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土地明渡し請求が不当訴訟を理由とする反訴請求が一部認められた事例

 借地契約があるにもかかわらず所有権に基づく建物収去土地明渡し請求に対し、不当訴訟を理由とする反訴請求が一部認容された事例(東京地裁平成28年10月21日判決)

1、事案の概要

 土地を取得した業者が、取得後約9か月で借地人に対し、所有権に基づく建物収去土地明渡し訴訟を提起したという事案。その後、無断増改築による解除の主張が追加された。ただし、増改築があった後に、前地主と借地人の間で借地契約の合意更新がされている。

2、判決要旨

 本件の事実からすれば、通常人であれば、前地主が増改築を承諾していたことを容易に認識できたというべきであり、原告もまたこれを認識したか、容易に認識できたというべきである。それにもかかわらず提起された本訴は、裁判制度の趣旨に照らして著しく相当性を欠くもので不法行為に該当する(損害として、慰謝料10万円と弁護士費用1万円を認容)。

3、コメント

 不当訴訟を理由とする損害賠償請求はハードルが高い。判例では、「提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合」に限り認められるとされる。本件は、その高いハードルを超えて反訴請求が認められたという点で参考になる事例である。

(弁護士 瀬川宏貴)