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更新料金額について明確な合意がない場合、具体的権利性は認められない

 更新料の支払合意について(裁判例比較)
 更新料の支払合意についての2つの裁判例を比較します。
 東京地裁平成27年2月12日判決は、賃貸借契約書に更新料の規定がない事案において、前貸主、前借主の間で、「賃貸期間の満了に伴って契約を更新する際には、更新時の相場により算出される金額の更新料を支払う旨の黙示の合意がされ」たと認定し、前回更新時にはその更新料支払合意に基づき更新料として780万円が支払われたことを指摘して、「その後の相続により、賃貸人や賃借人の地位が原告と被告にそれぞれ承継されたことに伴い、原告と被告にこの合意が承継され、存続されていることになるから、被告は、更新料支払合意に基づき、賃貸人である原告に対し、更新時の相場により算出される相当額の更新料を支払う義務がある」と認定しました。この判決は、「黙示の」更新料支払合意を認めた点、明確な金額もしくは基準の定めがない更新料支払合意の具体的権利性を認めた点、従前当事者間の更新料支払合意の相続を認めた点で、やや特異な判決といえるのではないかと考えます(なお、本件は東京高裁で和解により終結)。
 これに対し、ほぼ同時期に出された東京高裁平成28年5月25日判決は、賃貸借契約書に「契約が更新されたときは、乙は、甲らに対して、甲乙協議により定めた金額を更新料として払わなければならない」と記載のある事案です(また、前回更新時に500万円の更新料が支払われていました)。この事案の原審は、上記文言は「合意更新の際に当事者間の合意によって定められる更新料についてのみ規定したものと解すべきである」として、更新料支払義務を否定しました。この控訴審である上記東京高裁判決は、この原審判決の結論及び理由を維持しつつ、さらに以下のような踏み込んだ論証をしました。「いわゆる更新料条項は、一般的には賃貸借契約の要素を構成しない債務を特約により賃借人に負わせるという意味において、賃借人の義務を加重するものであるから、控訴人主張のように当事者の意思を当然に推定することは合理性がない」、「付言すれば、控訴人の主張によっても、更新料の額は当事者双方の協議によって定めるべきものであるから、その協議が調っていないという本件事実関係の下においては、控訴人の行使する237万2386円の更新料支払請求権が、具体的な権利として発生しているものとは解されない」。この東京高裁判決は、安易に当事者の意思を推定することなく、更新料の支払合意が「一義的かつ具体的」に契約書に記載されているかどうかを重視したと解されます。また、更新料の金額について明確な合意(金額・基準)がない場合、具体的権利性を認めることに消極的な立場をとったともいえます。
 最近は、借地契約でも金額・基準まで定めた更新料条項を散見しますが、多くは更新料条項がないか、あっても解釈が多義にとれるケースが多いです。参考にして下さい。

(弁護士 西田穣)