家主が契約解除せず滞納賃料を累積させた場合に保証契約は解除される
家主が賃貸借契約の解除及び明渡しの措置を行わず滞納賃料を累積させた場合、保証人による保証契約の解除を認めた事例(横浜地裁相模原支部平成31年1月30日判決事案の概要)
市営住宅の賃貸借契約において賃借人の母親が連帯保証人となっていたところ、賃借人に賃料の滞納があり将来も支払う見込みがないことが明らかな状況となった。連帯保証人が賃借人を退去させて欲しいとの意向を示していたにもかかわらず、家主は賃貸借契約の解除及び明渡しの措置を行わず、そのまま使用を継続させ滞納賃料等を累積させていた。賃借人の退去後、家主が保証人に対し滞納賃料等330万円余りの支払いを求めて提訴した。
判旨
本件の事案では、連帯保証人は、家主に対する一方的意思表示により、連帯保証契約を解除し、以後の保証債務の履行を免れることができると解すべきであるとして、連帯保証人が賃借人を退去させて欲しいとの意向を示した日に解除の黙示の意思表示がされたことを認めた。また、同日以後に家主が滞納賃料等を請求することは信義則上許されないとも判示した。
(コメント)
本件のように、賃料の滞納があるにもかかわらず家主が契約解除や明渡しの措置を取らないために、保証人の負う債務が過大となる事案があります。保証人は賃借人に代わって賃貸借契約を終了させたり明渡を行う権利はなく、自己の債務が増えていくのを防ぐ術がないという立場にあります。本判決はこのような保証人の立場に鑑み、賃貸人に保証契約上不当に保証人の債務が拡大しないようにする信義則上の義務があることを認め上記の結論を導いたものです。
2020年4月施行の改正民法において極度額の定めのない個人が保証人になる保証契約は無効とされ、保証人の責任は限定されることになりました。しかし、高額の極度額が定められた場合は、極度額の限定も意味をなさないため、上記と同様の事態は今なお生じうると考えられます。今回紹介した判決は今後も同種の事案の参考になるものと思います。
〈弁護士・瀬川宏貴〉