土地賃貸借契約の慣習に基づく更新料請求が否定された事例
1 事案の概要
地主Aと借地人Bとの土地賃貸借契約(借地契約)には、更新料を支払う旨の明確な規定はなかった。しかし、地主Aと借地契約を締結している近隣33件のうち合計16件は文書又は口頭による更新料の支払に関する合意があり、また、不動産管理会社及びその担当者も同じであった。地主Aは、これらの事実などを根拠に、借地人Bとの間で、①更新に当たり相当額の賃料の支払う旨の明示または黙示の合意が成立していた、②本件土地を含む地域には更新料を支払うという慣習が存在する、と主張して、借地人Bに対し更新料の支払いを求めて裁判を起こした。
2 裁判所の判断
(1)明示または黙示の更新料支払い合意の有無について
裁判所は、「本件賃貸借契約書には、期間満了の際の被告による契約の更新の請求に係る記載はあるものの、更新料の支払に係る記載が一切存しない」として、明示または黙示の合意の存在は否定した。
なお、地主Aによる①②の主張については、「そのことから直ちに本件賃貸借契約において上記合意が成立していたものと推認することは困難である」として認めなかった。
(2)更新料に係る慣習の有無について
裁判所は、まず、地主Aと借地契約を締結する近隣の33件のうち、少なくとも3件については、更新に際して更新料の支払がされていないと認定した。その上で、「これらの更新料の支払に係る事情からは、本件各土地付近一帯において、地主Aの主張に沿う慣習が成立しているものと認めることはできない」とし、更新料請求を認めなかった。
3 コメント
借地契約における地主からの更新料請求は、借地契約上、更新料を支払う義務とその金額が明確に定められている場合や、更新料を支払う慣習(商慣習)がある場合などに限られます。とくに、更新料を支払う慣習があるとされる事例はごく稀です。本件も、裁判所は、近隣33件中、3件が更新料を支払っていないのだから慣習はないと認定しましたが、仮に、33件全てが更新料を支払っていたとしても、当然には慣習があるとはいえないでしょう。
地主側は、契約書上、更新料の支払義務が明確に定められていない場合でも、「私から土地を借りている他の皆さんは全員(もしくは多くが)更新料を払っています。だからあなたも当然更新料を払う必要があります。」と言って、更新料を請求してくることがよくあります。しかし、更新料を支払う必要があるのはごく限られた事例ですので、請求されたら組合に相談するなど慎重に対応すべきでしょう。
(弁護士 松田耕平)