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借地借家法32条1項の「借賃を増額しない特約」が黙示の合意で成立していた事例

 借地借家法三二条一項ただし書の「借賃を増額しない旨の特約」について黙示の合意が成立していたとされた例(東京高等裁判所平28・10・19判決。判例時報二三四〇号)。
 来年一〇月から消費税が八%から一〇%に上がります。これは、建物賃料にどう影響するでしょうか。そのことを考えるうえで参考となる判例を紹介します。
 経済事情の変動等によって、賃料が不相当になった場合には、賃貸人には増額請求権、賃借人には減額請求権が認められますが、増額については、一定期間増額しない旨の特約があればこの請求権を排除することができます(借地借家法三二条一項ただし書き。地代については一一条一項ただし書き)。この特約が書面によってなされている場合(明示の合意)は問題ありませんが、そうでない場合にも一定の事情の下でこの合意が認められる場合があります。これを黙示の合意と言います。本件はそれを認めた事案です。
 (判旨)「本件賃貸借契約においては、平成九年四月に消費税率が三%から五%に引き上げられた際にその前後を通じて賃料総額は変っておらず、平成一五年頃賃料が改定された際も税込の金額とされ、平成二六年四月に消費税率が五%から八%に引き上げられてもそれに伴って賃料が増額されることはなかった。それに、本件賃貸借契約は、建物共有者両名と両名が取締役を務める株式会社との間に締結されたものであり、その後共有者の一人が死亡し当事者に変更があったが、賃貸人と賃借人との密接な関係が続いており、このような関係においては、賃貸人において、消費税の引き上げ分まで賃借人から徴収して僅かな損害を防ぐとの意図はなく、むしろ、円満な賃貸借関係を継続することが優先されたと考えるのが合理的である。これらの事情に鑑みると、本件賃貸借契約の当事者間においては、本件賃貸借契約の内容として又は本件賃貸借契約と密接不可分な合意として、消費税率の変更にかかわらず賃料総額を変えないという黙示の合意が成立していたものと認められる。」
 この判決は、当事者の関係、契約締結の経緯、賃料増額の有無等の事情を踏まえ、契約の合理的意思解釈に従ったものであって、正当と評価されます。消費税が上ったからといって当然賃料総額も上るわけではないことに注意が必要です。

(弁護士 白石光征)