契約書に明確な増額基準があっても協議が必要で自動的改定は認めない
借地契約において、賃料の増減の基準を土地の公租公課の5倍と定めていた場合でも、契約条項の解釈により当事者間の協議が求められ、自動的に賃料を改定することを認めなかった事例(東京地方裁判所令和3年1月26日判決)
増額・減額を含め賃料の額を定めるにあたっては、賃貸人と賃借人の合意が必要であることは当然のことですが、合意の有無については、契約書がある場合、契約書の文言は非常に重要ですが、一見すると明確な基準が定められており、合意があったと考えられるケースでも、全体の解釈から合意に至っていないと判断されることがあります。本件事案において、借地の対象とされている土地の一部(以下「本件土地」といいます。)について、契約締結当初から商業目的建物が建築される予定でした。当時、本件土地の公租公課について、住宅用地特例が適用されていましたが、商業目的建物を建築すると上記特例が適用されず、公租公課の増額が見込まれていました。そこで、借地契約書には、「この契約の賃料が、物価の変動、公租公課の増減あるいは近隣の賃料に比較して、不相当になったときは,当事者協議のうえこれを改定することができる。ただし、増減の基準は、本物件に課税される公租公課の5倍とする。」との賃料の増減に関する条項が定められておりました。
その後、実際に商業目的建物を建築され、公租公課が増額したことから、賃貸人は、上記条項に基づき、これまで月額8万3977円であった賃料につき、月額52万8935円を支払うよう請求しました。しかしながら、裁判所は、契約書の文言は「「当事者協議のうえこれを改定することができる。」というものであるから、その文言上、賃料の増減について賃貸人及び賃借人による協議に委ねている。そして、同条ただし書は、賃料の増減の基準を公租公課の5倍とするというものであり、同条本文と合わせてみれば、同条は、全体として、賃料の増減については、公租公課の5倍相当額を基準として、賃貸人及び賃借人が協議して定めるとするものであると解釈するのが相当であって、賃貸人及び賃借人が協議しても合意できない場合に、公租公課の5倍相当額に自動的に改定されるとの内容を含むものとまで解釈することはできない。」と判断しました。このように契約書に明確な基準があるように思える場合でも、地代の増額請求等をされた際には、再度慎重に検討することが大切だと思われます。
(弁護士 穐吉慶一)