賃貸人がビル管理を十分に行わない場合、共益費は当然に減額される!
2020年4月の改正前の民法611条1項は、「賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したとき」に「その滅失した部分の割合に応じて」賃料の減額を請求することができると規定していました。
これに対し、改正後の611条1項は、「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合」で、それが賃借人の責任でないときは、賃料は、「その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて」、当然に減額されると規定しています。
東京地裁令和元年5月30日判決は、旧民法下の判決ですが、民法611条1項の趣旨により、当然に共益費の半額の減額を認めた判決です。同判決の事案は、以下のとおりです(一部簡略化しています)。
ビルの一部を賃貸していた原告会社が、賃借人である被告に対し、未払賃料等の支払いを求めたのに対し、被告会社が、原告がビルの管理を怠っており、空調設備がほとんど稼働しない状況が続いていること等を理由に、賃料の半額及び共益費の全額が減額されると主張するとともに、原告が管理を怠った債務不履行による損害賠償請求として、業務に支障をきたした損害及び移転費用を反訴請求した事案。
判決は、管理について賃貸人の義務違反を認定しつつ、賃料の減額については物理的に利用すること自体はできていたことを理由に認めず、共益費については、空調設備は共用部分の設備の中でも比較的大きなウエイトを占めていること等を理由に半額の減額を認めました。また反訴請求について、被告会社に生じた業務妨害、信用毀損等の無形損害として300万円、移転費用として約62万円の支払いを認めました。
賃貸人がビル等の管理を怠っているケースは相当数あると思います。このようなケースの対抗策として民法611条により賃料の一部を不払いとすることが考えられますが、上記の判決ではこれを認めないとしました。一方で共益費の半額の減額を認め、反訴請求として相当額の賠償金の支払いを命じたことに特色があると考えられます。上記の判決は、改正後の民法の適用のある事案でも、同種事案の参考となるものと思います。
(弁護士 瀬川宏貴)