借家問題
 ・バブル崩壊以降、政府の住宅政策が景気浮揚策で持ち家政策に一層傾斜する中で、借地借家人の中には自ら土地や住宅を所有することで、住宅問題の解決に向かった人もいた。借地借家のトラブルから逃れたいという理由が土地や住宅取得の大きな動機にもなっている。
 ・借地人の第2世代、第3世代の中には持ち家を取得している人が多くなり、借地を必要とせず、「地主に返還したい」、「借地権を買い取ってもらいたい」といった相談が増えてきている。
 ・地主の中には、借地で貸している土地は自ら利用できない、相続税の負担増等を理由に土地(底地)を底地買い業者に売却する事例が首都圏で急増している。底地買い業者は地主から安く土地(底地)を買取り、借地人に高く売りつけ暴利をむさぼっている。「借りたものは返せ」と脅迫する業者が「ブラック地主」として登場し、東借連は弁護団と協力し、「ブラック地主・家主」対策弁護団を設立し、記者会見を行いマスコミにもこの問題が報道され社会問題となった。底地買い業者は、昔の地上げ屋タイプから株式上場会社まで様々な不動産業者が参入し、底地買いがビジネスとなっている。借地人は不動産業者が地主となったことで、毎月集金に来て、「買うか借地権を売るか」二者択一の選択を迫られ、借地を借り続けることに不安を感じ、無理をして底地を買い取ったり、借地権を売却する事例が増え、借地の減少が止まらない。買取りが出来なくて組合に加入して頑張る借地人も増えている。
 ・持ち家の所得を断念した借家人の多くが、古い老朽化した借家に住み続けている。家主の中には、老朽借家の修理をせずに、「立ち腐れを待っている」ケースもあり、取り壊しを理由に借家人の修繕要求にも応じようとしない。一方、老朽化した借家は取り壊され、鉄筋の賃貸マンションに建て替えられ、家賃も高額となり、空き家が増えていても家賃は高値のまま据え置かれている。老朽借家に住み続けていた借家人は、家賃の支払いの限度内で支払いが可能な賃貸住宅を選ぶため、従来より狭い住宅か再び老朽借家を選択せざるを得ない。また、明渡しを請求されても、一人暮らしの高齢借家人は転居先がなく、適切な住まいを確保できない状況が生まれている。
・2008年のリーマンショック以降、従来多く相談が寄せられた地代家賃の値上げ、更新料、明渡し等の相談は大幅に減少してきている。かわって、借地権の譲渡や売却、借地の底地買い・地上げ、借家の退去時の原状回復、建物の修繕・管理、近隣トラブルや契約更新時のトラブルが増えてきている。また、組合員の高齢化も進み、地代や家賃の支払いが困難となり賃料の滞納が発生したり、借地借家人の生活が困窮化し、生活相談が目立つようになってきた。

6、民間借家契約の不合理な慣行、管理会社・保証会社、サブリース契約
@礼金・更新料・更新手数料など悪しき慣行

 礼金・更新料など一時金を借主から徴収する貸し手市場時代に始まった日本の悪しき慣行がいまだに続いている。元々法律的根拠のない更新料については、2011年7月の最高裁で、「賃料の補充ないし前払い、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的性質を有する」と意味不明な理由で更新料の請求を限定的に認めている。しかし、更新料については、東京や関東などごく一部であるものの、大阪や兵庫など全国的には請求される事例はごく限られている。更新料の実態は不動産仲介業者が貸主から半額をバックされ、業者の収益になっている。契約書の作成など更新手数料に至っては依頼者である貸主から徴収するべきものを依然として借主から月額家賃の半額程度とっている。賃料・敷金以外の一時金の徴収は禁止すべきである。また、不動産業者の仲介手数料は宅地建物取引業法(以下宅建業法という)では借主・借主から家賃の半月分を取っていいことになっているが、ほとんど何らの説明もないまま借主から1か月分を徴収している。
A不動産業者の契約更新や管理行為に適用できない現行宅建業法
 現行の宅建業法は、賃貸住宅の仲介時に適用される法律で、仲介した以降の更新や管理、契約終了時の退去手続きなど宅建業法の適用外とされている。しかし、現在ほとんどの貸主は家賃の徴収や建物の管理、トラブルの対応など全て管理を不動産業者に依頼し、不動産会社に管理会社を置いて対応している。貸主はオーナーとなり、毎月管理会社から家賃のみが振り込まれ、管理は不動産業者まかせのために様々なトラブルが発生している。賃貸借契約書は無数の義務を借主に負わせ、貸主の責任は回避されている。中には借地借家法や消費者契約法に違反する脱法契約も横行している。宅建業法の見直しが必要であり、管理会社については義務的登録制にして、国や自治体が監督・指導ができるようにすべきである。
B家賃債務保証会社は義務的登録制にして、国の監督・指導の強化を
 家賃債務保証会社については、家賃の滞納を理由に借家人を追い出し、かつてのサラ金業者並みの深夜早朝の家賃の取り立て、鍵の交換、借家人の家財道具の処分などの悪質行為が続発し、追い出し屋と呼ばれ、社会問題となった。追い出し屋規制法の制定が国会でも議論となり、参議院で2010年4月に可決されたが、不動産団体の反対運動で衆議院では審議されず廃案になった。しかし、いまだに追い出し行為はなくならず、裁判で損害賠償が認められる事件が発生している。保証会社については任意の登録制ではなく、義務的登録制にして国や自治体が厳しく監督・指導できるようにすべきである。
 最近では、さすがに鍵交換等の悪質な事件は減っているが、賃貸住宅の入居審査は大変厳しくなっており、賃借人は預金通帳の写しの提出まで求められるケースもあリ、審査は理由も示されずに落とされる事例もある。連帯保証人がいても、保証人の収入証明まで提出を余儀なくされ、年金生活の親では保証人と認めてもらえない。親族などの緊急連絡先はどのような借主でも必ず付けないと契約ができない。保証人がいても家賃債務保証会社との保証契約を強要されるなど、弱い立場の借家人は単身者や高齢者等の入居拒否も含め、賃貸住宅の入居のハードルが高くなっている。一度保証契約を締結すると初期の保証料金(月額家賃の半額程度)、保証契約の更新料(月額1万円から家賃の○○%)を支払い続けなければならず、家賃を滞納するとブラックリストにも載せられる。また、家賃以外に入居時に「鍵交換代」、「事故があった時の24時間サポート」「室内消毒費」など訳の分からない付帯サービス料を付けさせられお金を取られ、さらに2年ごとの更新料と合わせると家賃以外の諸費用が生活弱者の生活を苦しめている。
C民法改正で連帯保証人の極度額設定で個人保証が困難に
 民法の債権法が改正され、2020年4月1日に施行される。賃貸借契約では賃貸借契約終了時の敷金返還や原状回復に関する基本的なルールが明記されるなど現在の定着した裁判判例などを基に改正した部分も多く、合理的な改正部分もある。但し、保証契約に関しては個人が保証人になる契約「根保証契約」では、保証人が責任を負う極度額を定めないと保証契約は無効となるため、民法改正に合わせて今後の賃貸借契約に連帯保証人の氏名と極度額が定められる。極度額は賃貸人側から一方的に定められると、滞納賃料以外に賃借人の過失による建物の損傷や死亡等に伴う損害額などを予想して相当高額な極度額が設定され、個人で保証人を立てることが困難になり、保証会社を立てざるを得なくなることが想定される。昨年9月1日に提出した当会の標準契約書のパブリックコメントでは、@公的保証人制度にすべき。A連帯保証人の債務の極度額を明確にすべき。保証人への滞納状況の通知は特約ではなく、標準契約書の条文に明記すべきとの意見を提出した。
Dサブリース契約の闇
 レオパレス21、大東建託など大手不動産会社は、オーナー(家主)に賃貸住宅を建てさせ、一括して借り上げ、入居者に転貸する「サブリース契約」で、トラブルが多発している。地主に節税対策などと巧妙なセールスを行い、「全室30年間借り上げ、空き室でも家賃保証し、地主に一定の家賃収入が入る」と説明しているが、オーナーの中には家賃を5年目以降から減額され、ローンの返済が家賃収入を下回り、破産するケースも起きている。借地借家法では近隣の家賃相場の下落、経済事情の変動等によって、家賃を減額できる規定になっており、「30年間の家賃保証」などありえない。大手不動産会社にとっては、賃貸住宅を建築してすでに収益を確保しており、オーナーが倒産しようがしまいが一向に困らない。かぼちゃの馬車のスマートデイズのシェアハウス問題も発生し、サブリース契約・サブリース事業とは闇の部分が余りにも多い。サブリースというオーナーも入居者もお互いに顔が見えないために、トラブルになりやすく、不動産会社の「食いもの」される恐れがある。サブリース契約に対する一定の規制が必要である。

7、なぜ日本の借家は貧しいのか、人間の尊厳にふさわしい借家政策に
@狭い・設備劣悪・家賃が高い賃貸住宅

 レオパレス事件の建築基準法違反事件に見られるように、賃貸住宅は「賃貸仕様」と呼ばれる安普請な住宅が多く、民間借家は住宅不動産業界の食いものにされている。日本の借家の面積は持ち家の4割程度で、アメリカでは70%、イギリスでは66%程度で持ち家との差は少なく、アメリカの借家の床面積113.6uに対して日本(東京)は平均46uしかなく、日本の借家の水準は異常といってよい。家賃も高く、低家賃住宅が少なくなる中、家賃負担率も年々高くなり、2009年の30歳未満の勤労単身世帯の住居費は女性で3割を超え、男性でも2割を超えている(総務省消費実態調査)。
A借家に対する住宅予算は貧弱、災害多発の時代こそ借家政策重視へ転換を
 持ち家に対する住宅ローン減税など住宅予算の手当も借家にはなく、ヨーロッパなどの多くの国で実施されている住宅手当や家賃補助などの政策もなく、持ち家までの「仮の宿」状態が長年にわたり放置され、借家政策を検討すらしなかった。さらに、持ち家を持つことが、「男の甲斐性」とされ、借家人は「甲斐性がない」と冷遇され続けている。しかし、災害が多発する時代に夢のマイホームも一瞬にして藻屑と化してしまう今、ドイツなどヨーロッパ諸国に見習って生涯借家暮らしをしても、安心して住み続けられる借家政策に切り替えが必要である。経済の低成長、所得の低下に伴って、持ち家率は低下し、「賃貸世代」が増えていく中で、持ち家を持つことを「人生の最大の目標」にする価値観の転換を。日本最古の災害文学である「方丈記」の作者鴨長明の生き方に学ぶ必要がある。
B公営住宅を根幹にした住宅セーフティネットの拡充強化を
 空き家を活用して住宅確保要配慮者など住宅弱者の入居を支援する改正住宅セーフティネット法が昨年成立・施行されたが、家賃低廉化(家主に対する家賃補助)のあるセーフティネット専用住宅の登録が進んでいない。東京都は2025年までセーフティネット住宅3万戸の目標の内、低額所得者など住宅困窮者が入居できる専用住宅の目標すら立てていない。住宅セーフティネットの根幹は公営住宅であり、市場重視の住宅政策をすすめる一方で低額所得者など住宅弱者の住まいの確保を民間賃貸住宅の空き家で活用することには無理がある。公営住宅は住宅困窮者の実態に対応して供給促進計画を明確に定めて供給を促進すべきである。また、セーフティネット法は家賃低廉化措置を条文に明記し、低額所得者向けの専用住宅の供給を義務付けた法律に改正すべきである。民間賃貸住宅政策については、不良住宅をなくすために最低居住水準の確保をはじめとする安全で良質な賃貸住宅を低家賃で入居できるように、良質な賃貸住宅を供給する家主に対しては建物への融資、税制上の優遇措置、借家人には住宅手当や家賃補助など住宅予算を抜本的に拡充すべきである。質の悪い賃貸住宅の空き家をこれ以上増やさないために、供給過剰なワンルームマンションなどの狭小な住宅の建築は規制すべきでる。
C本格的な家賃政策の確立を
 国土交通省は年収200万円以下の世帯のうち民営借家居住世帯の平均家賃負担率が37,3%と設定している。37.3%以上の高家賃負担の世帯は、年収100万未満では79%、100万〜200万円が40%、200万円〜300万円が10%と、収入が低い世帯ほど高家賃の割合が高い。高家賃負担が収入の37・3%以上という数字こそ異常であり、セーフティネットの対象を狭くするための設定で、家賃負担についてのまともな議論がセーフティネット小員会では行われている形跡はない。公営住宅の家賃負担率については、各収入分位の中間年収にそれぞれ家賃負担率として15%〜18%を乗じ、月額に換算することにより設定する(平成8年)とされた。全借連では民間賃貸住宅憲章案で適正な家賃負担率を15%とした。住宅団体の間でも、賃貸住宅の家賃負担率について議論が必要であり、国に対して家賃政策はどうあるべきか本格的な議論を促すべきである。

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