新耐震基準の建物明渡請求で立退料提供しても正当事由と認められない
借家で、大家から、建物の老朽化や耐震性を理由に建て替えたいから、更新拒絶や解約を言われることが増えているように感じます。
このような場合、大家からの明渡し請求に、正当事由があるか(大家と借主のどちらが建物を使う必要性が高いか、立退料の支払により大家の必要性が補完できるか)が問題になります。この点、老朽化や耐震性については、築年数によるところが大きく、特に、昭和56年に耐震基準が見直されたので、それ以前の「旧耐震」と「新耐震」で、耐震性に大きな差があります。昭和56年というと、42年前です。木造の建物であれば、大家が建て替えを考える時期でもあります。
今回、ご紹介するのは、私が担当した、築40年で新耐震の物件の明渡し請求の判決です(東京地方裁判所令和5年8月1日判決、大家側からの異議申立てはなく、確定しています。)。
この判決では、まず、大家の必要性について、「原告は、本件建物のような築年数の古い建物は今後も貸室としての競争力が相対的に低下していくといえることから、本件建物を取り壊し、新たに建物を建てることを計画しているところ、原告の目的や資産活用、土地の有効利用の観点からは、本件建物を時代の要請に沿った建物に建て替えることについても一定の合理性があり、原告が営利目的で本件建物を必要とする事情は一定程度認められる。
しかしながら、上記認定事実によれば、本件建物の現状は、原告が指摘する付属施設や設備等について、相応の不具合は認められるものの、建物の躯体部分に関する老朽化には当たらない程度にとどまっている。」としました。
また、借主の必要性については、「他方で、被告が、今後も本件貸室に継続して居住する必要性については、本件建物の立地する地域の住宅事情等に鑑みても、代替不可能であるとか、必要不可欠とまではいえないものの、原告の上記必要性との比較においては、なお相対的に高いものであるといえる。」としました。さらに、立退料については、「本件解約申入れは、原告による立退料の提示をもってしても、相当な立退料の支払により正当事由が補完され、これが認めらえるべきものとまでは言い難い。」としました。
今後も使える、良い判決だと思います。
(弁護士 種田和敏)