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賃料増額請求権が5年の消滅時効により消滅したとされた事例

 賃料増額請求権が五年の消滅時効により消滅したとされた事例(判例タイムス五三五号二七四頁以下。名古屋地裁昭和五九・五・一五判決)
(事案)
 本件土地の賃料は昭和四五年四月一日当時一ヶ月当たり一万二〇〇〇円であった。
 賃貸人Xは右の賃料が不相当になったとして、昭和四八年一二月一三日到達の内容証明郵便をもって、翌年一月一日以降の地代を三・三平方メートル当り五○○円に増額するとの増額請求をしたが、賃借人Yがこれに応じなかった。
 そこで、Xは昭和五二年五月に賃料増額の調停を申立てた。その後、調停は不調となり、本訴を提起し、昭和五六年八月一日以降の賃料を三・三平方メートル当り1200円に増額する意思表示をした。この訴訟で、Xは昭和四九年一月一日以降の賃料が三・三平方メートル当り月額500円であることの確認を求めていた。
 これに対しYは、昭和四九年一月一日以降の増額請求のうち、訴状送達の日である昭和五六年七月三一日までに五年を経過した分については民法一六九条により時効で消滅したと主張して争った事案。Xの請求を一部却下。
(判旨)
 Xが最初に本件土地の賃料増額の意思表示をしたのは昭和四八年一二月一三日である。月単位の賃料債権は五年間行使しないことによって時効消滅するから、Yの右時効援用によって本訴提起(昭和五六年七月一四日)に五年以上隔たる賃料債権差額分は消滅したことになる。したがって、Xはこれをもはや請求し得ないのであるから、その金額を確定する利益がなく、則ちこの部分は訴えの利益を欠いて却下を免れないこととなる。
 Xが主張する、賃料額が判決によって確定されるまで消滅時効は進行しないとの立論は、一旦賃貸人が増額請求をすればその後どれ程放置しても訴提起に至るまで時効期間は進行しないという結果を招くに等しく、採用できない。
 Xは、X申立の賃料増額調停中にYが多少の増額には応じる旨の債務の承認をしたから時効は中断したとも主張するが、右調停はXの主張によれば不調に終わったというのであるから、民事調停法第一九条の趣旨に則り、その後に訴の提起がなかった本件にあってはこれに時効中断の効果を認めることはできない。
(寸評)
 判旨は当然のことである。この判決の後に、平成一○年八月三一日東京地裁の判決で、本判決と全く逆のものがあったことは、既に紹介した。
 長期間にわたり供託している組合員が結構多いことを見ると、本件と同様に、担当以前の地代の増額請求を受けることがあると思われるので、参考のために紹介した。

(弁護士 田中英雄)

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