管理会社従業員の不法な追い出し行為に165万円の賠償が認められた事例
本件は、賃貸人から貸室の管理を委託されている管理会社の従業員が、当該貸室内にあった賃借人の家財道具等を搬出し、玄関鍵のシリンダーを交換して賃借人を追い出した行為(以下「本件行為」と言います。)について、(1)管理会社の当該従業員の不法行為について管理会社に使用者責任を、及び(2)賃貸人に共同不法行為責任を認めた事例です(大阪高裁平成23年6月10日判時2145.32)。
賃借人は本件貸室を賃料月額3万5000円で賃借したものの、平成21年5月からの6か月分の賃料を滞納しました。これに対し管理会社は「入金の無い場合は、鍵をロックして解約させていただきます」との督促状を3回に渡り送りつけました。賃借人は当時、失業中であり、同年9月には生活保護開始決定を受けました。そのような中、同年10月、管理会社の従業員(賃貸人の子でもある)は、同行したリフォーム業者とともに本件行為に及びました。
大阪地裁は、本件行為につき不法行為を認め管理会社の使用者責任を肯定したものの、賃貸人の共同不法行為責任を否定しました。また損害として、家財道具について4万300円、慰謝料として15万円の限度で認めたにすぎませんでした。
控訴審である大阪高裁は、原審同様、従業員の本件行為が不法行為に該当するのは明らかとし、管理会社の使用者責任を肯定しました。
他方で原審と異なり、賃貸人が本件貸室を含むマンションの所有者であり、管理会社に管理を委託し、本件賃貸借契約について管理会社にその管理権を行使するのに必要な代理権を包括的に授与していたこと、従業員が賃貸人の子であり、賃貸人が管理会社の取締役に就任していることを考慮し、管理会社が賃貸人から授与されていた包括的な代理権に基づき、賃貸人の子が管理会社の従業員として本件行為に及んだことについて、賃貸人も事前に包括的な承諾を与えていたと認められるとし、賃貸人の共同不法行為責任を認めました。また損害については、家財道具の損害について詳細に検討し計70万、慰謝料についても80万円を認容し、弁護士費用15万円とあわせ合計165万円を認めました。
上記引用判例時報の判例解説では、違法な自力救済(賃貸借契約が解除されている場合の実力行使)、違法な不動産侵奪(賃貸借契約が解除されていない場合の実力行使)が社会問題になるほど頻発しているとし、その違法はいうまでないことであり、「私人間の紛争であっても、法治国家である以上、その責任の厳然とした追及とその防止に向けた毅然とした対応とが求められるはず」(引用判時33頁)としています。
このような中、上記事実関係をもとに共同不法行為責任を認めた点は、裁判所として本件問題に「毅然とした対応」を示したものと言えるでしょう。そもそも法治国家である以上、違法な実力行使が許されるわけでないことは言うまでもないことです。また本件の賃借人のような状況に置かれている人は、いまのご時世、決して珍しくありません。本件行為はその弱みにつけ込む行為とも言えます。「厳然とした追及」と「毅然とした対応」がなされた事案として紹介します。
(弁護士 枝川充志)