使用貸借契約は明確な合意がない場合があり使用期間の争いが多い
「建物の住宅ローン残額相当額の支払いと引き換えに改正前民法597条2項但書に基づく土地使用貸借の終了が認められた事案」
東京地裁令和3年6月24日判決
(事案の概要)
原告及び被告の父である亡A所有の土地上に、被告が亡Aと建物を共有し、亡Aとの間で土地使用貸借契約を締結していたところ、亡Aの遺言により土地の所有権及び使用貸借契約の貸主の地位を取得した原告が、改正前民法597条2項本文、但書及び民法594条3項により使用貸借が終了したとして、被告に対し、土地の明渡しを求めた事案
(判旨)
民法594条3項に基づく主張(被告の用法違反による契約解除)は、信頼関係を破壊する程度のものとは認められないとしつつ、次のように、改正前民法597条2項但書に基づく主張(使用及び収益をするに足りる期間の経過による終了)を認めた。
本件の使用貸借は、被告が亡Aの跡取りになるなどの前提を満たさなくなった事情からすれば、建物の存続を基準とする期間ではなく、被告が土地を明け渡すに相当な期間経過後に終了することが予定されていたというべきであり、被告が負担する本件建物の住宅ローン残額を考慮し、原告が被告に対して680万円(引用者注:住宅ローン残額とほぼ同額)を支払うのと引き換えに、改正前民法597条2項但書に基づく本件使用貸借の終了を認めるのが相当である。
(コメント)
使用貸借契約については契約書等の明確な合意がないことがほとんどであり、使用収益の目的や使用収益をするのに足りる期間について争いになることが多い。これらについては、実務上、契約当事者間の個別具体的な事情から認定されていくことになるが、本事例は、建物ローン残額相当額の支払いと引き換えに使用及び収益をするに足りる期間の経過による終了を認めた点に特徴があり、実務上参考になると思われる。なお、改正前民法597条2項但書は、改正後民法598条1項に対応している。
(弁護士 瀬川宏貴)