借家人が高齢で転居先確保が困難であることを重視し明渡し請求を棄却
築80年の借家の明渡し訴訟で借家人勝訴の判決
借家人が高齢かつ単身で転居先の確保が困難であることを重視
(京都地方裁判所令和3年10月29日判決)
高齢者の住居確保の困難が大きな社会問題になっています。
本件の借家人は年金生活の77歳の単身者です。
判決は高齢者の転居先の確保困難を直視した借家人勝訴の判決です。
築80年の建物の補強工事は明渡しの正当事由にはならない
(1) 築80年の建物の耐震工事に経済的合理性はない。
この建物の現況は、一般診断法に基づく耐震基準をみたすための耐震補強工事には1000万円以上の費用を要するのに、建物の現在の経済的価値はごくわずかであり、耐震補強工事を行うことに経済的合理性はない、としました。
(2) 一般診断法における倒壊する可能性が高いの判定の意味
倒壊する可能性が高いとの判定は、あくまでも直下型の大地震を想定したものであり、倒壊する可能性が高いという判定をもって、直ちに本件建物が居住の用に供しえない評価することはできない、としました。
(3) 土地の有効利用は明渡しの必要性にならない
地主が共同住宅の経営が生計維持に必要不可欠である事情はない、としました。
高齢者の転居先の確保は困難
借家人は高齢かつ単身の年金者であり、一般的に転居先の確保及び新たな生活環境の構築が困難な状況である。
近隣に賃貸物件が存在するからといって転居先確保が容易であるとはいえない。
そして、借家人は裁判所での問答の円滑さや居住期間及び転居経験がないことに照らすと、77歳になってはじめて転居することの心理的ないし社会的な障壁は相当高い。
借家人はこの建物に引き続き居住する高度の必要性がある、としました。
(弁護士 黒岩 哲彦)