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役立つ裁判事例

通常使用による建物損耗汚損の修復費は保証金の解約償却費に含まれる

 賃借人が通常使用することによって生ずる建物の損耗・汚損の修復費は、解約時の保証金の償却費のなかに含まれる(大阪高裁平成六・一二・一三判決。判例時報一五四〇号五二頁)
(事実)
 AはBから(1)保証金160万円、解約時に100万円を控除した額を返還する。(2)貸室内の建具、壁、天井床面その他貸室及びその関連する総てに対して、故意過失により損傷を与えたときは、別途に支払うという約定で建物を賃借していた。
 Aは契約後一年二ヶ月経過した時点で契約を解約し、保証金特約に基づき60万円の返還を求めた。Bは、Aが契約期間中に貸室内を損傷したため、その修復費用として60万円が必要であるとして、この原状回復支払債務60万円と保証金返還債務とを相殺する旨主張して保証金の返還を拒否。
 原審はBの主張を認めたため、Aが上告した事案である。
 本判決は、Bの主張する損傷が契約期間中のものかどうか疑問があること、損害特約にいう損失には、賃借人の通常使用により生じた程度の損耗、汚損は含まれず、これらの損傷は保証金100万円によって補償されていることを予定していること。補修に60万円を要するかどうか疑問があるとして原判決を破棄し差し戻し判決をしたものである。
(判旨)
 「本件特約にいう損傷には、賃貸人による賃借物の通常の使用によって生ずる程度の損耗・汚損は含まれないものと解するのが相当であり、特に契約における保証金160万円は、契約終了時には、約60パーセントにも当たる100万円を控除して返還するものとされていることからすれば、右のような通常の使用によって生ずる損傷、汚損の原状回復費用は右保証金かち控除される額によって補償されていることを予定しているものというべきである」
(寸評)
 本判決は、保証金の償却特約がある場合のものであり、結論は当然である。問題は償却特約がない敷金類似の保証特約とか、償却率が10パーセント程度の特約の場合についてはどうなるのか問題が残っている。原状回復義務の範囲をどこまで認めるのか、今日的な問題を考えるうえで参考までに紹介した。

(弁護士 田中英雄)

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