他人の土地と知らずに借りた土地に賃借権の時効取得が認められた事例
今回、私が担当した、地主から建物収去土地明渡請求訴訟をされ、賃借権(借地権)の時効取得が認められた裁判例(東京地方裁判所平成25年11月29日判決(平成23年(ワ)第37310号))を紹介させていただきます。
まず、事案の概要を述べますと、借地人は、昭和30年よりAさんから土地を借りていたのですが(昭和33年建物建築)、Aさんから借りた土地には、Aさん所有土地だけでなく、一部、別の本件地主の土地が含まれていたことが昭和63年ころ判明したので、その地主に地代を支払い、平成元年頃より地代を供託してきました(このとき地主は不当に高額な金額での土地買取や権利金等を要求してきました)。
すると、近時になり、地主が地代増額の調停を起こし、借地人がそれに応じなかったところ、地主は借地人に土地を貸していないと主張して土地の明渡しを請求してきたのです。
ここで、賃借権の時効取得とは、10年又は20年の時効期間経過により賃借権を取得できるというもので、要件としては、①土地の継続的な用益という外形的事実が存在し、かつ、②それが賃借の意思に基づくものであることが客観的に表現されていること、が必要です。所有権や賃貸権限を有すると称する者から借りた場合等様々な類型があり、占有開始時の事情等総合的に判断されるものと思われますが、一般には、必ずしも真の所有者との間でなくとも、賃貸借契約と賃料支払の事実があれば、要件を満たしうるとされます。
今回の裁判でいうと、借地人が、真の所有者である本件地主所有の土地が含まれていることを知らずにAさんから土地を借りて、Aさんに地代を支払ってきたということが認められ、また、土地の形状や、これまで地主が明渡しを請求してこなかったことなどの事情を踏まえ、昭和53年に借地人は真の所有者にも対抗できる賃借権を時効取得したと判断されました(なお、裁判中にも地主側は権利金を要求してきていました)。
判例に沿った一事例判決ではありますが、本件のように、地主が違うということとか、契約書がないこと等を理由とする、地主の不当な要求に何でも応じる必要はない、ということを意識していただければ幸甚です
(弁護士 長谷川 正太郎)