借地契約上の無催告解除特約による契約解除の効力が否定された事例
借地契約上の無催告解除特約による解除の効力が否定された事例(東京地裁平24・1・13判例時報2146号)
(事案)
(1)地主XはAに対し、本件土地を建物所有目的で、期間平19・12・1から20年間、賃料月額13万6060円で賃貸した。(2)この借地契約には、(1)賃料の滞納額が2か月分に達したとき、(2)Aにつき競売、破産があったときには、Xは無催告で契約を解除できる旨の特約があった(無催告解除特約)。(3)平21・8・3 Aは破産宣告を受け、平22・5・17本件建物について競売開始決定があった。(4)Xは、平22・6・11 Aに対し、同年4月分と5月分の賃料が破産管財人からもAからも支払われなかったことを理由に本件借地契約を解除した。(5)Yは平23・1・4競売代金4533万円余りを納付して本件借地権と本件建物を取得した。(6)そこでXは新賃借人Yに対し、建物の収去と土地の明渡を求めて提訴した。
(判決要旨)(1)賃料不払を理由とする解除について
無催告解除特約は、催告をしなくても不合理とは認められないような事情が存する場合には、催告なしで解除権を行使することが許されるとの趣旨の約定として有効である。これを本件についてみると、滞納額2か月分27万2120円は競売代金4533万円余りに比し僅少であること、未払期間は半月から1か月半程度と比較的短く、それ以外に賃料不払いはなかったこと、抵当権者(競売申立人)は裁判所から地代代払許可を得た上で、X側に対し、本件解除前に地代代払の意向を何回も電話で伝え、平22・6・22には遅延損害金も含め全額供託し、その後も供託をしており、背信性は認められない。また、XがAに賃料支払の催告をすれば、Aを通じて借地契約解除の可能性があることを抵当権者が知り、賃料の代払いをすることも十分考えられるのであるから催告をする実益がないとは言えない。以上によれば、賃料支払の催告をしないことが不合理とは認められないような事情があったということはできないから、本件解除は無効である。
(2)破産または競売を理由とする解除について
破産又は競売を理由とする無催告解除の特約が事情の如何を問わず無条件に賃貸人に契約解除権を認めるものであるとすれば借地借家法9条(借地権の存続に関する借地借家法の規定で借地人に不利なものは無効)により無効である。この点についても1と同じ理由で、無催告で解除しても不合理であるとは認められないような事情があるとも言えないから、本件解除は無効である。
(寸評) この判決は、借地・借家契約書にほとんど必ずと言ってよいほど記載のある無催告解除特約について、確立された判例理論に従うものであり、もとより正当である。要するに、無催告解除の特約をそのまま適用すれば不合理である場合はその効力を認めないというものである。「特約」に怯えることはない。
(弁護士 白石 光征)