8月30日の衆議院議員総選挙の結果、自民・公明両党の連立内閣は歴史的な敗退を喫し、政権交代が現実のものとなりました。国民は「小泉構造改革」を主柱とする政治にはっきりと「ノー」をつきつけました。「構造改革」を推進したのは経済財政諮問会議と規制改革会議であり、総選挙結果はこの両会議の廃止と「改革」の白紙撤回を要求する国民の意思表明でもあると言えます。
日本の政治の新たな激動が始まろうとしているなかで、本日、借家人団体で構成する借地借家法改悪反対全国連絡会は、定期借家制度問題について学習交流会を開き、その問題点について理解を深めるとともに、政府の定期借家契約拡大政策に反対して、運動を進めることを申し合わせました。各団体のみなさん、国民のみなさんが、この運動に積極的に参加してくださるようよびかけます。
定期借家制度は、借地借家法「改正」推進派の意を受けて、1999年に議員立法によって創設されました。私たち借家人団体をはじめ法曹界、学会の反対により、借地借家法一部改正法案が法務委員会で廃案になったにもかかわらず、推進派は「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」案に定期借家制度創設を盛り込み、衆参両院建設委員会で可決するという奇策に打って出て、成立させたものです。
日本経団連はじめ推進派のねらいは、借家人の居住継続を支え居住権のかなめである正当事由制度を緩和し、借家をめぐる「紛争」を減少させ、借家市場の流動化・賃貸不動産市場の育成にあたり、なによりも民間借家への普及・拡大をめざしてきました。しかし皮肉にも、民間市場ではほとんど普及せず、国土交通省が2007年に不動産業者を対象におこなったアンケート調査(回答率25%)によっても、定期借家の契約実績は新規契約全体の5%にすぎないという実態なのです。
借家人は契約の継続に期待し、地域に溶けこみ根を下ろして市民生活を営み、そこで子育てをして老後を生きています。その継続保護、安定こそが居住の命であり、コミュニティ形成の礎をなしています。定めた期間の満了をもって問答無用に解消する定期借家契約は、居住の本質を踏みにじり、借家人にきわめて不利・苛酷なもので、生活と地域コミュニティを破壊するものです。
ところが政府は、民間市場にそっぽを向かれているこの定期借家契約を、「期限付き入居」「定期使用住宅」「建て替え予定団地の空き家対策」等々の特定目的をかかげ、公的賃貸住宅利用の「不公平性」を理由に導入し、公営・公社住宅に続き公団住宅(都市機構賃貸住宅)に導入してきました。そしていっそうの拡大を図ろうとしているのです。
政府当局者は2000年時点では、定期借家制度は公営住宅には「なじまない」ことを明言し、2005年にも国会でその基本原則を再確認していました。しかし、財界が主導する規制改革会議の第3次答申(2008年12月22日)が公営住宅、都市機構住宅への定期借家契約の幅広い導入を打ち出しました。答申は公営住宅に関して「入居基準に関するチェックを定期的に行い、入居基準を満たさない入居者への住み替えを促す仕組みとして」「公営住宅の管理運営の円滑化の観点から」積極的な導入を提起しています。また、同会議は都市機構の賃貸住宅に関して、いまの77万戸が多すぎるので住宅の削減、敷地の民間売却をせよと主張し、第3次答申で「部分民営化」を迫り、2009年度の措置として全住宅の約2割を対象にすべて定期借家契約にすべきとしました。これらはそのまま閣議決定されました。
都市機構は閣議決定に従い、団地「再生・再編」方針を定め、引き続き定期借家契約の幅広い導入の実施方針を発表しました。規制改革会議は都市機構住宅への導入理由として「家賃改定等にともなうトラブルが解消」「退去要請など柔軟な対応が可能」をあげ、「紛争処理コストの大幅に下がる」と公言してはばかりません。居住者の借家権の無力化が住宅の削減・売却、民営化に必修の条件であることを示しています。
以上の経過のとおり、定期借家制度の実施のやり方もまさに暴挙といわざるをえません。私たちは定期借家制度に反対するとともに、その導入・拡大の方針の即時撤回を要求します。
定期借家契約導入をめぐる一連の動きは、わが国の住宅の貧困と政策の行き詰まりの現状を暴力的に打開しようというものであることを明らかにしています。公共住宅への押し付けは、「住宅」を一時使用の「施設」に変え、公共住宅制度を変質・消滅させます。私たちはいま、展望のない暴走にストップをかけ、住宅政策の抜本的転換を要求し実現していく重大な課題に直面しています。
定期借家の導入・拡大をやめさせ、制度撤廃を要求する運動を民主党政権に向けて強め、国民の居住を守るために、力を合わせて取り組みましょう。
2009年9月5日
借地借家法改悪反対全国連絡会
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