建物が独立して存在し人が住んでいれば建物の『朽廃』には当たらない
建物の朽廃とは?
旧借地法第2条第1項但書は、借地契約の期間満了前でも建物が「朽廃」したときは借地権が消滅すると定めています。これに基づき、地主の側から、古い家屋に対し、「朽廃」を理由に建物を収去して土地を明け渡せという主張がされます。しかし、建物の「朽廃」というのはどういった状態をいうのでしょうか。建物の「朽廃」を否定した参考事例となる判例を紹介します。
最高裁判所昭和42年7月18日判決 「本件建物は、昭和16年頃建築されたものであって、昭和40年9月1日現在における建物の状態については、これを部分的にみるときは、その骨格部分ともいうべき土台、柱脚部及び外廻り壁下地板、屋根裏下地板等に相当甚だしい損耗があり、また、屋根瓦にも同程度の損耗があり、内部造作材も老化しているが、同時に、また1個の構成物である建物全体としてみるときは、自力によって屋根を支え独立して地上に存在し、その内部への人の出入りに危険を感ぜしめることはなく、局部的応急修理の上、維持保全の処置を講じるならば建物としての耐久力は安定且つ平衡性を維持し、場合によっては増大される状態にあって、いまだ社会経済的効用を失う程度に至っていない、というのであるから、本件建物は借地法にいう朽廃の程度には達していないものと解すべき」。
この判例の建物は、部分的にはだいぶ損耗が著しい状態にあったと推測できます。ただ、「自力によって屋根を支えて独立して(建物として)存在している」、「建物内部に入る際に、危険を感じることがない」といった点を理由に「朽廃」を否定しています。例えば、建物に誰かが居住している場合、居住している人は危険を感じながら居住を続けているということは通常あり得ませんし、建物が独立してきちんと建っていないと居住できませんので、建物に人が居住している場合、朽廃にはならない可能性が高いといえると思います。
他方、人が住まないまま建物が長期間放置されていたり、基礎や柱、屋根といった建物の主要構造部について全面的な補修が必要だったりする場合に、「朽廃」を認めているのが判例の傾向だと思います。
(弁護士 西田穣)