耐震診断書で危険な建物とされても解約の申入れに正当の事由はない
耐震診断報告書と建物賃貸借契約解約申し入れの正当事由(消極)
―東京地方裁判所平成28年1月28日判決―
事案の概要 表参道沿いにある6階建てのビルで、地下1階と2階から6階は既に空き家になっており、現在は1階及び2階に店舗が入居しているにすぎない。賃貸人が賃借人に対して、耐震性能が確保されておらず、取り壊して建替えを行う必要があるとして賃貸借契約解約の申入れをし、借地借家法28条の正当の事由があると主張した。
耐震診断報告書 「耐震診断業務耐震診断報告書」は、本件ビルが国土交通省の「既存不適格建築物に係る勧告・是正命令制度に関するガイドライン」の「著しく保安上危険」な建築物であり「震度5強で倒壊」のおそれがある建築物に当てはまる可能性があるため、早急に耐震補強等の措置を講ずることが望ましいと結論した。
裁判所の事実認定 報告書は耐震診断をより一層安全側に立って審査された結果、「震度5強で倒壊」のおそれがある建築物に当てはまる可能性があるため、早急に耐震補強等の措置を講ずることが望ましいと判断した。しかし、報告書も、本件ビルの早急な取壊しや建替えを求めるものではなく、店舗内の利便性、機能性で支障が生じ、また、ビル全体の美観の点でも問題が生ずるものの、耐震性の問題については、補強工事によって対応できることを認めている。
解約の正当の事由はない
補強工事に過大な費用がかかり、賃借人も補強工事に消極的であって、大規模な補強工事をすることに費用対効果がないことが明らかであれば、ビルは社会的、経済的効用を失っているといわざるを得ない。しかし、賃借人は補強工事によって店舗内の利便性、機能性に支障が生じ本件ビル全体の美観が損なわれたとしても、本件建物の使用を強く望んでいるというべきであり、そのような意向は、本件建物の使用を必要とする賃借人側の事情に照らして不合理なものではない。本件ビルに対して補強工事を行うことに費用対効果がないということはできず、本件ビルはその社会的、経済的効用を失っていないと認めるのが相当である。解約の申入れに正当の事由があるということはできない。
(弁護士 黒岩哲彦)