建物の耐震性不足を理由とする借家の更新拒絶が認められなかった事例
今回ご紹介するのは、私が担当した建物の耐震性能不足などを理由とする借家の更新拒絶の正当事由が認められなかった裁判例(東京地方裁判所平成27年2月12日判決(判例秘書登載))です。
1、事案の概要
本件は、建物賃貸人が、近隣の一体の土地建物を購入し、共同住宅を建築すべく、本件建物賃借人(一人暮らし)を立退かせようとしてきたものです。
建物賃貸人は、本件建物購入後まもなく、本件建物の耐震診断を行い、本件建物の耐震性不足・老朽化による建替えの必要性、土地の有効活用等を主張して、裁判をしてきたのです。
なお、本件建物は築60年以上で、原告の提出した耐震診断書(精密診断法)によれば、構造評点(最小値)は0・47で、「倒壊する可能性が高い」とされました。
参考に、建築基準法の想定する
大地震動で、構造評点が、1・5以上で「◎倒壊しない」、1・0以上~1・5未満で「一応倒壊しない」、0・7以上~1・0未満で「△倒壊する可能性がある」、0・7未満で「×倒壊する可能性が高い」、とされます。
2、判決要旨
裁判所は、正当事由の有無に関し、(1)双方の建物の使用を必要とする事情を主たる要素と位置づけ、原告には本件建物又は本件土地を使用する切迫した必要性が認められないことから、(2)耐震性能等の従たる要素において、それでもなお被告に明渡しを肯定すべき相当程度の事情が認められなければ更新拒絶につき正当事由は容易には認めがたいというべきであるとしました。
そして、(2)本件建物の耐震性能の問題について、老朽化等によってみるべき構造的欠陥が生じているとは認められないこと、補修によって耐震性能の改善が可能であることなどから、耐震性能を理由にその取り壊しが不可避であるとまで認めることはできない等として、正当事由を否定しました。
3、コメント
近時、耐震性能不足を理由とし、建物建替えの必要性を主張して、立ち退きを求める例が多く、本新聞でも多くの事例が報告されていますが、双方の使用の必要性を中心に判断した上、補強の内容や費用等も総合的に判断し、建替え相当かどうかが判断されます。
本件のように、建物が倒壊する可能性が高かったとしても、それだけで更新拒絶が認められるものではありません。
(弁護士 長谷川正太郎)