自動改定特約による地代増額が不相当な場合地代増額の効果は生じない
地代等自動改定特約において、地代等の改定基準を定めるに当たって基礎とされていた事情が失われることにより、同特約によって地代等の額を定めることが借地借家法11条1項の規定の趣旨に照らして不相当となった場合には、同特約の適用を争う当事者は同特約に拘束されず、同項に基づく地代等増減請求権の行使を妨げられないとした事例(最高裁平成15年6月12日第一小法廷判決)。
借地人は、東京都板橋区内の私鉄駅前の土地に大規模小売店舗用建物を建築して大手スーパーを誘致することを計画し、昭和62年7月に地主との間で期間35年間の土地賃貸借契約を締結しました。この際、大手スーパーが入居する昭和63年7月以降の地代を月額633万余円と定めるとともに、当初地代額を3年後に15%増額し、その後も3年毎に10%ずつ増額するという地代自動改定特約が合意されました。この特約が合意された昭和62年7月当時は、バブル経済で東京都23区内の土地の価格が急激な上昇を続けていた時期です。
借地の地代は、特約に基づいて3年後の平成3年には15%、平成6年にはさらに10%増額されましたが、平成9年7月1日には、借地の価格は契約時の半額以下になっていました。そこで、借地人は、地代をさらに増額するのは不合理と考え、従前の地代額の支払いを続けるとともに、平成9年12月には従前の地代を20%減額するよう請求した、というものです。
最高裁は、冒頭のとおり述べたうえ、地価の動向が下落に転じ、当初の半額以下になった平成9年7月時点では、特約の適用を争う借地人はこの特約に拘束されず、地代増額の効果が生じたということは出来ない、と判断しました。
本判決は、借地借家法11条1項との関係から地代等自動改定特約の効力を論じた初めての最高裁判決です。なお、地代が不相当となった後、特約に基づいて増額された地代を支払った借地人が地主に対して不当利得として返還を求めることができるか、という問題が残りますが、特約の適用を争うことなく増額された地代等を支払ったときには不当利得になるとはいえないとの考えも示されており、今後の議論が待たれるところです。
(弁護士 大浦郁子)