耐震力不足を理由とする解約申し入れを正当事由とは認めなかった事例
耐震力不足を理由とする解約申し入れを認めなかった事例
(東京高裁平成24年12月12日判決)
1、事案の概要
築40年を経過した建物を建替える必要性があることに加え、賃貸人は債務返済のために土地を売却する必要性があるので正当事由があるとして、賃貸人は賃借人に賃貸借契約の解約を申し入れ、立退料の支払いと引換えに建物の明渡しを求めた。
2、判決要旨
賃貸人の事情として、(1)建物は木造建築の耐用年数22年を大きく超えているが、大規模修繕しなければ居住できない状態ではない。(2)建築士会の耐震診断によると構造評点「0・96」で、木造建築が地震の際倒壊する可能性があるとされる「1・0未満」であるが、評点の差が少なく、耐力壁の補強により改善可能であり、その工事も比較的容易である。(3)多額の債務を負っているが返済は滞っておらず、土地を売却しなければならない差し迫った事情はない。賃料収入と修繕費等の収支状況から土地を売却したほうが利益があるという事情があるだけだとした。
賃借人の事情としては、(1)賃借人の家族は約19年間本件建物に居住している。(2)賃借人は心臓の手術を受け障害者手帳の交付を受けており、家族(子)からの生活費の援助で生活している。(3)賃料の支払いを遅滞したことや、遵守事項に違反したことはなく、賃貸人との間で契約をめぐるトラブルはなかった。
裁判所は、双方の事情を比較して解約申し入れの正当事由を否定した。
3、コメント
耐震力不足を理由とする解約申し入れは多いが、耐震補強工事により改善できる場合、耐震力不足だけでは正当事由は認められない。また、賃貸人賃借人双方の建物使用の必要性が正当事由判断の主要な考慮要素であり、賃貸人にその必要性がなければ、正当事由の補強として賃貸人から立退料の給付申出がなされたとしても、正当事由は認められない。以上
(弁護士 大竹寿幸)