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共有建物の一部の持主による賃料増額請求を認めなかった事例他

 (判旨1)共有建物の一部の持主による賃料増額請求を認めなかった例及び(判旨2)消費税の税率変更があっても賃料総額を変更しない黙示の合意の成立を認めた例(東京高等裁判所平成28年10月19日判決・判例時報2340号72頁)

【事案の概要】
 地上5階建ビル。持分2分の1づつのAとXとの共有。双方が貸主でY会社の店舗・事務所として賃貸。ビルは、Aと相続人の関係にあったBとの共有だった。Bの持分を第3者Xが買い受けてAとXの共有。その後Xは、単独で、Yを被告として、平成27年5月以降の賃料を現行の月500万円から900万円に増額する請求をし、加えて消費税が5%から8%に上がったことに対応する消費税増加分(1年分約80万円)も請求に掲げて提訴。平成28年5月25日東京地裁判決。判旨部分につきX敗訴(原告請求棄却)。Xは控訴したが、控訴棄却。

【判旨1】東京地裁の判断内容を東京高裁がそのまま是認しているので、元の東京地裁判決の内容を示すと、「賃料増額請求権は、その行使によって賃貸借契約の重要な要素である賃料が一方的に変更されるものであることに照らすと、単に現状を維持するための保存行為とはいえず。共有物の利用等の管理行為(民法252条)に当たるというべきである」として、2分の1以上の持ち分を持たないXがした賃料増額請求は認められないとした。

【判旨2】建物共有者の間に相続人の関係があったAとBと共有の時代に消費税率の変更があったがそれによる地代支払総額の増額は行われていないことから総額を増加させない黙示の特約がAとBとの間にあったと認定し、Bからその持ち分を買ったXもこの黙示の特約に拘束されると認定し、Xの消費税増加分の請求を棄却した。

【コメント】賃料減額請求権の行使について、共有物の管理行為であり、共有物の持分の過半数によって行使すべきであって、過半数に達しない共有者の一部の者の行使は不適法であるとの点は、異論がないが、本判決はこのことに明確な法律判断を示したものとして意義がある。消費税の税率変更があっても賃料総額を増加させないという黙示の賃料不増額の合意があったとの認定は、この事案に即してのものではあるが、同種の事例に関して参考となるものである。

(弁護士 田見高秀)