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役立つ裁判事例

通常使用に伴う損耗の修理費を賃借人負担とする特約が否定された事例

 賃貸借契約において、通常の使用に伴う損耗分の修繕等を賃借人の負担とする旨の特約は、賃借人がその趣旨を充分に理解し、自由な意思に基づいてこれに同意したことが積極的に認定されない限り、認めることができないとされた事例(大阪高裁平成5年11月21日判決、判例時報1853号99頁)
(事案の概要)
 賃借人は、特定優良賃貸住宅の供給の促進に関する法律(特優賃法)及び住宅金融公庫法の適用を受ける建物を賃借し、使用していた。
 そして、賃借人は、建物賃貸借契約終了に際して、賃借建物を返還したところ、賃借人から、建物の通常の使用に伴う損耗の修繕費(ふすま、畳表、クロス貼替費、補修費等)及び玄関鍵の取替費用を請求され、敷金から差し引かれた。
 これに対し、賃借人は、通常損耗分の修繕費及び玄関鍵の取替費用を負担することに同意したことがないと主張し、また、賃借人負担の特約は、特優賃及び住宅金融公庫法に違反し、公序良俗に反して無効であると主張した。
 原審の神戸地裁尼崎支部は、通常損耗分の修繕費及び玄関鍵の取替費用を負担するとの合意が成立していることは争いがないとし、また、特優賃法及び住宅金融公庫の精神にもとるとしても、公序良俗に反し無効であるとはいえないとして、賃借人の請求を棄却した。そこで、賃借人は、原判決を不服として、大阪高載に控訴した。
(判決)
 大阪高裁は、「賃貸借終了時における通常損耗による原状回復費用の負担については、特約がない限り、これを賃料とは別に賃借人に負担させることはできず、賃貸人が負担すべきものと解するのが相当である。そして、賃貸人が負担することは社会通念に合致する。しかも、通常損耗分に関するこのような取り扱いは、本契約当時、望ましいものと公的に認められ、その普及、言い換えればこれに反する特約の排除が図られていた。このような事情及び特優賃法及び住宅金融公庫法の規定の趣旨にかんがみると、本件特約の成立は、賃借人がその趣旨を充分に理解し、自由な意志に基づいてこれに同意したことが積極的に認定されない限り、安易にこれを認めるべきではない。」と判断した。
(短評)
 本件の賃貸人は、兵庫県住宅供給公社であり、これまで「修繕費負担区分表」及び「住まいのしおり」に基づいて通常損耗分について賃借人負担の取り扱いをしてきたもりである。
 本判決は、契約書とは異なる「修繕費負担区分表」及び「住まいのしおり」は、通常損耗分を賃借人の負担としない限度でのみ有効と解し、結局、本件特約が成立していないとして、原判決を変更し、賃借人の請求を認めたものである。

(弁護士 榎本武光)

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