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役立つ裁判事例

借地人提供の地代を地主が内金として受領したことが受領拒絶に当たる

 地主が地代値上げ請求後、借地人から従前額の地代の支払を受けるに際し、これを内金として受領する旨通知したことが、原則として賃料全額の支払に対する受領拒絶に当たるとして、弁済の提供を欠く供託が有効とされた事例(東京地裁平成五年四月二○日判決、判明時報一四八三号五九頁)
(事案)
 地主が借地人に対して、従前額の約六倍の地代値上げ請求をしたところ、借地人はこれを不当と考え従前額の地代を銀行振込で支払った。ところが、地主は借地人に対し、右振込まれた従前額を増額請求した地代の一部として受け取る旨通知した。そこで借地人は、以後、地主に提供することなく、従前額の地代を供託した。その後、右土地の相続人から借地人に対し賃料不払を理由に借地契約を解除する旨意思表示をして、建物収去土地明渡請求訴訟を提起した。
(争点)
 地主が借地人に提供する従前額の地代を内金として受領する態度をとったことが受領拒絶に当たるかどうかである。
(判決の要旨)
 裁判所は、借地人は値上げを正当とする裁判が確定するまでは相当と認める地代の支払義務を負担するが、これは必ずしも客観的な相当な地代であることを要しないのであるから、相当と認める額の地代の支払いは債務の本旨に従った弁済であって一部弁済ではない。したがって、地主が地代の内金として受領する旨の意思表示をしたことは、特段の事情がない本件においては、地代金額の支払としては受領拒絶するとの意思を明らかにしたものと解するのが相当として、弁済の提供を要せずして受領拒絶を理由として直ちに供託をすることができ、地代不払の債務不履行はないとした。
(短評)
 賃貸人からの賃料増額請求に対し賃借人が相当賃料として従前額を提供したとき、賃貸人がこれを賃料の内金として受領すると主張する事例がしばしばみられる。この場合、賃借人としては、賃貸人から賃料の一部であると言明されながら、これを支払うことは、残りの賃料差額の支払義務を暗に認める結果になるのではないかと危惧し、他方では(一部とはいえ〉賃料として受領するという以上、強いて、これを持ちかえって供託をした場合その供託が有効かどうかと思い迷うものである。本判決は、賃貸人の内金受領の意思表示は賃料金額の支払としては受領拒絶の意思を明らかにしたものであると解したもので、賃借人にとっては、活用できる判決といえる。しかし、他方、裁判例の中には、増額賃料については裁判で確定するから従前賃料額を持参されたい旨の催告があったにもかかわらず、現実の提供することなくした供託が無効とされた例がある。(名古屋地裁昭和四七年四月二七日判例時報六八九・九二)裁判例が分かれている以上、実務的には、賃貸人が賃料内金として受領する場合には、賃借人としては、支払った上それが賃料全額であることを明確にしておくというこれまでの方針を引続きとるべきであろう。

(弁護士 榎本武光)

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