建物の朽廃と特約違反を理由の土地明渡請求が認められなかった事案
「建物の朽廃および特約違反を理由とする土地明渡請求が認められなかった事案」(平成24年11月28日東京地裁判決)
1 事案の概要
借地人所有の建物は戦後まもなく建てられたが、平成23年の震災で外壁のモルタルが一部はがれ落ちた。借地人が外壁全体のモルタルを塗り固めたところ、地主が建物の朽廃、特約違反を理由とする解約解除により契約終了したとして、建物収去土地明渡を請求した事案である。なお、契約には「本件と地上の建物の増改築や大修繕をする際には予め賃貸人の書面による同意を得ること」との特約があった。
2 問題の所在
(1)本件建物が朽廃(借地法2条1項但書、借地法は平成4年7月31日以前に締結された契約に適用される。契約更新後も同じ。)し、借地権が消滅したか。
(2)借地人の修繕は特約に違反するか。
3 裁判所の判断
裁判所は以下の(1)(2)により地主の請求を認めなかった。
(1)「朽廃」とは、経年変化等の自然の推移により建物としての役に立たなくなった場合であり(大審院判決昭和9年10月15日)、本件建物は朽廃していない。
(2)「大修繕」とは、建物の主要構造部分の全部または過半を取り替えるなど、建物の耐用年数に大きく影響を及ぼす工事をいうので、本件修繕は「大修繕」にはあたらない。
4 コメント
建物の「朽廃」は基準が厳格なため認められにくい。また火災、風水害や地震により一挙に建物の効用を失い、取り壊しのように人為的に建物の効用を失わせたときは「朽廃」にはあたらないことも覚えておいておくとよい。
自分の所有建物といえども契約に大修繕を制限する特約がないか確認していただきたい。なお建物を堅固にするのは借地条件変更として原則地主の承諾を要するため注意して欲しい。
(弁護士 大竹寿幸)