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賃貸人の瑕疵(かし)担保責任を認めず賃借人の損害賠償請求が棄却された事例

建物賃貸人の瑕疵担保責任について
 皆さんは「瑕疵(かし)担保責任」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。「瑕疵」とはその物が本来そなえているべき性質をそなえていないこと、いわば欠陥があることを意味し、「瑕疵担保責任」とはその物にはそういう瑕疵がないことを保証するということです。
 瑕疵が目に見えるような場合には、それを見込んだ対応がとれますが、目に見えないような場合(これを「隠れた瑕疵」といいます)、例えば、購入した中古住宅が白アリに侵されていたとか、建築目的で買った土地に大量のガラが埋っていたとかの場合は、民法は、買主に、瑕疵が大きく契約をした目的を達することができない場合には契約を解除する権利、そこまで至らない場合は損害賠償を請求する権利を認めています。
 このような瑕疵は、物質的な欠陥ですが、例えば、マンションや居住用建物の売買契約において、居室内で自殺した者がいたとか、居室が長期にわたって性風俗営業に使用されていたとかなどは、心理的要素に基づく欠陥(心理的瑕疵)というべきもので、この場合も隠れた瑕疵に該当するというのが判例になっています。
 では、ネット販売営業の目的で賃借した事務所の住所が「振り込め詐欺」の金員送付先事務所として警察庁等のホームページに公開されていた場合、賃借人は賃貸人に瑕疵担保責任を問えるか。この事件で判決は、「本件事務所に心理的瑕疵があるといえるためには、賃借人において単に抽象的観念的に嫌悪感、不安感等があるだけでは足りず、嫌悪感等が事業収益や信用毀損等の具体的危険性に基づくものであり、通常の事業者であれば、本件事務所の利用を差し控えると認められることが必要である」とし、本件では、本件事務所に関連する振り込め詐欺についてテレビ、新聞などで報道されたわけではなく、警察庁のホームページを確認しなければ詐欺事件があったと認識するのは極めて困難であるなどとして、賃貸人の瑕疵担保責任を認めず、賃借人の損害賠償請求を棄却しました(東京地裁平27・9・1判決、判例タイムズ1422号)。
 賃借人としては、瑕疵担保責任問題に遭わないために契約の前に土地建物の来歴について十分注意する必要があります。

(弁護士・白石 光征)