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老朽化理由の借家明渡請求事件で借家人勝訴、棄却どこで結論が別れたか

 借家建物につき家主が老朽化や耐震性能不足を理由に更新拒絶・解約申入をして借家人に立ち退きを求める案件が、私が関与したもので昨年営業者(店舗)のものが複数件あった。老朽化・耐震が絡む法律相談が増えていると体感する。借家契約での家主の請求認容判決一例と借家人勝訴の棄却判決一例を取り上げ、どこで結論が別れたのかを分析してみたい。
 (1) 家主の明渡請求を認めた判決(東京地裁平成二六・八・二九 出典ウエストロージャパン)
 義父の代からの理髪店。昭和三〇年代から営業。解約(平成二四年)時の家賃六万五〇〇〇円。坪数不詳。建物は築九〇年。木造二階建。一級建築士の調査報告(構造部分にかなりの劣化)が出ている。家主は取壊し後は,その敷地に鉄筋コンクリート造地上六階建ての賃貸マンションを建築することを計画。判決は、家主の計画に現実性があり、自己使用の必要性があると認められるが、他方、借家人も営業継続の必要性があるから建物の自己使用の必要性もあるが、代替物件で営業継続も可能だから、適正な価格の立退料によって正当理由の補完が可能と判断、家主申出の三〇〇万円の立退料に対して、借家権価格・設備更新費用・営業補償の一部として一〇〇〇万円(借家人算定は二四二九万円)の提供と引き換えに建物明渡を認める判断をした。
 (2) 家主の明渡請求を棄却して借家人勝訴とした判決(東京地裁平成二五・一二・二四 出典判例時報二二一六号七六頁)
 レストラン。昭和四一年築の建物に建築時から入店。平成二三年五月更新拒絶。家賃月五〇万円。鉄筋コンクリート五階建。レストランは一階。耐震簡単診断で〇・六以下、補強工事費に八五〇〇万かかるし、使用できない劣化した建物の維持費は負担であり、取壊し後は敷地部分を駐車場として利用することになる(家主主張)。家主の申出立退料は二九八五万円。借家人は三億数千万円。判決は、家主には、建物を取り壊したとして、その敷地につき、差し迫った自己使用の必要性があるとは認められないとし、壊さずとも耐震性改善は可能だから取り壊しは不可避ではないと判断、結局、家主の更新拒絶には正当理由がないとして、家主の明渡請求を全面棄却する判断をした。
【寸評】判決を比較すると家主自身の建物取壊後の土地利用計画の欠如が(2)判決を引き出す動因になっているように感じられる。この点は、立ち退きを求めてくる家主に対する反論の重要なポイントの一つである。

(弁護士 田見高秀)