耐震性能の欠如を理由とする更新拒絶の正当事由が否定された事例
耐震性能の欠如を理由とする更新拒絶の正当事由が否定された事例
(東京地方裁判所平成25年2月25日判決)
賃貸人の「耐震性欠如」と理由とする明渡請求裁判が増えており参考になります。
出来事 本件ビルは昭和56年4月に新築されました。賃借人は平成6年3月にビルの一部を店舗として賃借して焼き鳥店の店舗として使用しています。賃貸人は平成19年5月に賃貸借契約の終了に基づき店舗の明渡請求の裁判を起こしました。
「耐震性能欠如」による更新拒絶の正当事由の有無 最大の争点は賃貸人の更新拒絶の「正当事由」(借地借家法二八条)の有無でした。賃貸人は耐震性能に欠けることを理由に建替えの必要があると主張して証拠として「診断報告書」を出しました。判決は本件ビルの現況は新耐震基準による耐震性能を満たすものではないとしうえで、「診断報告書」においてさえ、建替えについては選択肢の一つとして挙げているにすぎず、本件ビルは現在なおその多くが既存している旧耐震基準のもとで建てられた建物と比較してビルの全体について耐震性能に著しく欠けた状態にあるとまではいえず、直ちに建て替えることが要求される建物とはいえないとしました。また新耐震基準に合わせるために必要最小限のものに限定すれば耐震補強工事に要する費用は3664万円で済み、賃貸人が算出した建替え費用の見積額2億1400万円と比較しても相当低額であるとして、老朽化の点はもとより、耐震性能の問題についても、それを理由として近い将来取り壊さなければ具体的な危険が生じる蓋然性が高いということはできないから直ちに建替えの必要が肯定されるものではない。耐震性能の問題については、これに対処する措置をとることが望ましいとはいえ新耐震基準に合わせるために必要最小限の耐震補強工事に限定すれば、その費用は比較的低廉な価額で済み、それ以上の工事を施したり、あるいは建替えによって対処したりするのであれば、それは必要な安全性を確保するというよりは、賃貸人の利益を図る側面が相当強くなると指摘しました。
以上
(弁護士 黒岩哲彦)