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無条件で借地権譲渡特約あり地主の介入権の行使を認めなかった事例

 借地契約において、借地権設定者が無条件で借地権譲渡を承諾する特約があったことから、介入権行使を認めなかった事例(東京高等裁判所平成30年10月24日決定。判例タイムズ1464号40頁)

 借地権者は、借地上の自己の建物を売却する際、同時に借地権も売却するのが一般的ですが、民法612条により、借地権を自由に第三者に売却することはできません。
 そこで、借地権譲渡に先立って、借地権設定者の承諾を得ておくのですが、借地権設定者から譲渡承諾を拒まれたとき、借地人は裁判所に対して譲渡承諾に代わる許可を求めることができます(借地借家法19条1項)。
 これに対し、借地権設定者は、第三者への借地権の譲渡をどうしても認めたくない場合、その対抗手段として自ら建物の譲渡及び借地権の譲渡を受ける旨の申立て(介入権の申立て)をすることができます(借地借家法19条3項)。
 ところで、借地契約において、借地権者が借地権を譲渡するにあたり、借地権設定者が無条件でかかる譲渡を承諾する特約があった場合でも、介入権の行使は認められるのでしょうか。これについて判断したのが本件です。
 本件事案における借地契約書には、「賃借人の都合により本件土地を転貸又は賃借人名義を変更する場合、賃貸人は新たな条件を付さないでこれを承認するものとする。」との内容の記載がありました。そこで、譲渡承諾を拒まれた借地権者は、借地権の譲渡承諾に代わる許可の申立てをし、このような特約があるのであれば、たとえ借地権設定者の承諾がなく借地権譲渡しても民法612条の解除原因にはならず、そのため介入権の申立ては棄却されるべきと主張しました。
 本件決定においても「同条3項の申立て(介入権の申立て)は、賃貸人が第三者への借地権の譲渡又は借地の転貸を阻止し得ることを前提とした対抗手段として認められたものであるから、あらかじめ借地権の譲渡又は借地の転貸についての承諾がされ、当該譲渡又は転貸が民法612条によって制限されず、賃貸借契約の解除原因ともならないような場合には、賃貸人は、第三者への賃借権の譲渡又は借地の転貸を阻止することはできず、借地借家法19条1項の申立てに対する対抗手段を認める必要はない。」とし、介入権の行使を認めませんでした。

(弁護士 穐吉慶一)