増改築禁止特約に違反しても契約解除が認められなかった事例
増改築禁止特約に違反しても契約解除が認められなかった事例。【最判昭和41年4月21日民集21巻4号720頁】
増改築禁止特約とは、通常、借地上の建物につき増改築する場合には予め地主の承諾を要し、違反した場合は催告なしで契約解除できるという特約です。このような特約に違反すれば債務不履行(契約違反)として契約の解除が認められそうです。しかし、継続的な契約である借地借家契約においては、賃借人に債務不履行があったとしても、債務不履行の内容が当事者間の信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない事情がある場合には、賃貸借契約の解除は認められないとの理論(信頼関係破壊理論)が判例上確立しています。この理論は賃料不払いや無断転借の場合にも採用されています。
判例の事案は、建物1階の根太(床の下地部分)及び柱を交換し、2階部分を取り壊したうえ、従前より広い2階を増築したというものです。
1審では解除が認められましたが、控訴審では、「この程度の修理は家屋の維持保存のため普通のことであるから特約をもってこれを禁止することはできない」とし、2階の増築については「この程度の増築は借地の効率的利用のため通常予想される合理的な範囲を出ない」として特約に基づく解除は認められないとし、最高裁も控訴審の判断を支持しました。
ところで、この特約は建物の増改築をする場合の特約ですから、工事の内容が建物の維持保全を目的とする修繕工事にとどまるのであれば、増改築禁止特約には違反しません。
また、増改築禁止特約がある場合で、「土地の通常の利用上相当とすべき増改築につき当事者間に協議が整わないとき」は、裁判所に地主の承諾に変わる許可を求めることができます(借地借家法17条2項、借地法8条の2第2項)。しかし、修繕については地主の承諾に変わる許可が予定されていませんので、修繕工事に地主の承諾を要するとの特約は、上記規定に反する借地権者に不利な特約として無効と解されます(借地借家法21条、借地法11条参照)。
他方、「修繕」か「増改築」か微妙な場合、まずは地主の承諾を求めて協議し、協議が整わない場合には裁判所に地主の承諾に変わる許可を求めることをおすすめします。以上
(弁護士 大竹寿幸)