東京借地借家人組合連合会（過去のページ）

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2000年12月15日
第405号

敷金を取戻す
国分寺市の津田さん

清掃代と畳の表替料金　家主は敷金から10万円差引要求

　国分寺市東元町一丁目の賃貸マンション2ＤＫを借りていた津田宏志さんは、今年の9月に退室した。
　平成7年に入居し約5年間生活していたが、どこも破損させたところもなく、あえて言えば換気扇の清掃が不十分だったぐらい。敷金は21万6千円預けてあった。退室時には立会わず後で精算すると言われた。不動産業者からは、その後「換気扇の掃除をしておらず、それを含めた部屋のクリーニング代、さらに畳6帖分の表替え代として10万円を敷金から差引く」との連絡が入った。
　津田さんは不動産業者に強く抗議したが「クリーニング代と畳表替えで10万円は確かに高いと思うが、家主が中々強情で話ができない」との返事だった。津田さんは両親が大阪で借地借家人組合の組合員であることから、東京の組合を紹介された。早速組合から家主に内容証明郵便で敷金の全額返還を請求し「返金なき場合は裁判所に敷金返還の訴訟を申立てる」と通知したところ、不動産業者から連絡が入り、清掃代は2万円で話が付き、残額19万6千円が返還された。

明渡を拒否

家主のアパート建替明渡請求に
正当事由がないと断固拒否　板橋区

　板橋区中板橋の鈴木さんは、このアパートに住んで50年近くになる。
　隣に住む家主とは古い付き合いで、トラブルらしいことは一度もなかった。
　建物は古く、一部にヒビも入っていたが、2年前に契約更新して、来年の4月まで期間があった。
　ところが、建物を相続した子供達が6月に「建替えるので、明け渡せ」と言ってきた。鈴木さんは、契約の残存期間もあり、争いごとは好まないので、そのうち引越そうと思っていた。
　しかし、家主は不動産屋を介して「引越料は出さない、来年早々に明渡せ」と強く言われた。
　困った鈴木さんは、借地借家人組合に相談した。組合では早速「明渡請求には正当事由が無い。建物は古いが住めないわけではない」と、家主に通知をした。
　家主は、内容証明郵便で、昭和19年の大審院判例などを挙げて争う旨、通知してきた。
　その後、組合が代理人の不動産屋に「2年前にはまだ住めると言って契約を更新した」ことなどを指摘すると、「申し訳なかった。鈴木さんが希望する家賃の20ヶ月分の支払には応じますので、話し合いをまとめてください」と譲歩してきた。
　鈴木さんは「一時はどうなることかと思ったが、組合にお願いして助かりました。私のような者が安心して住めるような世の中にしてください」と語った。

隣人が明渡を迫る　大田区

　大田区西馬込一丁目所在の木造二階建て建物を長年、作業所兼居宅として借りている上岡さんは、この建物の所有権を平成4年に隣人が買取った。
　新家主は、自己居住用に購入したので、すぐに明渡せと請求された。上岡さんは、家主の明渡請求を拒否して、そのまま住み続けていたが、昨年8月に再び明渡を求められ、知人の紹介で組合に加入した。家主の「自己居住用として購入した」ことを強調しての執拗な明渡請求に対して、上岡さんは、組合を通じて「明渡拒否」を通告した。家賃は受領を拒否されたため供託している。
　この程、調停裁判の呼出状を受取ったが、上岡さんは年末を迎えて多忙なため、期日を延期し、次回調停から応じることにした。
　上岡さんは、家主を子供の頃から知っているにも関わらず、入居者を無視し借家人の権利を踏みにじる理不尽な行為に、怒りを新たに臨む決意をしている。

自然損耗の負担義務は無い　台東区谷中

　台東借組の組合員山田さんは今年4月、台東区のマンション（家賃12万円・敷金24万円）から引越すことになり、家主に敷金の返還を要求したところ、不動産屋を通じて契約書の連帯保証人である弟宛に内容証明郵便で原状回復費用48万円を請求してきた。兄弟関係が拗れて悩んだ挙句、組合に相談した。
　原状回復に対する裁判所の考えは次のようなものだ。「建物賃貸借契約に原状回復条項があるからといって、賃借人は建物賃借当時の状態に回復すべき義務は無い。賃貸人は、賃借人が通常の状態で使用した場合に時間の経過に伴って生じる自然損耗は賃料として回収しているから、原状回復条項は、賃借人の故意・過失、通常でない使用をしたために発生した場合の損害の回復について規定したものと解すべきである」（東京簡裁判決・Ｈ7・8・8）。通常の使い方をしていれば、原状回復費用を借家人が払う必要はないという結論になる。
　そこで、組合では家主に対して「(1)連帯保証人への請求中止。(2)原状回復費用負担の拒否。(3)敷金（年利5％を付して）の即時返還。」という趣旨の通告をした。

■判例紹介

建物の転貸人の転貸賃料債権に抵当
権者の差押が認められなかった事例

　抵当権が設定されている建物の賃借人（転貸人）が転借人に対して有する転貸賃料債権について、抵当権者がなした抵当権に基づく物上代位による債権差押命令の申立が認められなかった事例（最高裁判所第二小法廷平成一二・四・一四決定。判例時報一七一四号六一頁）

（事案の概要）
　ＸはＡ所有の建物（以下本件建物という）に根抵当権を設定したが、その後、ＹがＡから本件建物を賃借し、Ｙはさらに本件建物をＢに転貸した。Ｘは、ＹがＢに対して有する転貸賃料の支払請求権（転貸賃料債権）について根抵当権に基づく物上代位による債権差押命令を申立て、この申立が認められた。そこで、Ｙは、この債権差押命令に対して不服申立（執行抗告）をしたが、原審は、抵当権設定後の賃借人が抵当不動産を転貸した場合、抵当権者は、転貸賃料債権に対しても抵当権に基づく物上代位権を行使できるとして抗告を棄却したため、Ｙは、右抗告棄却決定には法令違反があるとして最高裁判所に執行抗告の許可を申立てた。
（判決）
　本判決は、(1)民法三七二条で抵当権に準用される同法三○四条一項の「債務者」には、原則として、抵当不動産の賃借人（転貸人）は含まれない。規定の上からもそうであるし、所有者は被担保債権の履行について抵当不動産をもって物的責任を負担するが、抵当不動産の賃借人はこのような責任を負担せず、自己に属する債権を被担保債権の弁済に供される立場にはない。
　(2)転貸賃料債権を物上代位の目的にできるとすると、正常な取引により成立した抵当不動産の転貸借関係における賃借人（転貸人）の利益を不当に害することになる、との理由で「抵当権者は、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合を除き、右賃借人が取得すべき転貸賃料債権について物上代位権を行使することができない」として、原決定を破棄し、原審に差し戻した。
（寸評）
　最高裁判所は平成元年一○月二七日判決で抵当権に基づく物上代位権の行使として抵当不動産の賃料の差押ができることを認めた。この判決後、バブル経済の崩壊に伴う不動産価格の暴落により抵当不動産の換価では債権の回収が不可能になったこともあって、債権回収のための抵当権者による抵当不動産の賃料の差押が増加した。これに対して物上代位を回避するため転貸借を仮装する者も出現し、本件のように抵当不動産の賃借人がこれを転貸して得ている転貸賃料についても差押ができるか否かが新たな争点として浮上した。これについては非定説・限定肯定説と学説・裁判例が区々に別れているが、本決定は、非定説の立場で最高裁として初めての判断を示したものである。

　（弁護士　堀　　敏明）

「借地借家相談室」

家主が変って明渡し期限の付いた
契約書の作成を求められているが…。

　三○年前から一戸建の家に住んでいます。先頃家主が亡くなり、相続人の新しい家主から契約の更新をしたいと言ってきました。その条件として、①家賃は現状のままとする。②再更新は平成14年度のみとし、平成16年5月1日にて本契約は終了する。等を提示してきました。家主は建物が老朽化し、これ以上賃貸建物としては耐え得ないと言っています。
　私達は年金暮しで、他へ移転すれば今払っている家賃の倍以上負担しなければならず、生活が成り立ちません。家は古くなっていますが、修繕すればまだ十分に住める家です。新家主の条件に従って契約しないといけないでしょうか。
（昭島市・無職67歳）
（回答）
　結論から言えば、そのような借家人に不利益な契約条件に従って契約する必要はありません。
　家主が変ったからといって、契約書を作り直す必要はありません。新しい契約書を作成しなければ、従前作成した契約条件はそのまま引継がれ、契約期間のみ「期間の定めのない」状態で法定更新されます。
　なお、期間のさだめがない場合は家主は六ヶ月前に予告すれば解約を申入れることができますが、六ヶ月経過後も家主は借家人に遅滞なく異議を述べなければならない上に、解約申入の時から六ヶ月間に、契約期間の定めがある契約で更新を拒絶する場合と同様に正当事由がなければなりません。
　正当事由の判断に当っては、家主側の家屋使用の必要性と借家人側のそれとを比較して、その他諸般の事情を考慮して判断されますが、家屋の老朽化の程度によっては、建替えが必要と判断される場合には正当事由が認められるケースもありますので注意する必要があります。
　今の段階では、期限を切って家屋の明渡を約束する契約書や念書など書類の作成には応じないで相手の出方を見守りましょう。もし、家主が家賃の受領を拒否するようでしたら法務局へ供託しておきましょう。
　建物の老朽化がすすみ朽廃もしくは朽廃に近い状態になりますと、借家人の権利もなくなってしまいますので、そうならないようこまめに修繕しましょう。今後は組合とよく相談して対応するようにしましょう。

2000年11月15日
第404号

地上げ屋が競落
豊島区千早町の木下さん

ヤクザ風の業者が強要　底地の買取りか借地権の売渡し

　豊島区千早町は閑静な住宅街だったが、地下鉄の開通などでバブルの頃には、地価が急騰しさまざまな地上げ屋が横行した。その名残りではないが、木下さんの借地も競売になり、競落したのが昔風の地上げ屋だった。
　競落と同時に「底地を買うか借地を売って出ていけ」と連日のように電話、訪問。
　電話を切ろうとすると「勝手に電話を切れると思っているのか」等と脅迫され、生きた心地がしなかった。
　近所にいる借地の組合員に紹介され組合に加入。
　早速、組合から電話を入れ、今後は組合が窓口になると通知した。「てめーらは黙っていろ、じゃまするな」とヤクザ言葉。　このままでは、身の危険も感じるということで、家の前に組合が作った「無理やり電話、面会を強要した場合は、ただちに警察に通報する」という告知板をはり出した。
　その結果、効果てき面で、その後は一切電話も面会もなくなった。

明渡で裁判中

一時使用目的の契約を何回も
更新した上で一転明渡し請求　昭島市

　昭島市中神町で米軍ハウスを借りている立野さんは、子育てをしながら画家の仕事をして頑張っているお母さん。
　平成四年八月に同ハウスを家主と直接交渉して借りた。というのは同ハウスは空家になっていて、不動産屋に聞いても「家主は貸さない」と言われたからだ。建物は木造瓦葺きの平家建で七九・三三ｍ²と広く、庭もブロックの塀に囲まれていて、敷地も広いので立野さんはどうしても借りたくて、再三武蔵村山市の家主の自宅を訪問し、貸してもらいたいとお願いした。結局立野さんの願いが届き、家主も「貸しましょう」と言ってくれた。その時の契約書は「確定期限付」と書かれてあり、その後三回更新したが、その時の契約書は「一時使用目的」とされ、特約として「契約期間中貸主より解約の予告があった場合無条件で明渡す事」と書いてあった。
　昨年七月に入り、家主は突然明渡を請求し、家賃の受領も拒否し、今年の三月には東京地方裁判所八王子市部に建物明渡しで裁判にかけてきた。裁判では立野さんが借りた時や更新の時の経緯が問題になった。家主は明渡の理由は一時使用契約であることと、土地の有効利用の必要性を主張した。
　立野さんは借りた当時も一時使用の合意は一切なかったこと、契約の更新時にも家主から明渡の話しもなく、不動産屋からも一時使用の説明もなく事務的に署名したものであること等を反論し、現在裁判を独力で闘っている。

借家の更新料断る　台東区

　浅草橋のマンションに2年前から親子二人で住んでいる田中さんは、家業不振な折に今年4月に契約更新を迎え、不動産屋から家賃2ヶ月分相当の更新料を請求されたが、払えず、月々の家賃も前払いから当月払いにして、なんとか払ってきた。
　その頃から階上に住む管理人が何かに付けて嫌味を言うようになった。最近では、田中さん親子が昼間営業に出ている間に「無契約状態だから、部屋の鍵を取り替え、室内の物品は事業所に送る」などと言われるようになった。
　田中さんは、組合役員と相談し、役員立会いの元で家主と管理人に「申し入れ」をすることにした。家主に都合を打診したところ当分都合が悪いと言うので、書面による以下の「申入書」をおくった。
　家主宛(1)更新料は借家法で法定されておらず、支払義務がない。(2)契約は法定更新されていて無契約状態ではない。
　管理人宛(1)公序良俗に反する言動はしない事。(2)共用施設の管理・点検以外の目的でみだりに室に入らない事。(3)大家さんごときの言動を慎む事。
　その後は、管理人が通常のあいさつ以外の不穏当な言動は影を潜めた。

更新料調停で要求額を拒否　大田区上池台

　大田区上池台五丁目で借地（48・8坪）している小林さんは、更新料請求の調停に臨んでいる。
　平成七年三月の契約更新時に地主から六○○万円の更新料を請求され、小林さんは、とても払えず一一七万円を提示したが合意に至らず、地代は供託になった。
　小林さんは供託所で知り合った組合員の紹介で組合に入った。組合は早速、地主代理人弁護士からの更新料請求の内容証明郵便に対して「更新料は経済的に困難であり支払を拒否し、契約は法定更新になった」と通知。
　地主は、諦めきれずに五年目の今年になって調停を申立ててきた。
　申立理由は、更新料の金額について合意を見なかったが、支払うことでは合意していたとして、相当額の更新料の支払を求めるというもの。
　小林さんは、自分で調停に臨み、何と言われようが「ない金は払えない」と主張し、すでに法定更新されて今日に至っていると強調して頑張っている。

■判例紹介

対抗力ある借地権は競売中に建物が
滅失しても土地買受人に対抗できる

　抵当権設定時に対抗力を有していた借地権は、競売中に借地上の建物が滅失しても、土地買受人に対して借地権を対抗できるとされた事例（平成一二年五月一一日東京高裁判決、金融・商事判例一○九八号）

（事案）
　借地人は、借地上の建物について所有権保存登記をして借地していたが、地主は、昭和六三年に土地に抵当権を設定してその登記をした。
　平成三年、抵当権者が抵当権の実行をして競売手続が開始した。借地人は、平成五年に、借地上の建物を取壊して新建物を建築し、平成六年に保存登記をした。執行裁判所は、賃借権があるものとして、売却条件を定め、売却したところ、買受人が決まった。買受人は、借地人に対して、借地権はないとして、建物収去、土地明渡訴訟を提起した。
　横浜地方裁判所は、借地権を買い受けた人に対抗するには土地の競落時に建物の保存登記を必要とするが、旧建物は滅失しているので、旧建物の保存登記による対抗力は消滅したとして、借地人負訴の判決をした。しかし、東京高裁は、要旨次のような理由で、逆転判決をした。
（判決要旨）
　「民事執行法は、不動産を目的とする担保権の実行としての競売（不動産競売）において、不動産の上に存する抵当権が売却により消滅することを規定し、消滅する権利を有する者に対抗することができない不動産に係る権利の取得は、売却によりその効力を失うと規定している。これによれば、抵当権者に対抗することができない借地権の取得は売却によりその効力を失い、対抗できる借地権は効力を失わないことになる。民事執行法は、土地の買受人が借地権を引き受けるかどうかは、その借地権が抵当権に対抗できるかどうか、つまり、抵当権を設定したときに借地権が対抗できるかどうかを問題としているのであって、競落時に対抗できるかどうかではない。なぜなら、競売によって買受人に移転される権利は、抵当権者が把握していた権利にほかならないからである。
　本件では、抵当権が設定された当時には借地権は登記のある建物によって対抗できたのであるから、その後、その建物が滅失したとしても、当該抵当権に対して対抗力を失うことはなく、借地人としては、いったん生じた対抗力を維持するために、建物自体を維持したり、所有権保存登記を継続していなければならないわけではない。」
（説明）
　本判決は、抵当権による競売の性質をこまかく論述し、借地権の対抗力の有無は、競売時ではなく、抵当権設定時点で決めるべきであるとした。その上で、土地が競売されたときは借地上には旧建物は滅失して存在しないが、抵当権設定時に登記のある旧建物が存在して対抗力があったのであるから、その効力は、継続していると判断した。

　（弁護士　川名照美）

「借地借家相談室」

抵当権の登記があるのを知らず借地
上の建物を建替えたが心配はないか

　戦後間もなく先代の地主から土地を借り、地主も代が変り長男が相続し、現在は長男と契約しています。三年前、借地上の建物を取壊し建替えました。最近土地の謄本を取り寄せたところ、私が家を建替える前に銀行の抵当権が登記されていました。地主に問い合わせたところ、それは以前に商売の資金繰りのために融資を受けたときのもので現在はすでに全部返済してあり心配はないとの返事でした。本当に何も心配しなくて大丈夫でしょうか。
（板橋区・無職73歳）
（回答）
　地主が言うように借金が全額返済されているなら、地主の債務は消滅し、それを担保する抵当権も抹消できるはずですので、至急抹消の手続を取るよう地主に要求しましょう。
　地主が抹消をしないときは、地主の言うことの真実性に疑問をもった方がよいでしょう。登記されているのが根抵当であるときには仮に地主の言う通り前の債務が完済されていても問題が残っています。根抵当というのは、例えば、銀行から継続的・反復的に融資を受けることになった場合に将来融資を受けたなら負うべき債務を担保するために設定されるものです。地主が根抵当の登記の抹消手続をとらないような場合には、地主の借金がまだ残っているか、今後も銀行から金を借りるつもりでいると考えられます。
　地主の答えがウソで、借金がまだ返済されておらず、抵当権が有効に存在しているとすると、あなたの立場は大変不安定になります。もし、地主が借金を返さず抵当権の実行・競売がされると、あらたな土地所有者となった買受人に対しては、借地権を対抗することができず、買受人の請求があれば、建物を取壊して土地を明渡さなければなりません。
　抵当権が実行され、借地人が借地権を失った損害の賠償を元の地主に請求することはできますが、相手に金がなくて実際には取れない場合が多いでしょう。万一、競売になった場合には自ら買い受けを申し出て、落札して土地の所有権を取得するしかありません。
　今後、借地人は家を建替える際には、土地の登記簿を調査し、もし抵当権が設定されていたら建物を取壊すことは危険なので注意しましょう。

2000年10月15日
第403号

家賃の債権差押え
入店後に抵当権を設定

厨房機の所有権争い　債権額に関わらず10万円で合意

　江東区東砂三丁目の借地でクリーニング店をやっている中瀬さんは、建物の雨漏りがひどいので、屋根の全面葺替えをすることにした。
　大田区東雪谷五丁目で借店舗の寿司の店「福寿司」は鶴岡さん、居酒屋の店「トンちゃん」は金村さんが長年営んできた。
　平成七年に旧建物の建替えの話があり、家主と協議した結果、隣接する家主所有の四階建てビル（店舗兼居宅）に移転することになった。
　移転の条件は、従前の契約内容を継承し、内装及び厨房工事と機器等の代金は家主の負担で、一階にトンちゃん二階には福寿司が入ることになった。
　移転後同建物に抵当権が設定されたので、覚悟していたが、昨年三月、厨房機器代金不払い（債権残額千三百万円余）で家賃債権を差押られた。しかし、建物は競売され家賃は一一月分から新家主に払うことになった。
　厨房機器の債務と所有権について債権者（リース会社）との協議は、前家主の不払いを四年余も放置した責任を認めさせて債権額に関わらず、中古品の代金各一○万円の負担で決着した。

地代の値上げ

坪680円を840円に値上げする
停後一％増の687円で決着　台東区

　台東区東浅草の森さん（借地28坪）は、簡易裁判所で地代値上げの調停中。地主は、現行地代一ヶ月一坪当り六八○円を八四○円に値上げ請求した。調停は最終段階を迎え、森さんは現行額の一％増（二八坪で一九○円）なら呑んでもいいと回答し、それ以上なら拒否するつもりでいる。しかし、森さんは確信が持てない。調停が不調になって、本裁判になった時にどうするか、弁護士の手配・費用は等々、悩みは尽きない。そこで、台東借組へ電話を入れ、最終調停の前日組合事務所を訪ねた。
　組合は、都税事務所の固定資産課へ、森さんの近辺の評価額を電話で問合せた。平成11年度の評価額は１m²二○万五千円で、平成12年度は12％下がって１m²一八万四百円という返事だった。計算すると、(1)固定資産税と(2)都市計画税の合計は、一ヶ月一坪当り一四○円となる。標準的な地代は(1)(2)の合計の二～三倍といわれている。二・五倍とすれば、坪当たりの地代は三五○円となり、28坪で九千八百円。地主の要求している二万三千五二○円は、かなり高額であると言える。現行でも割高であり、寧ろ値下げを要求してもいい位である。
　翌日の調停で、森さんは一％の値上げ以外は認められないと主張、地主側も譲らず、調停は不調に。しかし、地主側は調停の翌日、森さんの主張（一％の値上げ）を全面的に受け入れ決着した。

高齢者に非情な明渡し　立川市

　立川市柴崎町二丁目のアパートの一階（六畳二間・四畳半一間・台所・浴室、家賃月額八万二千円）を借りている平山てつさん（84歳）は、御主人（88歳）と二人暮しだが、今年の九月一日で二年契約が満了する。
　御主人が最近脳硬塞を患い立川市内の老人保険施設に入所しているにもかかわらず、家主から突然七月に入ってアパートから立退くよう連絡があった。平山さん夫妻は、亡くなった家主の主人から借りて、親しくつきあってきた。昭和四五年に今のアパートを建替える際にも、平山さん夫妻を一階奥に二軒分の広さを確保して貸してくれた。他は全て単身者用のワンルームマンションになっている。
　どうやら家主の先代が亡くなって以降、跡を継いだ妻の家主は、平山さん夫妻を追出してワンルーム用に改造して家賃収益を上げようと企んでいる。平山さんの息子のお嫁さんにまで連絡して平山さん夫妻が転居する部屋を捜すよう催促する始末。
　困り果てた平山さんは、近所の人から組合を紹介され、八月初めに相談に来た。組合から早速家主あてに全く正当な事由もなく理不尽な明渡し請求を拒否する通知を送付した。家主は息子さんのお嫁さんに連絡し、話合いたいと言ってきたが、お嫁さんも会うことを拒否し、結局追い出しが困難と判断した家主は不動産屋を通じて更新の手続をする旨連絡してきた。
　平山さんは「組合のお陰で安心して住み続けることができる」と今やっと笑顔が見られるようになった。

高額な借地更新料請求断る　足立区千住中居町

　足立区千住中居町の鈴木さんは、今年の9月30日で借地の更新になる。多少の更新料だったら支払って合意更新するつもりだった。しかし、地主の要求額は底地が買える程の高額。鈴木さん「じゃ売ってください」と言ったら「先祖代々の土地は売らない」の一言。地主は更新料を一円もまけるつもりが無いことが分かって、鈴木さんは全額断った。地主いわく「底地を買う金があるなら更新料を払え、安いもん」と又一押ししてきた。鈴木さんの返答は「底地を買うなら銀行が融資してくれるけど、更新料は貸してくれないから駄目」だった。

■判例紹介

室内に多量のゴミを放置したことが
契約解除の理由になるとされた事例

　アパートの賃借人が室内に社会常識の範囲をはるかに超える著しく多量のゴミを放置したことが、賃貸借契約の解除事由になるとされた事例。
（東京地裁平成一○年六月二六日判決。判例タイムス一○一○号二七二頁）

（事案）
　Ａは共同住宅の所有者（賃貸人）。Ｂはその賃借人。
　Ａは平成元年一○月、Ｂとの間で二年間の約定で、共同住宅の一室を賃貸し、更新を重ねていた。
　　Ａは平成一○年二月に、室内に空き缶、空き瓶等のゴミを放置していることを理由に契約解除した。
　Ａ・Ｂ間の契約には、賃借人は居室内において、危険、不潔その他近隣の迷惑となるべき行為をしてはならない旨の特約条項があった。
　Ａの契約解除事由の存否が争点となったが、Ａの主張が認められた事案。
（判旨）
　「以上の事実によれば、Ｂは、貸室内において危険、不潔、その他近隣の迷惑となるべき行為をしたということができ、Ａとの間に締結した賃貸借契約一○条に違反したことが認められる。
　確かに、信頼関係を基礎とする継続的な賃貸借契約の性質上、貸室内におけるゴミ放置状態が多少不潔であるからといって、そのことが直ちに賃貸借契約の解除事由を構成するということはできない。
　しかしながら、本件では、賃貸人から再三の注意を受けてきたにもかかわらず、事態を改善することなく二年以上の長期にわたって、居室内に社会常識の範囲をはるかに超える著しく多量のゴミを放置するといった非常識な行為は、衛生面で問題があるだけでなく、火災が生じるなどの危険性もあることから、Ａやその家族及び近隣の住民に与える迷惑は多大なものがあるといえるのであって、このことは、賃貸借契約の解除事由を優に構成するものといわざるを得ない」
（寸評）
　これまで、同種の事案として、犬猫の餌付けなどをめぐって争われたものがある。
　契約の特約として一定の行為を禁止する条項があることが多いが、どの程度の違反行為が契約解除の事由となるかは、個々の事案に即して判断することになろうが、具体的な違反行為が信頼関係を破壊するものでなければ、契約解除の効力を認めないというのが、判例の定着した考え方である。
　本件は、契約解除を肯定した事例として参考になる。

　（弁護士　田中　英雄）

「借地借家相談室」

最近借家の法律が改正されて
借家人の権利が弱くなったというが本当か

　平成六年四月から一戸建ての貸家を借りて居住しています。最近、法律が改正されて借家人の権利が弱くなったと聞いていますが本当でしょうか。あと五・六年は今のところに住んでいたいと思っていますが、契約の更新はできるでしょうか。定期借家という借家制度ができたそうですが、借りる人には何かメリットがあるのでしょうか。また、借りる際にはどんなことを注意したらよいでしょうか。
（武蔵野市・会社員30歳）
　（回答）昨年の暮に「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」という法律が国会で成立し、借地借家法が一部改正され、今年の三月一日から今までの借家契約に「定期借家契約」が加わりました。
　この定期借家契約は、契約の期間あるいは建物の種類・用途を問わず、契約期間が満了したときは、契約は更新されることなく、終了する契約です。従って契約期間が満了すると、借家人は家主に対し、立退料や引越料その他を一切補償されることなく無条件で明渡さなくてはなりません。
　あなたが借りている貸家の契約は、普通借家契約ですので、借地借家法第二八条により、家主に建物を使う必要など正当の事由がない場合には、これまでどおりの借家契約の内容で更新されるので心配する必要はありません。
　家主の中には「法律が変ったので定期借家契約」に切替えを求めてくる場合があるかも知れませんが、今回の改正では、居住用借家の場合には、『当分の間』定期借家契約への切替えはできないことになっています（新法附則第三条）。
　定期借家契約は「礼金・敷金はなくなり、家賃も安くなる」など、メリットがあるかのような宣伝がされていましたが、実際の借家市場では礼金・敷金を取るケースが多く、家賃も高額な物件が出回っています。賃貸住宅市場は不況で空家が多く、定期借家物件は今のところ人気がありません。はっきり言って定期借家契約は借家人に何のメリットもありません。再契約できるという条件が付いても要注意です。再契約できるかどうかは家主の意思次第で借家人は何の要求もできません。不動産業者に勧められても断って、更新のできる普通借家物件を紹介してもらいましょう。

2000年9月15日
第402号

屋根の葺替え実行
江東区東砂の中瀬さん

地主の妨害全く受けず　組合役員が付っきりで見張り

　江東区東砂三丁目の借地でクリーニング店をやっている中瀬さんは、建物の雨漏りがひどいので、屋根の全面葺替えをすることにした。
　地主は、地元では有名な強欲地主。中瀬さんは、かつて昭和六三年の契約更新時に堅固な建物を建てる予定で更新料、名義書換料、借地条件変更料、増改築承諾料として僅か二一坪で四八三万円もの大金を支払って三○年間の契約書を作った。
　契約書には「五年以内に１回限り甲の承諾なしに建物の増改築を認める」と書かれているが、中瀬さんは増改築をしないまま他界され、五年の期限が過ぎてしまったため、せっかく支払った承諾料が無駄になってしまった。
　地代は坪当たり千円で現在供託中。
　そんな経過があって、今回の屋根の葺替えは、地主がどんな態度にでるか分からず、心配なので、組合の応援を受けて工事をすすめることにした。
　七月一八日着工。二日間で工事は完了した。工事中は組合役員が付きっきりで見張りをしたが、地主からは、なんの妨害も受けなかった。

値上げ阻止

地代150％値上げに現行額が
高すぎると値下要求の方針　豊島区

　豊島区東池袋、サンシャインビルを真上に見上げるこの地域は、幹線道路から一歩入ると車がやっと通行出来るか、車も入れない道がある家と家が密集した地帯である。
　高橋さんの借地している所も建替え不可能な路地の奥である。その高橋さんに、この六月、地主の代理人という不動産会社の人間がやって来て九月から地代の１５０％の値上げを通告してきた。この不景気にこの地主は弱い者いじめの値上げとはと思い何とかならないかと思って高橋さんは、所属する東京土建豊島支部に尋ねたところ、城北借地借家人組合に相談したらと言われ、組合事務所に来た。
　組合事務所で、地代の値上げは、地主の言いなりになることはないという事と現在の地代そのものが近隣と比較しても二百円から四百円位高いという話で、値上げを認めるどころか、値下げを要求するような事であると話され、高橋さん早速組合に入会し、組合員であることを通知し無謀な値上げを阻止する事にし、地主に文書で「値上げに応じることは出来ない。値下げすべきだと主張し、話し合いがつくまでは現行通りの地代を支払う事」を通知した。高橋さんの借地一角が同じ地主であることからみなさんにも集まってもらい相談会を開催した。その中で、この際、皆で組合に入会し頑張ることにした。「一人ではどうしようもないと悩んでいたが、組合に入会しホッとしました。組合のあることをもっと知らせていかなければ」と語った。

競売専門業者が明渡を迫る
　台東区台東4丁目

　台東区台東四丁目で木造二階建ての住居を借りている平山さんは、戦前の親の代からここに住み続けている。
　一○年程前から「地上げ」が横行し建物の所有権が二転三転し、その度に家主（業者）が入れ代わっていた。昨年からは、この建物が競売物件の対象となり、今年の夏に三度目の競売開始の通知が東京地方裁判所から届いていた。
　最近、平山さん宅に頻繁に「業者」が現れ、時には強圧的に、時には穏やかに、明渡を迫っている。平山さんは、その都度「高齢の母親がいるし、夫婦共に近所の職場で働いているので明渡す意思はない」と断っている。それでも業者は執拗に「今回が補償を貰う絶好のチャンスで、以後は補償額が下がる一方だ」とか「新しい家主が決まったら永くは住んでいられない」などと、なかなか引き下がらない。
　平山さんは、業者があまりにもしつこいので、今度は組合役員に立会って貰い、話し合いをすることにした。話合い当日、組合役員から(1)正規の代理人としての資格を有しているか？(2)契約行為の履行能力があるのか？と業者に質問したが、業者は明確な返答ができずにいた。
　平山さんは「移転の意思は全くなく、今後も末永く家族三人でこの家に住み続ける」と明確に伝えた。さらに組合役員が「この物件は賃借権が、競売の原因になった抵当権よりも先に設定されているので、今回の競売で競落されても、されなくても借家権は十分に保護される」と伝えると、業者は「その通りです」と言って引き上げて行った。

危うくホームレス　立川市

　立川市錦町一丁目で古い木造二階建てのアパートの一階に住む森田さんは、今年の一月に二年契約の更新をしたばかりなのに、家主から再三にわたり部屋を明渡すようしつこく迫られ、一人で悩み一旦は部屋を出る決意をした。
　とは言っても森田さんは、家を借りるお金もなく、しばらく路上生活をして夜働いてお金を貯めようと考え、家財道具も大半を片付けて処分した。
　森田さんの隣に住む山本さんは話を聞き「確か借地借家人組合があるはずだから相談に行って見よう」と勧め、7月24日に早速相談に行った。
　相談を受けた組合役員は、立退く必要はないし、路上生活などしたら体をこわすので止めるよう話しをした。
　組合では直ちに家主に対し理不尽な明渡し請求には応じられないことと森田さん宅を訪問したり明渡の督促をすることを禁止する旨を通告した。
　家主は組合にすぐに連絡を寄越し、反省した様子で、森田さんにその後は何も言ってこなくなった。

■判例紹介

抵当権設定前からの賃借人が当該
建物に抵当権を設定した場合の対抗力

　競売の原因となった抵当権の設定前から建物を賃借している者が、その賃借の後に自分の負債のために当該建物に抵当権を設定してもらった場合、自分の負債については不履行がないときは、賃借権を競落人（買受人）に対抗することができるとされた事例（東京高裁平成12・4・5決定。判例時報一七○七号）

（解説）
一、賃借している建物（土地の場合も同じ）が競売になった場合に、落札して新たな所有者（買受人）となった者と賃借権者との関係が問題の所在である。（ちなみに、競売ではなく、任意の売買で所有者となった者には、賃借人は例外なく賃借権を対抗（主張）できる）。
　1、第一原則。賃借権の設定（契約を結ぶだけではなく、実際に占有使用を開始すること。以下、同じ）と抵当権の設定とがどちらが早いかによって決まる。いわば早い者勝ち。賃借権の設定の方が早ければ競売になっても賃借権を維持できるし、遅ければ立退かなければならない。抵当権設定の時期は登記簿によって確認する。
　2、第二原則。賃借権設定の方が早くても、賃借人自身が抵当権によって担保される債務（抵当債務）の債務者である場合は、買受人に賃借権を対抗できない。賃借人すなわち抵当債務者の債務不履行があるが故に競売になり家主は建物所有権を失うこととなるのに、当の抵当債務者の賃借権のみが保護されるとすることは著しく衡平と信義にはんする、との理屈からである。
　3、第三原則。賃借権設定→一番抵当権設定→二番抵当権設定という順番できて、一番抵当権者が競売に付した場合、賃借人自身が二番抵当権の抵当債務者であって債務不履行に陥り、その抵当権の実行による競売が行われてもやむを得ないという状況が生じている場合にも、右の2と同様の理屈により、賃借権を対抗できない。
　4、第四原則。では、右3の場合に、二番抵当権の債務者である賃借人には債務不履行がなかった場合にはどうなるか。これがここで紹介する判例である。いわく、「この場合には、もともとこの賃借権者が抵当債務者となっている抵当権二番自体については、その実行による競売が行われるという可能性が生じていなかったのであり、たまたまその抵当権とは別個の抵当権（一番）が実行されることとなったため、消除主義により当該抵当権（二番）も消滅する結果となるにしても、そのことについて当該抵当債務者である賃借権者には何ら責められるべき理由はないものといわざるを得ず、したがって、当該賃借権者が本来競落人に対しても対抗し得る権利を有していた自己の賃借権を主張し得なくなるものと解する根拠はないものというべきである」すなわち、この場合には、賃借人は賃借権を買受人に対抗することができるのである。
二、東借連夏季研修会でも勉強されたことと思います。復習のつもりでもう一度どうぞ。
　（弁護士　白石　光征）

「借地借家相談室」

終戦の年に契約書がないまま亡父が
借地した土地の明渡しを請求された

亡父の代から土地を借りそこに木造建物を建てて住んでいます。地主から、今年は借地の期間が満了するから明渡してくれと言われました。契約書は作っていなかったようですが、亡父の話しでは終戦の年の昭和二○年の九月に土地を借り木造の家を建てて住み始めたと聞いています。その後、家を建て増しし、修理をして今日まで生活しています。地代の領収書はその当時のものがいくつか保存されています。地主の請求に対しどう対処したらいいでしょうか。（立川市・会社員50歳）
（回答）借地権を設定するときに、当事者で合意により期間を定めておかないときには、法律で法定期間を定めます。当然旧借地法の適用となりますので、同法第二条一項によりますと非堅固の木造建物の場合は期間は三○年となります。
　三○年後の昭和五○年にいったん契約期間は満了します。その時点で借地人が土地の使用を継続し、地主が遅滞なく異議を述べないと、借地権は前契約と同一の条件をもって設定されたものとみなされますので、契約書がなくても更新されたものと扱われ、それを法定更新といいます。その場合の期間は木造の場合は二○年となります。（旧借地法第六条一項）
　そうしますと、借地契約は平成七年に再び法定更新され、平成二七年まで期間が延長されています。但し地主の方でも先代が死亡したりして、正確な更新時期がよくわからないときには契約期間満了後直ちに異議を述べることができなかったからといって、一年半後の異議の申立てに遅滞があったとはいえないとした判例もあります。
　ご質問のケースでは、地主の方で勘違いしていたとしても五年も経過している以上、遅滞なく異議を述べたとはいえません。契約は平成二七年まで法定更新されている以上、土地の明渡に応じる必要はありません。
　なお、契約期間が満了し地主から遅滞なく更新拒絶の異議の申立てがあった場合でも、地主の述べる異議には正当事由が必用です。正当事由があるか否かは、借地関係の存続を希望する借地人と、終了を望む地主双方の土地を使用する事情等を総合的に考慮して判断されるので、明渡は簡単には認められません。

2000年8月15日
第401号

明渡しで頑張ってる
　立川市富士見町の関田さん

更新料未払との理由　法定更新の主張に家主反論できず

　立川市富士見町で公社の富士見町団地の近くで靴店を営業する関田進さんは、昭和四四年六月に木造二階建の店舗兼住宅を借りた。
　平成元年八月に四年契約を結び、次の更新時に家賃を二千円値上げし、更新料を一カ月分支払う約束をした。家主の代理の不動産業者は四年経過したが、何も言ってこなかった。関田さんは平成五年八月より家賃を自主的に月額二千円上げて四万二千円を家主に送金した。
　平成九年になって突然不動産業者が現れ、前回と今回二回分の更新料を払って更新をするように言ってきた。関田さんは更新料を支払う条件として建物の修理を要求したが断られ、法定更新となった。その後家主から二回分の更新料として八万六千円に合意もしていない家賃差額月額八千円の五カ月分が未払いであるとの理由で契約解除の通知が送られてきた。
　関田さんは組合に相談し、契約は平成五年八月以来法定更新していると主張。約定した更新料四万二千円のみ送金し明渡しを拒否する内容証明を組合から送付したが、今だに家主から何の返事もない。

底地が競落

競落した業者の強引な底地
買取要求に5名で一致団結　板橋区

　板橋区南町の西村さんは、借地して30年以上になる。ここ10年は、地主が何回か代わるなどし、その都度様々な嫌がらせを受けた。
　二年前に地主が借金の返済ができず貸地を競売にかけられた。競落したのは競売物件を専門にしている業者だった。借地人には「底地を買ってくれ、嫌ならば二～三年後にくる更新時に更新料をしっかり貰う」と、脅かしつつ強引に底地の買取を迫ってきた。
　最初、一人だった組合員は「底地を買うにしても、引続き借地のままにしても組合としてまとまって業者と交渉しよう」ということで五人に増えた。組合に入っていない人たちは、借地権割合七対三の坪45万円より僅かに安い40万円で購入した人が何人もいた。
　組合員には「引続き借地のままでも、今までと何ら変らない、更新料は払わなくて済む」ことを理解してもらい、組合を窓口にして交渉する方針だ。
　組合は、競落価格を知っているし、もし買取価格で折合いが付かなければ、借地のままにする姿勢でいる。地主の不動産会社は「なんとか買ってもらうことで話しをまとめたい」と組合に申し入れてきた。
　こうした経過の末、業者が最初に提示した価格のほぼ60％で全員が取得できた。
　西村さんは「組合に入っていたお陰で交渉から解決まで全く安心していた」と言っている。

仮処分に地代供託で対抗　台東区

　「東京地裁の建物占有移転禁止の仮処分決定書に基づいて店舗併用住宅が仮処分の執行を受けた、どう対処したらいいか」と台東借組に電話相談があった。
　相談者の竹内さんは谷中で一七坪の借地。地代は月額二八三○○円で昨年九月に半年分郵便局から地主に振込んだ。ところが、地主は振込んだ地代を返金してきた上、今後も受領しないと通告してきた。
　竹内さんは供託の知識もなく、そのまま放置していたが、今回仮処分の執行を受け、心配になって組合に相談した。組合役員は竹内さんに会い、関係書類を見せてもらい、今後の方策を話合った。取り敢えず、受領を拒否された地代15カ月分を法務局に供託して相手の様子を窺うことにした。
　なお、賃借人が賃貸人から賃料の受領を拒否されて、供託をすることもなく、万一賃料の支払を怠った場合でも賃料不払いにはならず、それを理由にした契約解除は無効という最高裁判決（昭和32年6月5日）がある。

借地更新料は支払拒否
5年後になって調停申立て　大田区

　大田区上池台五丁目の小林さんは、平成六年一二月に翌年三月の契約更新を迎える借地四八・八坪の更新料六○○万円を請求されて、家族で相談の上、更新料は借地権価格の三％を払うことにし、その旨地主に提示したが決裂し、地代は供託した。供託所で知り合った人の紹介で組合に加入。
　その後、地主の代理人弁護士から再三にわたり更新料の請求があったが、組合から支払拒否を通告した。契約更新期の五年後の今になって調停にかけてきた。
　調停の申立理由は「更新料の金額での合意はしていないが相手方は支払う意思は示しており、更新料の相当額を求める」としている。
　小林さんは、長期不況で経済的にも困難であり、調停は支払拒否で対応する決意をしている。

■判例紹介

市街地再開発組合が訴訟で賃借人に
建物明渡を請求できるとされた事例

　市街地再開発組合が、建物賃借人に対し、民事訴訟手続によって建物明渡を請求することができるとされた事例（東京高裁平成一一年七月二二日判決、判例時報一七○六号三八頁）

　（事実）
　六本木一丁目西地区市街地再開発組合が、権利変換処分によって施行地域内の建物の所有権を取得したので、建物賃借人の賃借権が消滅したとして、建物賃借人に対し、所有権及び都市再開発法第九六条に基づき明渡を求めた。
　これに対し、建物賃借人は、『市街地再開発組合は都市再開発法により建物の所有権を取得したのであるから、都市再開発法第九二条二項に定める行政代執行の手続により、その権利の実現を図るべきである。』と主張した。
　（争点）
　本件建物の明渡は、行政代執行によってのみ実現されるべきものか、それとも施行者の民事訴訟手続による明渡請求も可能であるのか。
　（判決要旨）
　東京高等裁判所は、『施行者（市街地再開発組合）は、市街地再開発事業の実施主体であるが、権利変換処分により施行地区内の建物の所有権という私法上の権利を取得するという面では、私法上の権利の主体でもある。控訴人（建物賃借人）は、施行者は建物の所有権を取得しているが、所有権に基づく明渡請求をすることは許されないと主張する。そうすると、施行者は、自ら代執行をすることはできないから、自己の権利を実現するには第三者である都道府県知事による代執行を待つしか方法がないことになる。これは所有者が自らの判断と責任で自己の権利を実現することを認めないということを意味する。本来所有権は、その行使につき他人の掣肘を受けないことをもって、その本質的要素とするのであるから、控訴人の主張は、封建制を克服して成立した近代私法の体系に合致しないものであって、採用することができない。したがって、法が都道府県知事に代執行の権限を認めているからといって、これが施行者が所有者として自らの判断により所有権に基づく明渡請求をすることまで否定する趣旨であると解することはできない。』と判示した。
　（短評） 　市街地再開発事業においては、建物賃借人は、施行者から定められた期限までに、建物を明渡す義務があり、建物賃借人が期限までに明渡をしないときは、都道府県知事が施行者の請求により行政代執行法の定めにより代執行をすることが定められている。（都市再開発法第九六条第二項）
　しかし、裁判所が、施行者が右の代執行を待つまでもなく民事訴訟手続による明渡請求を認めた点で、実務上参考になる。
　（弁護士　榎本　武光）

「借地借家相談室」

２年後にアパートを取り壊すので移
転料などは支払わないと言われたが

　アパートに入居して二年が経過し、今年の九月に更新を迎えます。不動産業者は「今回は更新するが、二年後はアパートを取壊すので更新できない」と言います。不動産業者は二年間明渡しを猶予するので移転料その他一切支払わないと言うので、大変困っています。今アルバイトでやっと生活している状態で、二年待っても移転費用を稼げる見通しもなく不安で一杯です。どうしたらいいでしょうか。
（中野区・アルバイト店員25歳）
（回答）二年後にアパートを取壊すと言うのは家主の一方的な都合であって、あなたはアパートを立退く必要はありません。不動産業者から「二年後には無条件で部屋を明渡し、移転料その他一切請求しない」等の特約の付いた契約書を押し付けられても一切サインしたりしてはいけません。契約書を作らなくても、契約期間の定めのないまま従前と同一の条件で契約は更新されます。（借地借家法第二六条）
　このように法定更新された契約を家主が解約するには六カ月前に予告することが必要であるとともに、解約時に明渡しを求める正当事由が必要です。借地借家法第二八条では正当事由の条件として(1)家主と借主の建物の使用を必要とする事情、(2)賃貸借に関する従前の経過、(3)建物の利用状況、(4)借主に立退料の提供の申出をした場合、以上が考慮されます。従って、借主の事情を無視して家主の一方的な都合だけで正当事由が認められるわけではありません。
　アパートを明渡し、次の部屋を見つけるためには、新しい物件の礼金・敷金、不動産業者への仲介手数料、運送代などが最低限必要であり、あなたが負担してまで出ることはありません。立退料も支払わない家主は明渡しの正当事由など認められませんので、そんなケチな家主には「明渡しには一切応じられません」と、はっきり言明しましょう。
　明渡しの話が出ると、話が付かない内に次の部屋を借りてしまうなどの慌て者の借主がいますが、そんなのは愚の骨頂てあり、交渉は慌てないことが得策です。
　一人で交渉するのは自信がないという方は、組合に相談し、交渉に熟達した役員から良きアドバイスを受けることをお勧めします。

2000年7月15日
第400号

明渡しで頑張る
　台東区下谷の南さん

新家主が契約を否定　単なる使用貸借だと明渡を督促

　5月26日、台東借組に電話が入った。組合員の南さんからだ。南さんは台東区下谷で平屋（6坪）を倉庫として家賃七千五百円で借りている。借家に南京錠掛けられ、閉め出されたという内容だ。
　南さんの家主は、地主から借地の返還を執拗に要求され続けていた。遂に根負けして、今年の4月に東京地裁で土地明渡しに合意し、建物を地主に譲渡した。その旨、家主から連絡を受け、家主が地主に代わったことは知っていた。地主は新たに家主になっているにも拘わらず、態度を表明せず音無しの構えなのだ。
　組合のアドバイス(1)家主の不当行為に対しては、緊急の自力救済措置として錠を破壊してでも居住を確保する。(2)家賃を誰に支払うのかを判断するため、建物の所有権が旧家主から地主（新家主）に移転登記されているかを調べる。即ち「新所有者の移転登記が無い場合には賃料請求をすることができない」（大判昭8・5・9）調べてみると、既に5月11日に移転登記は完了していた。5月30日に新家主に家賃を支払ったが受領を拒否され、供託した。
　6月28日新家主の代理人である弁護士から内容証明郵便が送られてきた。「貴殿と旧家主間の法律関係は賃貸借ではなく、単なる使用貸借関係であったものと思料されます」と南さんと旧家主の建物賃貸借契約を事実に基づかない使用貸借と決め付け「貴殿と旧家主間の使用貸借関係を継承するつもりはありませんので本年7月15日頃までに建物の明渡しを…」という慇懃無礼で独善的論旨のものであった。

更新料を断る

２０年間地代を正確に支払っ
て来たのにいきなり更新料　豊島区

　豊島区要町に住む田沼さんは、約五八坪の借地で今年の六月で二○年の契約期間が満了した。地代は毎月きちんと支払い、建物を改築した時は承諾料も支払ってきた。
　今年の三月に、地主の代理人と称する不動産業者が訪れ「契約を更新したいのならば、更新料を二百万円支払え」と請求された。年金暮しで息子夫婦と一緒に暮らしていた田沼さんにとっては、いきなりの大金の請求で困っていた時に、組合のチラシが入り、急いで組合に相談に行った。
　組合では、更新料については、法律上の定めもなく契約上の定めのないものは、支払う必要が無いことを説明され、早速組合に入会した。組合では不動産業者に「田沼さんは借地借家人組合の組合員であること、今後の協議は組合を窓口にして行うこと」を通告した。
　その後、不動産業者から「更新料について話合いしたい」と組合に電話があったが、「法的にも契約上でも義務のない更新料は一切支払わない」と通告すると「法律上なくても、私の知るかぎりでは、全員が更新料を支払っている」と言い張ったが、最高裁判例などを説明すると「判りました」と言って電話をきった。その後、不動産業者は代理人を下りてしまい、地主も更新料請求については断念した。
　田沼さんは「更新料を支払わずに済んだのは組合を知ったからです。いつ、追出されるのか不安の毎日でしたけれど、これからは安心して、眠れます」と語った。

地代の大幅値上げ抑える
　立川市

　立川市高松町で九○坪を借地している森田さんは、バブルが崩壊した平成五年以降も二、三年毎に地代が上がって大変困っていた。月額坪当たりの地代は、平成五年が三○○円、平成八年が三五○円、平成一〇年が四一〇円。今年も案の定、平成一二年一月より月額坪当たり四六○円に改定するとの通知が届いた。
　森田さんは一〇年前から心臓の病気で退職し年金生活で暮らしている。年間五万四千円もの地代の増額は生活にこたえるとともに、将来地代も払えなくなるのではという不安も抱えていた。知人の紹介で早速組合に相談した。
　組合からは今年の評価替えでは土地にかかる固定資産税・都市計画税はほとんど上がっていないので、地主が毎回「固定資産税・都市計画税の増額があった」との理由で地代を大幅に増額するのはおかしいと指摘された。早速組合から地代の増額を拒否する通知を地主に送ったところ、地主は森田さんに対して愛想が良くなリ、地代も六カ月分、以前の額で受領した。

相続税対策の家屋取
壊しで明渡し請求　大田区

　大田区池上八丁目の共同住宅を借りている佐藤さんは、家主から家屋を取壊すとのことで更新拒絶、六カ月後の契約期間満了と同時に明渡すよう求められ、立退料は家賃の六カ月分にも満たない金額で引越もできないと組合に相談した。
　組合役員は、家主代理人の不動産業者に対し、理由が相続税対策では正当事由と認め難いにもかかわらず、低額の立退補償額での無理強いには応じられないと伝えた。他の借家人は家主側の当初の提示額で応じたこともあって、業者との交渉は五カ月にも渡った。
　結局、家賃二○カ月分余の立退料と明渡し猶予期間三カ月の家賃相当額の使用損害金免除という条件で合意した。
　佐藤さんは「諦めずに組合に相談して本当によかった」と喜んでいる。

■判例紹介

建物の所在地番が間違った登記で借
地借家法の対抗力が認められた事例

　建物の所在地番が誤って表示された登記について、借地借家法一〇条一項が定める対抗力が認められた事例（東京地裁平成一〇年一一月二七日判決、判例時報一七○五号九八頁）

　（事案の概要）
　本件土地にはＹ所有の建物が建っていたが、その登記の所在地番が正しくは「四七○番地四」なのに「四六九番地」と誤って表示されていたため、競売手続を担当した執行官は本件土地上にＹ名義の建物登記がない旨の記載をした現況調査報告書を作成し、担当裁判官は右現況調査報告書に基づき、本件土地上にはＹ所有の建物が存在するが、Ｙはその借地権を競落人に対抗できないと記載した物件明細書を作成した。Ｘは、右物件明細書を見て本件土地には競落人に対抗できる借地権はないと考え、Ｙが借地をしている本件土地の所有権を競売による売却で取得し、Ｙに対し、本件建物の収去及び本件土地の明渡しを求め提訴した。なお、本件建物の登記の所在地番は、右物件明細書作成後Ｘの競落前の間に「四六九番地」から「四七○番地四」に更正登記されている。
　（判決）
　本判決は、「土地を買い受ける者は、現地を検分して建物の所在を知り、ひいて借地権等の土地使用権限の所在を推知することができるのが通常であるから、借地権のある土地上にある建物の登記が、錯誤又は遺漏により、建物所在の地番の表示において実際と多少相違していても、当該建物の同一性を認識し得る程度の軽微な誤りであり、殊にたやすく更正登記できるような場合には対抗力を認めるのが相当である」と判示したうえで、本件建物の登記の所在地番の誤りは、その登記の表示全体において建物の同一性を認識し得る程度の軽微な誤りであり更正登記も容易であった旨認定し、また、競売手続を担当した執行官は本件土地上にＹ名義の建物登記がない旨の記載をした現況調査報告書を作成し、担当裁判官は右現況調査報告書に基づき、本件土地上にはＹ所有の建物が存在するが、Ｙはその借地権を競落人に対抗できないと記載した物件明細書を作成している。登記の所在地番の誤りは、建物の同一性を認識できる程度の軽微な誤りではないというＸの主張に対しては、執行官は、本件建物の登記の有無につき法務局出張所に調査依頼しただけで自らは登記簿の閲覧などの調査をしておらず、執行官が本件土地上に登記されたＹ所有の建物を認識し得なかったとはいえない旨認定して、ＹはＸに対し借地権を対抗できるとの判断を下した。
　（寸評）
　借地上の建物の所在地番の表示を誤った登記が当該借地権の対抗力を有するか否かについては、一般的には更正登記によって正しい表示に変更できるかどうかがメルクマールとなると言われており（昭和四○年三月一七日付最高裁大法廷判決など）、本判決もこのメルクマールに基づいて下されたものである。
　（弁護士　堀　敏明）

「借地借家相談室」

借地人に不利な特約付の契約書の作
成を要求されたがどうしたらよいか

　父の代から土地を借りています。一○年前に父が亡くなり、長男である私が借地権を相続し、地代を支払っています。父が土地を借りてから七○年以上が経過し、建物も相当古くなっていますが修理しながら建物を維持し生活しています。契約書は全く作成せず口約束で借りていて、地代の領収書のみ残っています。
　地主も代がかわり、最近になって契約書を作成したいと言って、契約書の案文を郵送してきました。それを見ると契約期間は一○年となっていて「更新時には借地権価格の10％の更新料を支払うことによって契約を更新することができる」「建物の増改築は一切行わないこと」と書かれています。どうしたらいいでしょうか。
（港区・会社員55歳）
（回答） 土地や家の賃貸借契約は口約束でも契約は成立します。最近、借地借家法が一部改正され、更新のない定期借家契約が法律で認められましたが、定期借家契約の場合は書面で契約しておかないと認められません。それ以外の普通の借地や借家の契約は、地代なり家賃の領収書があれば立派に契約は成立します。
　契約書を作成しておかないといつ追出されるか不安だとか思っている人もいて、契約書の内容が借地人にとって不利なものであっても判を押してしまう人がいます。契約書は契約内容を証明する一つの手段に過ぎません。貸主側が作成する契約書の多くは、借地人の権利を拘束したり義務ばかり押付けた不利なものが多く、作成したために後で取り返しの付かないことになり兼ねません。
　契約書の特約の中で借地借家法の強行規定に反する条文は無効です。一○年の契約期間も旧借地法が適用される借地契約では最低が非堅固な建物では二○年、堅固な建物では三○年ですので無効となります。更新料の支払約束の特約は一概に無効とは言えません。
　いずれにしても借地人にとって不利な特約は削除させるか、削除に応じない場合は契約書の作成は拒否した方が得策です。借地人の中には契約の更新時に莫大な更新料を支払った上に、著しく不利益な契約書を作成し、後で後悔している人が見かけられます。契約書を作成する前に組合に相談し、十分に点検してもらってから判を押しましょう。

2000年6月15日
第399号

保証金で頑張る
　埼玉県所沢市の学習塾

修理代で家主と交渉　保証金の償却分を除く全額返還

　埼玉県所沢市で学習塾を経営居していた渡辺さんは、今年の三月で学習塾を止めることにし賃貸借契約を解約した。契約時に預けた保証金三百万円は、年二パーセントの償却分を除き、当然返却してくれるものと思っていた。その後、家主からはリフォーム代として四十万円の請求をされ、「この金額を認めなければ保証金は返さない」ときつく言われ、困り果て知人に相談した。城北借組に入会していた知人は、組合を紹介した。
　組合事務所を訪れた渡辺さんは、事務局長から家主の退去時のリフォーム代請求について、建設省のガイドラインや、平成五年に出された大坂地裁の敷金返還裁判の判決などを資料にその不当性を説明され、すぐ入会した。
　組合の事務局長から「裁判も辞さない覚悟で家主と交渉する事。四十万円稼ぐこと考えたらその位の労力を使って頑張ることが大事です」という励ましをうけた。
　その後、家主と不動産との交渉の中で、渡辺さんは、自分の主張を堂々と伝え交渉し、最終的には、保証金の償却分を除いた全額が返ってきた。

乱暴な明渡請求

地上げ屋が突然あらわれ旧
大家の明渡要請書面で強要　台東区

　戦後より鳥越に住み、子供達の養育を終えた深田さん。今は一人暮らしで和裁仕立てとタバコの販売を行っている。先日、第一開発の社員と称する者が突然現れた。「建物を売却したので新大家の要求に宜しく対応してほしい」という旧大家の署名捺印つきの書面を提示。そして、近日中に現存家屋を壊してマンションを新築するので「できるだけ早い期日に家屋を明渡して欲しい」と宣告された。五十年来の近隣の知人に囲まれて、楽しく平穏に生活を過ごしてきた深田さんにとって「突然の明け渡し要求」に応じる訳にはいかず、頭を悩ませ困り果てていた。
　古い知人に相談した処、区内に借地借家人組合があるから早急に組合に加入して頑張りなさいと進言され、その後すぐ組合事務所に出向き、役員よりアドバイスを受けた。
　深田さんは大家が変わっても従前の契約内容が継続され、新大家に借家契約の正当な解約事由がない事がわかり、安心して従来の生活を維持できることを知った。　その後役員が近隣の土地・家屋の権利関係を法務局で調べた処、半年前に近隣六軒の土地・家屋が第一開発によって取得されていた。
　近隣の方も底地を買われ困っている事がわかり、近日中に班会を開き、役員同席で借地借家法の理解を深めて、新大家・新地主への対応策を検討する事になった。深田さんは「組合に加入して平穏な日々が暮らせる事に感謝しています。」と言う。

組合はやめません　
借地の更新で不動産を撃退　足立区

　足立区伊興前沼に住んでいる山川三男さんは、昨年九月借地の更新期だった。更新の二年前位から心配で心配でたまらなかった。人づたいに組合の事を聞き、昨年六月入会し必死で勉強した。でもなかなか理解できず、組合事務所に通うこと、電話をする事数えきれなかった。
　そこで考えたのが、話し合いする時は組合役員さんと一緒に行くことだった。九月はじめに代理人の不動産業者が来たので、「組合役員さんと伺います」と伝えたら、不動産業者は「組合の人だけはやめてくれ」と言って帰ってしまった。
　あれから八ヶ月が過ぎようとしている。時々不動産業者が来ると、「組合やめた」ときかれると山川さんは「一生やめません」と言葉を返しているという。今後は相手の出方をみることにしている。

サラ金借りて修理代払え　立川市

　立川市柴崎町五丁目の賃貸マンションを今年の一月二九日に退去した松崎さんは、以前管理していた株式会社エイブルから、修理見積代金として四四万三千円もの請求書が送られてきた。
　退去した時に立ち会った不動産業者からは何の話もなく、どうやら家主自身がエイブルに過大な見積りを要請したもよう。松崎さんは不審に思ったが、松崎さんの方にも壁に数カ所穴を開けた落度もあり「修理代は支払うが、もう少しまけてもらいたい」と頼んだが、エイブルの担当者は「金がなければサラ金から金を借りて支払え」と強迫じみた暴言をはいた。
　困った松崎さんは組合に相談し、組合からエイブルに過大な修理代の支払を拒否する通知を出した。結局エイブルは手を引き、最初に立ち会った不動産屋から組合へ連絡が来て、四者立会いで再見積りをすることになった。再見積り書の中で松崎さんの負担すべき修理代を協議し、当初の見積り代金を大幅に減額させ協議が成立した。

■判例紹介

賃貸人が転貸借契約承継の特約ある
時賃貸人は転貸人の地位を承継する

　賃貸人の承諾の下に建物が転貸されている場合において、賃借人の債務不履行を理由に賃貸借契約が解除されたとしても、賃貸借契約終了した場合は、賃貸人が転貸借契約を承継する旨の特約があるときには、賃貸人は、転貸人の地位を承継し、転借人が差し入れた保証金返還義務を負うとされた事例（東京高裁平成一一年一二月二一日判決、判例タイムス一〇二三号）

　（事案）
　建物所有者は不動産開発会社に転貸の承認をした上で賃貸したが、開発会社が賃料不払いをしたので契約を解除した。本件建物は転借人が使用中で、一億五五四三万円の保証金を入れていた。所有者と開発会社との賃貸借契約には、「契約が終了した場合には、建物所有者は転貸借契約を承継する。」という特約があった。そこで、転借人は、所有者が転貸借契約を承継したとして、建物所有者に対して転借契約の解除を申し入れ、保証金の返還を請求した。
　建物所有者は、転借人とは賃貸借契約はないと言って返還拒否したので、転借人は提訴した。東京地裁では転借人敗訴、控訴判決である本判決で転借人が逆転勝訴した。
　（判決要旨）
　「サブリース契約というものは、不動産のデベロッパー等が、土地の利用方法の企画、事業資金の提供や融資斡旋、建設する建物の設計、施工、監理、完成した建物の賃貸営業、監理運営等、その事業の全部又は一部を受託して、土地・建物の所有者等にその所有権や借地権を残したままで、賃貸目的の建物を一括借り受ける等の方式をとることによって、その事業収益を所有者等に保障する形態で行う事業の目的のために当事者間で締結されるものである
　このようなサブリース契約における建物賃貸借契約は、基本契約、建物建築請負契約、管理委託契約等一連の契約の一部をなしており、「建物利用権を取得する」ためではなく、「建物を転貸して収益をあげる権限」だけを取得するためのものである。そこで、共同事業が終了、解体する場合には、その後も収益事業の継続を図るためにデベロッパーが締結した第三者との転貸借契約を所有者に承継させる必要が生じ、本件承継特約がなさるものである。したがって、転借人は、本件特約は第三者たる転借人のためになされているものであり、その効力を当然に受けることができる。そうすると、建物所有権者はデベロッパーと転借人との転貸借契約を承継したものであるから、保証金返還義務も承継したものである。」
　（説明）
　不動産開発会社が賃借人となって貸し出す物件が増えている。転借人の地位は、建物所有者との間で何の契約もないので不安定である。本判決は、サブリースという契約関係の実態に基づいて、承継特約の合理的解釈をして転貸借契約を建物所有者に承継させたものであるが、この種の問題の判決は分かれている。
　（弁護士　川名照美）

「借地借家相談室」

賃貸マンションを引越したが敷金が
返って来ない。敷金を取戻す方法は

　先月八年間住んでいた賃貸マンションを引越しました。敷金として家賃の二か月分の三十万円を預けてありましたが、先頃管理している不動産業者の見積りによると、壁のクロスの張替え、クリーニング代等で合計五〇万円かかったので、残りは家主が負担するので敷金は返せないとの連絡がありました。
　八年間住んでいましたが自分の家のように大事にしていましたし、引越の時は綺麗に掃除をしてでたのに敷金が戻らないことに納得がいきません。何とか取戻す方法はないでしょうか。
　（三鷹市・３６歳会社員）
（回答） 敷金は、賃貸借に関して賃借人が賃貸人に対して負担する債務を担保するために預けてあるお金で賃貸借契約が終了して借家人が引越して行くときには家主は預かっている敷金は当然全額返還しなければなりません。
　ただし、借家人が家賃を滞納していたり、わざと建物や設備を破損したときは借家人は損害を賠償しなければならず、その分の費用は敷金から差し引かれる場合があります。
　ところで、借家人が建物を破損したのではないが、居住していれば自と汚れたり、設備・建具等の寿命が来る自然磨耗した時に借りた最初の状態に戻さなければならない義務があるかどうか。最近の契約書では「故意と過失と問わず退去時の修理は全て借主が負担する」旨の不等な特約がつけられているものもあり、こうした特約を根拠に、莫大な修理費を請求される事例が後を立ちません。
　建設省では、９８年３月に「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を発表し、「通常に生活してできる汚れや損傷」は賃貸人の負担であることを明記した上で、畳の日焼け、タバコのヤニ、テレビや冷蔵庫の後部の電気ヤケ、クロスの変色等々、具体的ケースを上げて、右の例の場合いずれも賃借人の「通常の住まい方で発生するもの」として、借家人に修繕義務なしと定めています。
　従って、御質問のケースでは敷金は全額返還請求できます。
　返還にあたっては、内容証明郵便で敷金の返還を督促し、それでも返して寄こさない場合には簡易裁判所へ行って相談すれば、簡単な手続きで訴訟を起こすことができます。

2000年5月15日
第398号

借家の明渡で頑張った
　板橋区赤塚の田中さん

２月に更新し、３月に明渡請求　立退料と更新時の費用返還で合意

　板橋区赤塚のマンションに住む田中さんは今年三月に二年間の契約期間が満了し、更新の時期を迎えた。二月末に窓口になっている不動産屋に更新料と更新手数料を支払い、契約を更新した。
　ところが、三月中旬になって家主は「建物が老朽化し崩壊する恐れがあるので立退いてくれ」という通知を寄越した。
　驚いた田中さんは、城北借地借家人組合が毎月開催している西武百貨店池袋店の「相談会」を訪ねた。
　相談員から「住み続ける権利があること、立退きに応じる場合でも適切な補償を請求できる」ことを聞き、同じマンションの居住者とともに組合に入って頑張ることになった。
　家主代理の不動産屋は、当初、家賃の六ヵ月分の補償を提案し「これで立退いた人もいる」と強弁していた。
　田中さん達は、組合が用意した「明渡合意書（案）」を示し、組合役員と一緒に交渉した。
　その結果、立退料は家賃の一四ヵ月分と先に払った更新料と手数料は返還することで解決の見通しが付いた。

横暴な差額請求

冷酷で評判の大地主が２０年
間の供託差額３１９万円を要求　昭島市

　創業文政五年（一八二二年）という老舗の田村酒造は、現在は一五代目当主が引継いでいる。この田村半十郎氏は東京でも一、二を争う大地主で、かつて先代が亡くなった時に相続税を支払うために土地を処分し、全国の長者番付一位にもなったことがある。
　田村氏は、地主としても大変冷酷で、二年毎に必ず地代を大幅に値上げするため地元の福生市では大変恐れられている。借地人が値上げを抑えてほしいと申し入れても、一切話し合いには応じない。年末に地代を納めに行くと、地代通帳にはすでに値上がりした金額が書かれているという有様。
　この大地主を相手に二○年間にわたり地代を供託している昭島市松原町に住む山田さんは、三月に入って突然とんでもない通知が地主から送られてきた。
　内容は、山田さんが供託した地代を受領したが、未払地代不足分及び延滞利息五％が合計三一九万四千九三○円となっているので、一四日以内に支払わないときは、契約を解除するというもの。
　驚いた山田さんは、早速組合と相談。組合から供託を何年間続けても、契約を解除される理由にはならない。五年間を過ぎた地代増額部分の差額請求は時効となるので心配ないと説明されて安心した。地主の田村氏に対しては「法律上の根拠のない契約解除は認められない」と内容証明郵便で地代差額の請求を拒否し、横暴な態度にキッパリと反論した。

過去の非常識行為を家主詫びる　大田区南馬込

　大田区南馬込三丁目所在の木造瓦葺二階建一棟一戸建居宅約四一・一ｍ²を賃借している金子さんは平成一○年四月に組合に加入した。
　前家主から建物を買取った新家主は、不動産業者を通じて、建物の老朽化が著しいとの理由で明渡を要求し、応じないと見るや家賃を二万円値上げし、八万五千円にするとの請求。
　組合を通しての交渉は不調となり、相当額（七千円）を加算して供託。この程、新たに依頼を受けた業者との交渉になった。再び明渡の請求なので「家賃値上げで係争中であって、どのように言い繕っても正当性はない」ことを指摘し、家主の翻意を求めた。
　家主の詫び状とこれまでの家賃増額分の返却と当初の立退料を五○％増額するとの回答を持参した業者の努力を認めて合意の見通しとなった。

地代値上で協議を拒否　千代田区

　千代田区西神田二丁目でパン屋を営んでいる梅沢さんはこの場所に父親の代から借地して五○年になる。面積は三一・三坪で、地代は九二年四月から坪当たり月額六千一三○円。
　地主は地代を九三年に七千二九一円に値上げ請求してきたが、梅沢さんは納得せず、従前どおりの額を支払ってきた。ところが地主は、九四年に九千五八三円に、九五年に一万五三円に、九六年に一万四二七円に次々に値上げを請求してきた。
　地主は、今年の二月に内容証明郵便で「貴殿の支払ってきた地代額は、今年の一月分までの不足額は、合計八九五万七千八○○円（遅延損害金を除いた額）になります。もし貴殿に円満解決の意思があるならば、二月末までにご連絡ください」と通告してきた。
　梅沢さんは、四月一一日に組合役員と一緒に地主の代理人の弁護士事務所を訪れた。弁護士は「組合と話し合う気はない」と協議を拒否。
　納税証明を出せと要求して帰る。

■判例紹介

土地賃貸人が賃借人に対し下水道敷
設につき承諾義務を負うとした事例

　土地賃貸人が賃借人に対し下水道敷設につき承諾義務を負うとされた事例（東京高裁平成９・８・３０第一○民事部判決、判例タイムス九八年一○月二五日号一三四頁以下）

（事案）
　賃貸人Ｘら二名が賃借人Ｙに対し、契約期間満了を理由に建物収去土地明渡を求めた事件とＹからＸらに対し下水道敷設についての承諾及び妨害差し止めを求めた事件。
　原審はＸらの請求を棄却、Ｙの請求を容認。
　控訴審はＸらの控訴を棄却、Ｙの請求の趣旨の訂正に基づき承諾請求の主文を変更。
（判旨）
　「右のような下水道法による規制（前記認定の事実によると、本件土地は、右公共下水道の処理区域内の土地であると認められる。）付近の土地の排水設備の設置状況及び本件土地の所在する場所の環境にかんがみると、本件土地につき排水設備を設置することは、本件土地の利用に特別の便益を与えるというものではなく、むしろ、建物の所有を目的とする本件借地契約に基づく土地の通常の利用上相当なものというべきであるから、賃貸人である控訴人らにおいて、本件土地につき排水設備等を設置することにより回復し難い損害を被るなど特段の事情がない限り、その設置に協力すべきものであると解するのが相当である。
　そして、前記認定の事実関係のもとにおいては、控訴人において、本件土地につき排水設備等を設置することによって回復し難い著しい損害を被るなどの特段の事情があることは認められないから、そうであれば、控訴人らは被控訴人が本件土地につき排水工事及び水洗化設備の新設工事をするに当り、これを承諾し、かつ、右工事の施行を妨害してはならないといわなければならない。」
（寸評）
　本判決の主文は、「控訴人らは、被控訴人が茅ヶ崎市に対し別紙物件目録一及び二記載の各土地につき公共下水道事業による排水設備水洗化設備の新設工事を申請するに当り、控訴人○○は同目録一記載の土地につき、控訴人○○は同目録二記載の土地につき、それぞれ別紙公共下水道敷設承諾書記載の事項を承認せよ」となっている。
　従来の同種事件の保全処分での主文例より具体的な承諾事項を示し、行政の要求する地主の承諾事項を六項目にわたり承諾させている点は、参考になる。
　主文例として紹介した。
　（弁護士　田中英雄）

「借地借家相談室」

木造瓦葺き一戸建て借家の雨漏りを
家主の負担で修繕させる方法はないか

　私は古い一戸建ての平屋を借りています。
　先日来の長雨で建物の一部に雨漏りしました。屋根は瓦葺きです。家主に修繕を頼んだところ「うちでは修繕はみんな借りている人にやってもらっています」と言われてしまいました。
　私は、貸家の修繕は家主がやるものとばかり思っていましたが、家主の考え方次第で借家人に押付けられるものなのでしょうか。
　なんとか家主に修繕させる方法はないものでしょうか。
　（板橋区・無職68歳）
（回答） 貸家の修繕についての法律の定めは、民法六○六条一項に「賃貸人は賃貸物の使用及び収益に必要なる修繕をなす義務を負う」と規定しています。貸家の修繕義務は家主にあることが明確に規定されているのです。家主がこの法律に規定する義務を免れるためには、あらかじめ契約で「雨漏りの修繕は借家人の負担とする」との特約（特約とは法律の定めに反する約定）を交わしておかなければなりません。
　あなたの場合は右の特約はないので、言うまでもなく修繕義務は家主にあります。以下は家主の負担で修繕をする方法です。
　まず内容証明郵便（配達証明付）で家主に対して通知をします。その内容は「雨漏りしているので本書到達後一○日以内に修繕してください。もし右期日までに直していただけない場合は、私が業者に依頼して修繕し、その修繕費用は後日請求しますのでお支払いください。万一お支払いくださらない場合は、やむを得ず月々の家賃から差し引きます」。
　この通知を出した上で、その内容のとおり実行すればいいのです。修繕費用が月額家賃の半分以上になる場合は二ヵ月に分けて差し引きます。
　ここで、内容証明郵便を出す段取りを省略して、修繕費を家賃から差し引くと家賃の一部不払いとして契約解除の原因にされる恐れがあります。
　借家の修繕問題の解決法には別の方法もあります。それは、家主は完全な物を貸す義務がありますから、雨漏りするという不完全な度合いに応じて家賃を減額し、直ったら元に戻す方法です。しかし、これではいつ直るか分からず、前の方が現実的です。

2000年4月15日
第397号

借家の修繕で頑張った
　立川市富士見町の石橋さん

いい加減な修繕で再び雨漏り　今度は和解条項で独自に屋根を直す

　立川市富士見町一丁目に居住する石橋百合子さんは、借りている建物の屋根から雨漏りがするため、思いきって屋根を修繕することにした。
　平成五年に家主から建替えを理由に明渡しを請求されたが、石橋さんは弁護士を代理人に立てて頑張り、明渡しは何とかまぬがれた。調停が成立した時に、調停条項に「本件建物に雨漏りが生じたときは、同箇所修理のため屋根瓦の入替え等を相手方がすることについては、申立人（家主）は予め本調停条項により承諾する。」が入っていた。
　今回は、この条項を根拠に組合を通じて屋根の修繕を家主に事前に通知し、三月一三日の朝から工事に着手した。工事は一日で終了した。
　石橋さんは、家主が工事を妨害しに来ないかと気掛かりだったが、何事も起こらなかった。屋根の雨漏りの元々の原因は、家主が勝手に屋根に上って瓦を壊したためで、前回の調停で家主に屋根の修繕を要求し、修繕を行ったもののいい加減な工事で、しばらくして雨漏りがするようになった。石橋さんは「都営に当るまで今の家で頑張りたい」と語っている。

住職が明渡強要

檀家の駐車場確保のためと
６回調停不調の後協議成立　台東区

　吉田さんは台東区谷中で約一○坪の二階建店舗併用住宅を借りて、写真館を五○年以上も営んでいる。家主は隣の寺で、九七年八月に住職から借家契約の解除を通告された。その後、住職から立退きを強要する言葉を頻繁に浴びせられた。加えて、商売に対する不安も重なり強迫観念に襲われる状態まで追込まれ、九八年一月その対応に苦慮して台東借組に相談した。
　寺側は、自動車で来る檀家の駐車スペース確保のため吉田さんを立退かせて駐車場にと考え、九八年七月に東京簡易裁判所に家屋明渡請求調停の申立をしてきた。台東借組と対応策を検討していたので不安もなく調停に臨めた。九九年七月、調停は六回で不調に終わった。
　十月、吉田さんは、自宅の階段を踏み外し骨折、一ヵ月程休業した。客は他店へ流れ、戻って来ない。その後も体調不良で店を閉める日が多く、売上は極端に落ち、商売に対する不安が脳裏を掠めた。九九年一二月末台東借組に再度相談があった。「家賃を払っていく自信が無い。店を閉めたいので、立退き交渉をお願いしたい」というものであった。一月初旬、組合の顧問弁護士に交渉を依頼する。立退料が出なくて当然という状態での交渉であったが、二月末ほぼ立退き交渉は纏まった。八月末迄に店舗を明渡す。立退料は六五ヵ月分という解決案である。
　現在、吉田さんは、骨粗鬆症に因る骨折（今年二度目）で三月初旬から入院中である。

法定更新で補充特約
が無効でも再び請求　江東区

　伊藤さんは、錦糸町のロッテ会館の東側で鉄筋三階建ての一階約一○坪を借りて飲食店を始めて三三年になる。　家賃は月額九万三千円、共益費二千円。三年契約で、更新毎に保証金の償却分三○万円を補充してきた。伊藤さんは、償却分補充の特約を事実上無効にするため契約を法定更新にした。　ところが昨年、不動産屋から「一○万円だけでもいいから償却費をもらえないか」と言ってきた。伊藤さんは「入居時に家賃が近隣より高かったけれど造作買取りや権利譲渡ができる契約条件だったので借りたのだから、譲渡を認めるか、三年後明渡す条件について協議したい」と、償却費の支払は拒否。　家主と話し合った結果「立退料は二○○万円、ただし次の借り手が付いたら居抜きで即時明渡す」という条件で合意が成立した。

明渡しに妥協はしない　豊島区

　豊島区高松に住む山本さんは、借家して三○年以上経過している。先代の家主とは、修理修繕については自由におこなってよいという話で良好な関係だった。家主が代替わりしてから、明渡しを求め、家賃の受け取りを拒否するなどを行ってきたため、今から一○年前、組合に加入した。その後も修理修繕に際して、工事の差し止めを要求してくるなどの争いがあった。
　昨年の暮に、再び明渡しを求める内容証明郵便が送られてきた。今回、山本さんは子供も独立し、家主の明渡し請求は正当事由がないことを明らかにしながらも、適切な補償がされるならば明渡しに応じてもよい。交渉の窓口を組合にするという返事を出した。
　組合との話し合いをどうしても拒否する家主は、一切の話し合いに応じることなく、調停にかけてきた。山本さんは「組合を通じての話し合いが出来ないならば、もう妥協はしない。組合と一緒に頑張っていく」と語った。

■判例紹介

借家人の保証人は法定更新後の債
務を負わなくてよいとされた事例

　建物賃借人の保証人が法定更新後の賃借人の債務を負わなくてよいとされた事例（東京地裁10・12・28判決、判例時報一六七二号）

（事案）
　(1)賃貸人Ｘは、Ａに対し、約二○年前に建物を賃貸し、ＹはＡの連帯保証人になった。(2)ＸとＡの間の賃貸借契約は逐次合意更新され、その都度Ｙは賃貸借契約に連帯保証人として署名捺印してきた。(3)平成六年二月、Ａが賃料等を二四○万円滞納したので、Ｘは契約を解除し、ＡとＹに建物明渡と未払賃料の支払を求める訴えを提起したが、訴訟外で和解が成立し、新たに期間を平成六年四月一日から二年間、賃料月額二六万円、滞納が二ヵ月分に達したときは無催告で解除できる等の約定で賃貸借契約を結び、Ｙが連帯保証人になった。(4)平成八年三月の更新時には約二○○万円の延滞があったがＹが全額精算したためＸは契約を解除せず、契約は法定更新された。(5)Ａはその後また延滞し、それが四○○万円を超えるまでになったので、Ｘは契約を解除し、Ｙにその支払を求める訴えを提起した。
（判旨）
　(1)ＸはＹに対し右法定更新の経緯やその後の賃料滞納について直ちに知らせず、また連帯保証人への就任も依頼しなかったが、その理由は、Ｙが連帯保証人辞任の意向を有していることをＸは承知しており、従前の経緯からしてそれもやむを得ないと考えていたからであった。
　(2)Ａは、前件訴訟の際にも約二四○万円もの賃料を延滞していたものであり、それゆえ、本件賃貸借契約には賃料の滞納が二ヵ月分に達したときは無催告解除しうる旨の特約が付されていた。しかるに、本件法定更新時には延滞額が二○○万円にも及んだが解除されず、Ｘ自身ですら更新に消極的であったがそのまま法定更新されたものであり、さらに、Ａの賃料延滞は更新後もおさまらず、最終的には四○○万円を超えるまでになり本件訴訟が提起されたというのであって、右のような事態が、本件連帯保証契約の当時、契約当事者間において予想されていたものであったとはいい難い。
　(3)以上の諸点を総合すれば、Ｙにおいて本件更新後は保証責任を負わないと信じたのも無理からぬことであったということができ、Ａが本件更新後に負担した賃料等の債務については保証責任を負わない特段の事情があったものと解するのが相当である。
（寸評）
　結論は極めて妥当である。
　ご承知のように、建物賃貸借契約の保証人は、特段の事情のない限り、更新後の賃貸借から生ずる債務についても責任を負うというのが判例の立場である。問題はこの「特段の事情」とは何かであるが、本件はその具体的事例として意味がある。
　保証人から相談を受けた場合は、よくその中味を吟味することが大切である。
　（弁護士　白石光征）

「借地借家相談室」

賃貸マンションの契約書に支払約束
がある更新料は支払を拒否できるか

　マンションの賃貸借契約の期間が一ヵ月後に満了します。家主から頼まれたという不動産屋から「契約更新のお知らせ」が送られてきました。その内容は(1)家賃は据置き、(2)更新料は家賃の一ヵ月分、(3)新手数料は家賃の半額、となっています。
　従前の契約書には「契約を更新するときは更新料を新家賃の一ヵ月分支払う」という契約条項が入っています。私は当初契約するときには契約内容を読まずに契約書にサインしてしまいました。私は前回の失敗を繰返さないために、今回更新する契約書では、この条文を削除したいと思います。削除する方法はありませんか。
　更新料は支払義務がなく払っていない人が大勢いると聴きました。私は次回以降はもちろんですが、できれば今回も更新料と手数料は支払いたくありませんが、私の場合はどうにもならないのでしょうか。
　（国分寺市・会社員36歳）
（回答） 従前の契約書に記載されている更新時には更新料を支払う旨の約定は、更新を新しい契約書を取り交す合意更新にした場合は、支払約束として有効とされ支払義務があります。
　新たに契約書を取り交さない法定更新の場合はどうでしょうか。法定更新は借家人は何らの経済的負担を負うことなく当然に更新の効果を享受できることになっています。さらに、この規定に反する特約で借家人に不利なものは無効としています。したがって本来無効な筈ですが、裁判所の判断は、無効とするものと有効とするものの両方あって確定していません。また、有効とする判例のなかには、約定更新料不払いは約束違反で契約解除というものまであります。
　そこで、仮に裁判になったら負けることもあるのを承知の上で法定更新にして更新料を払わないのも一つの方法です。しかし、万一、契約を解除されては元も子もなくなるので今回の更新料は支払い、新規契約書の更新料を支払う旨の条項は削除するといいでしょう。家主が削除に応じないときは、法定更新にします。法定更新後は契約期間の定めがない状態で続くので、更新料を支払う機会がなくなります。手数料は、仕事を依頼した人から取るもので借家人に請求するのは見当違いです。断りましょう。

2000年3月15日
第396号

明渡し裁判で頑張った
　台東区の谷口・金友さん

３年越しの明渡裁判が和解　立退料は家賃の１６０～１７０ヵ月分

　台東借組の組合員谷口さんと金友さんは、幸田露伴の小説で有名な谷中五重塔（昭和三二年心中事件で炎上）跡に程近いアパートに居住している。両人は、半年後には、静謐な環境のアパートから立退かなければならない。昨年の秋に、約三年に亘った建物明渡し裁判で和解が成立したからだ。家主は、アパート隣の寺で、九七年春に、建物明渡し訴訟を提起してきた。寺側の表面的理由は、アパートの老朽化が著しく、修繕したのでは採算が合わないというものだ。寺側の本心は勿論、アパートを取壊し墓地を造成して儲けようという目論みである。裁判が始まり暫くすると、寺側は当初の理由を取下げ、檀家専用の駐車場にするという理由に変更してきた。寺の周辺は谷中霊園。駐車スペースは無尽で何処に駐車しようが交通障碍にはならず、駐車違反の取締など皆無の場所である。
　和解の終局は結果的に金銭での決着であった。立退料は独り暮らしの谷口さん（二五年居住）が家賃の一六○ヵ月分、五人家族の金友さん（一七年居住）が家賃の一七○ヵ月分であった。

家賃値上げ特約

法定更新の選択を通知する
と家主は特約の削除に合意　豊島区

池袋駅から歩いて五分の繁華街の一角で六年前から美容室を営業している小池さんは、この一月で契約期間が満了する。
　昨年一二月に家主から契約更新にともない「原契約にあるとおり、賃料の一五％の増額、更新料の二ヵ月分の支払をお願いいたします」と通知してきた。
　小池さんはこの不景気の中で家賃は下がっているのに「契約書には更新時に一五％の値上げの特約」があるために毎回値上げを認めていたのでは、五回更新すれば最初の家賃の二倍になってしまう。　そこでなんとかしなければと思って組合事務所にやって来た。
　組合は「更新には、両者が合意して更新する合意更新と合意が出来ない場合、法律が自動的に更新してしまう法定更新があることを説明し、この法定更新では期限の定めのない契約になり更新というものがなくなってしまう事」を説明した。
　小池さんは直ちに家主に現契約書に書いている更新時に、賃料の一五％値上げの特約を削除しなければ、法定更新にすることを家主に通知した。
　すると家主側はこの特約を削除する事で合意したいと言ってきた。　小池さんは「最初は不安だったが、組合の言うとおりに交渉したら、一発で解決した。さすが組合だ。困った時は組合に行きなさいと今度は私が宣伝して回ります」と喜んで語った。

老朽借店舗の建替え
再入居の条件で合意　足立区

　足立区千住東町で時計店を営んでいる成田さんは、二○年前から店舗明渡し問題になり、その頃は開業して一○年、商売もやっと軌道に乗りかけたところだつた。成田さんはすぐに組合に加入し、受領を拒否された家賃は供託した。当時は何回となく話し合いをしたが、まとまらなかった。
　昨年、改めて話があり、家主も定年になり、息子の結婚を機に二世帯住宅を建てたいとのこと。今度は、とんとん拍子に話が進み、建替え後の再入居で合意し、昨年暮に再スタートした。
　組合と一緒に交渉した結果、仮店舗の保障・新家賃の額などが、ほとんど成田さんの要求どおりに纏まり、成田さんは喜んでいる。

■判例紹介

転貸人が家主に契約更新拒絶通知を
すると転貸借も終了するとした事例

　建物賃貸借契約が賃借人の更新拒絶・期間満了によって終了した場合、通知後六ヵ月を経過し、期間が満了したときには、転貸借関係も終了するとされた事例（東京高裁平成一一年六月二九日判決。判例時報一六九四号九○頁）

（事実）
　Ａ（賃貸人）は、昭和五一年一二月一日、Ｂ（賃借人・転貸人）に対し、本件ビルを期間二○年と定めて賃貸した。
　Ｃ（転借人・再転貸人）は、Ｂから右ビルの一部を転借し、Ｄ（再転借人）及びＥ（再転借人）に対し再転貸していた。
　Ｂは、採算が悪化したため、平成六年二月二一日、Ａに対し、本件賃貸借契約の期間満了後は賃貸借契約を更新しない旨の通知をした。
　そこで、Ａは、平成七年二月頃、ＢＣＤＥに対し、本件賃貸借は期間満了により終了し、ＢＣＤＥの転貸借も終了する旨通知し、ＢＣＤＥの転借権が右通知後六ヵ月を経過し、かつ、本件賃貸借の期間が満了した平成八年一一月三○日をもって終了したとして、所有権に基づき、ＢＣＤＥに対し建物明渡しと賃料相当損害金の支払を求めた。
（争点）
　賃貸借が賃借人の更新拒絶・期間満了によって終了した場合に、賃借人が賃借権を放棄した場合あるいは賃貸人と賃借人が合意解除した場合と同様に、転貸借が終了しないと解することができるか。
（判決要旨）
　東京高等裁判所は、一審判決を取り消して次の理由でＡの請求を認めた。
　『建物の賃貸人は、賃借権の放棄、賃貸借の合意解除など信義則上建物の転貸借関係を終了させるのを相当としない特段の事情がない限り、賃貸人は、建物の賃貸借の終了をもってその転借人に対抗することができると解される。』とし、『ＢＣＤＥの転借権及び再転借権は、Ａが賃貸借の終了を通知した後六ヵ月を経過し、かつ、本件賃貸借の期間が満了した平成八年一一月三○日の経過とともに終了したから建物を明渡すべきである。』と判示した。
（短評）
　本件も、サブリース契約に関するものである。　基となる賃貸借契約が期間満了によって終了する場合には、転貸借も終了する。このことは借地借家法三四条（借家法四条）に規定するところであるが、転借人が賃借人・転貸人の行動によって建物を明渡さなければならなくなるケースの一つである。
　本件の場合、賃借権の放棄、賃貸借の合意解除と同様に考えられないか検討する余地があろう。
　（弁護士　榎本武光）

「借地借家相談室」

期間満了で更新しない店舗契約を３
年前にしたが、借り続けられるか!?

　一二年前から店舗を借りてラーメン店をやっています。
　契約期間は三年間で、三年前の更新の時に家主が用意した更新契約書を中味を読まずに署名・捺印しました。
　ところが今回の契約更新に当って家主は「前回の契約書の約束どおり更新はしません。期間満了で明渡してください」と通告してきました。驚いて契約書を見ると、第四条に「契約期間は○年○月○日より…○日までの三年間とする。ただし期間満了の場合、本契約は終了し、更新はしないものとする」とされていました。
　その期間が今月で切れるのですが、私はよそへ移転するあてがないので、このまま居座わろうと思っています。　私には店を明け渡す法律上の義務があるのでしょうか。
　（立川市・商業４６歳）
（回答） この契約書の内容は、今大問題になっている「定期借家契約」そのものです。もちろん三年前には定期借家契約を認める法律は無かったので、この契約条項は、旧借家法（一二年前から借りている既存の契約は旧法適用）第六条の規定で無効です。
　借家を明渡す法律上の義務は全くありません。契約は自動的に法定更新され、従前と同一の契約条件で期間の定めのない状態でずっと継続されます。
　ただし今回、三月一日以降に同様の契約書を合意で締結すると今度は間違いなく「定期借家契約」になってしまい、契約期間満了で追出されてしまいます。
　合意で定期借家契約を結んだ場合は「借地借家法」第三八条二項の「建物の賃貸人は、あらかじめ、賃借人に対し、…建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない」。さらに三項で「建物の賃貸人が前項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする」との規定が適用されますので、前記の説明がなければ、定期借家契約は成立せず、普通の借家契約になります。したがって、この場合は、三年後の期間満了時に、ご質問の最初の契約と同様に法定更新にすることができます。

2000年2月15日
第395号

家賃減額で頑張った
　江戸川区深川の田中さん

交渉で三万五千円の減額　店舗補償金補充の減額交渉も三回

　江東区深川一丁目の田中さんは、地下鉄東西線の門前仲町駅近くで店舗を借り、コーヒー店を営んでいる。
　当初借りたのが二五年前。二年契約で家賃は一一万円だった。
　その後、契約更新毎に更新料、保証金の償却・補填をはじめ、家賃の値上げは、田中さんが温厚なのにつけ込んで一三万円、次は一五万円、一七万円、二○万円、二四万円と値上げが続き、保証金の補充は七二万円に達した。
　平成二年になって、家賃を二八万円に値上げ請求を受けて、田中さんは遂に組合に加入した。組合を通じて家賃額の交渉をした結果、二六万四千円に抑えることができた。
　次の更新からは、弁護士を頼んで保証金補充の減額交渉を三回やってもらい、それなりの成果を上げた。
　田中さんは、現状では、まだまだ負担が重すぎるため、組合のアドバイスで家賃の減額交渉を始めた。一回目の交渉で二万四千円の値下げを勝取ったが、その後も粘って、さらに一万円値下げに成功した。田中さんは「組合に入っていて本当に良かった」と話している。

借地は一代限り

「檀家総代で決まった」と坊さんがウソ八百の暴言
　瑞穂町

　府中市紅葉丘に住む山崎さんは、父親が昨年の一一月に他界した。父親は西多摩郡瑞穂町に六六坪の土地を借地していて、母親も数年前に亡くなり、山崎さん達兄弟三人が借地権を相続することになった。
　山崎さんを含め兄弟は全員実家を出ていて、現在は空家となっている。瑞穂町の土地の地主はお寺で、借地は九軒あるが皆んなお寺の檀家でお墓もある。借地人九軒は交代で地代を集金し、お寺に納めている。
　ところが、山崎さんの父親が亡くなった直後から、地代の集金に来なくなった。山崎さん達兄弟は、不審に思いお寺の坊さんに会って尋ねたところ、「借地は一代限りに決まっている。このことは檀家総代との話し合いで決められている」と一方的な返事。
　山崎さんは檀家総代にも問い合わせてみると、「（一代限りについて）聞いたことはないし、よく知らない」との話で、どうも坊さんの勝手な作り話であることがはっきりした。坊さんは、山崎さん達が実家を出ていることを幸いに、借地の土地を取り上げて駐車場にでもする魂胆のようだ。
　山崎さんは、兄弟三人で相談し、親が残した借地権を引継いで守るため、三人の内一番下の弟が実家に入ることを決めている。檀家の借地の土地を取り上げてまで金もうけをしようとする坊さんは許せないと、他の八件の借地人にも団結するよう働きかけをする予定でいる。

近隣の空地が目立つと建物解約通知　台東区三輪

　松本さんは、夫婦二人で約二○年の借家住いだ。台東区三輪で五坪の平屋の建物を月額三五、○○○円の家賃で借りている。平成11年12月末、安穏な暮らしは唐突な一通の配達証明付内容証明郵便により揺り動かされた。「平成12年6月末日をもって建物賃貸借契約を解約します。…」という弁護士からの明渡請求であった。近隣の空地が妙に目立ってきていた矢先であった。
　組合に相談、入会。家主に対する対応策の説明を受け、埼玉県の家主へ現金書留郵便で家賃を送って、反応を観ることにした。予想通り1月中旬に家賃受取り拒否の文面と共に家賃が送り返されて来た。即日、東京法務局へ弁済供託をしたのは勿論のことである。組合と相談しながら、強制立退きの無い『住まいは人権』のための居住権闘争に立向かう決意である。

■判例紹介

抵当不動産の賃借人が転貸して得る
転貸賃料に差押が認められた事例

　抵当権が設定されている建物の賃借人がこの賃借建物を転貸していた場合において、賃借人（転貸人）が転借人に対して有する転貸料について、抵当権者がなした抵当権に基づく物上代位による債権差押命令の申立が認められた事例（東京高裁平成一一・四・一九判決。判例時報一六九一号七四頁）

（事案の概要）
　XはA所有の建物（以下本件建物という）に根抵当権を設定したが、その後、YがAから本件建物を賃借し、Yはさらに本件建物をBに転貸した。Xは、YがBに対して有する転貸料の支払請求権（転貸料債権）について根抵当権に基づく物上代位による債権差押命令を申立て、この申立が認められた。そこで、Yは、この債権差押命令に対して不服申立（執行抗告）をし、根抵当権に基づく物上代位は抵当不動産の賃借人が有する転貸料債権には及ばないと主張して争った。
（判決の要旨）
　本判決は、「抵当権者（本件ではXのこと）は、抵当権設定者（本件ではAのこと）が目的物を第三者（本件ではYのこと）に賃貸することによって賃料債権を取得した場合には、民法三○四条を準用する同法三七二条により、上記賃料債権について抵当権を行使することができる（最高裁判所平成元年一○月二七日判決）ところ、民法三○四条一項の「債務者」には、抵当不動産の所有者（A）及び第三取得者のほか、抵当不動産を抵当権設定の後に賃借した者（Y）も含まれ、したがって、抵当権設定後の賃借人（Y）が目的不動産を転貸した場合には、その転貸料債権に対しても抵当権に基づく物上代位権が及ぶと解するのが相当である」とした上で、本件については、「抗告人（Y）は、本件建物に根抵当権が設定された後、本件建物の所有者であるAから賃借したものであるから、これを転貸したことにより取得する転貸料債権には、根抵当権に基づく物上代位権が及ぶというべきである」として、Yがした本件抗告を棄却した。
（説明）
　バブル経済の崩壊に伴う不動産価格の暴落により抵当不動産の換価では債権の回収が不可能になったため、債権回収のための抵当権者による抵当不動産の賃料の差押が増加している。本件判決でも摘示しているように、最高裁判所は平成元年一○月二七日判決で抵当権に基づく抵当不動産の賃料の差押ができることを認めた。問題は、本件のように抵当不動産の賃借人がこれを転貸して得ている転貸賃料についても差押ができるかであるが、これについては非定説・肯定説・限定肯定説と学説・裁判例が区々に別れている。裁判例は限定肯定説を取っているが、執行実務としては、東京地裁では本件判決同様、原則として賃貸借が抵当権設定後である場合に限定して肯定し、大阪地裁では所有者と賃借人が実質的に同一と認められる場合等に限定して肯定するなど裁判所によって区々の扱いがなされているようである。いずれにせよ、賃料の差押命令が裁判所から送達されてきた場合には、借地借家人組合や弁護士など専門家に相談して対処するのが無難である。　（弁護士　堀敏明）

「借地借家相談室」

店舗と住居を別々に借りているが定
期借家契約が出回った場合の注意点

　「定期借家契約」というのが三月一日から実施されるそうですが、定期借家契約とはどういう内容のものなのですか。
　私は商店街の片隅で貸店舗を借りて自然食品店を営んでいます。また、住まいも近くの賃貸マンションを借りています。定期借家契約が出回ってきた場合にどんな点に注意すればいいのでしょうか。　（墨田区・商店主42歳）
（回答）定期借家契約は、契約期間（一ヵ月でも五○年でも期間に制限は無い）を定めた契約で、その期間が満了したら契約の更新をしない旨を明記した契約です。
　従前からの借家契約は、契約期間が満了すると契約は当然に更新される仕組みになっています。家主が契約を終了させたい場合は、家主自身がその建物を使う必要性などの正当事由がなければならず、契約は法律の定めで自動的に更新する「法定更新」の制度になっています。
　定期借家契約は「更新」の無い契約です。したがって、借家人は契約期間が切れると有無をいわさず追出されることになります。それでは、追出されないために契約期間が長ければ良いかと言うと、そうでもありません。定期借家契約は原則として途中解約ができません。契約期間途中で解約するには残存期間の家賃を全額払らわされます。
　定期借家契約を定めた法律「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」は、ご指摘のとおり三月一日から施行されます。このため、三月一日以降に新たに借家をする場合は、「定期借家契約」を選択してはいけません。従前からの普通借家契約であることを確認してから契約書に署名捺印しましょう。
　居住用の従前からの普通借家契約から定期借家契約に切り替えることは「当分の間」できません。しかし非居住用の借家（店舗、事務所、工場など）では三月一日以降はいつでも家主と借家人が合意した形にすれば、定期借家契約に切り替えることができます。このため、店舗の借家契約は、僅かな家賃の減額などを餌に定期借家契約に切替えられてしまうと将来に重大な禍根を残すことになります。賃貸マンションの方はあなたの都合で転居する場合に定期借家契約を選択しないようにしましょう。

2000年1月15日
第394号

借家の明渡で頑張った
　杉並区下井草の山村さん　

同居の母親が明るくなった　老人介護の必要性を認める判決

　杉並区下井草一丁目で庭付き四ＬＤＫの建物を借りている山村千代子さんは家主から平成八年八月の契約の更新に際し、更新拒絶と明渡しの請求を受けた。山村さんの借家は西武新宿線沿いの閑静な日当たりの良い住宅地にある。
　山村さんの借家は家主から十四年前にこの家を借りた。今回、家主がまた住みたいから返せと強硬に迫ってきた。
　山村さんは、この理不尽な申入れに対しお断りをした。山村さんは八○歳を越える母と英国人事業家のご主人の三人暮らし。母親が月二回通院している糖尿の病院と近くのかかりつけの医院への便が良い。高齢の母親には急激な環境の変化はムリと判断。
　今まで、山村さんは、浴室、屋根等の修繕も家主に替わって負担。また、家賃も月額二二万円という割高な額を家主の請求どおり支払ってきた。
　家主は調停を起こしたが不調となり、本訴に移った。
　東京地裁は昨年十一月に「持病をもつ高齢の被告の母にとって、通院、療養及び近隣との交流を含む安寧な生活の維持確保上で本件建物での居住を継続する必要性が高いと認められる」と判決。

明渡しで難くせ

借家の明渡調停中に家主が
駐車場の解約を突然申入れ　府中市

　本紙三九一号に掲載した府中市若松町一丁目で、木造スレート葺の居宅一棟約一三・五坪を借りている西宮さんと小椋さんは、八月に家主の依頼を受けた不動産業者から突然一○月末までに明渡すよう通告されて以降、組合から明渡しを拒否する文書を出し、その後の話合いで業者は手を引いてしまった。
　その後、組合立会で家主との話合いの席を設けようとしたが、家主は拒否し、弁護士を代理人に立て一○月に建物明渡しの調停を立川簡易裁判所に申立ててきた。
　調停での話合いをすすめているさ中、家主は西宮さん達を訪ね「甲州街道沿いの道路は閉鎖するので、駐車場契約は解約する。十一月一杯までに車を移動せよ」と言ってきた。西宮さん達は、車一台分は借家の契約条件に含まれている（別途駐車場料金は支払っている）ので、車の移動はできないと拒否。
　甲州街道側にお茶の伊藤園に建物を建てて貸すことになっているため、家主は自分の屋敷を一部壊して、旧甲州街道に通路を設けた。西宮さん達に、その後屋敷の玄関の側に車を移動せよと言ってきたが、それでは車の出入りに不自由と二人とも頑張り、結局家主は「従来通り駐車場を使っていい」と言い出した。
　家主はその日の内に態度がくるくる変わり、二人とも困惑ぎみだが、家屋明渡しの調停についても最後まで頑張る決意でいる。

業者「新法」での契約を提案　６０年前からの既存契約変更が目的

　足立区古千谷の古藤さんは借地という認識がほとんど無かった。親が元気だった頃は親が、亡くなった後は奥さんが仕切ってきた。
　昨年四月、突然不動産屋がきて「今まで借地契約書が無いので作りたい」と言ってきた。根っから楽天家の古藤さんは「ああいいよわかった、わかった」と言う調子。契約期間は三○年と聞いて奥さんは心配だったが本人は「長くていいな」と喜んでいた。
　奥さんが組合に相談したらこの契約書は「新法」適用のものと判明。組合を通じて業者と話合い、既存の借地契約書を作り一件落着。が古藤さんは半年後に他界。建物名義は未だに父親のままだ。

「借地借家相談室」

更新料を払えば借地契約書名義を相
続人に書替えてあげると言われた

　二年前に借地人だった父親が死亡し長男の私が相続することになりましたが、何の手続きもせず現在までそのまま放置しています。借地権の相続はどのような手続きをすればいいのでしょうか。
　借地契約は今年の二月一五日で契約期間が満了します。すでに地主から更新料を坪当たり一○万円、五七坪で五七○万円要求されています。
　私は借地更新料は支払義務がないという話を聞いていますが、地主は更新料を払えば、借地人名義を私の名前で契約書を作ってあげると言っています。このため、更新料の支払を拒否すると私名義の契約書ができないと思いますが大丈夫でしょうか。（八王子市・商店主54歳）
（回答）借地の相続は、借地上の建物の登記の所有者名義を相続人に変更するだけでいいのです。これは司法書士に頼めば簡単にできます。その際に地主の承諾は不要です。地主に対しては、建物所有者の相続による移転登記終了後に「借地権は私が引継ぎました」という通知をするだけでいいのです。これで借地権の相続は完了です。相続人名義の借地契約書は無くてもなんでもありません。
　借地更新料はご指摘のとおり支払義務はありません。それは、借地契約の更新は地主にしてもらわなくても法律の定めで自動的に更新されるからです。
　借地契約の更新には、地主と借地人が更新契約条件に合意して、更新契約書に署名捺印する「合意更新」と従前の契約期間が過ぎると法律の定めで自動的に更新する「法定更新」の二通りあります。
　法定更新した場合の契約条件は、借地上の建物が非堅固（木造並）では期間は二○年で、その他の契約条件は従前と同一です。
　地主は更新料を請求する根拠として「更新料の授受は世間の慣習だ」と主張しましたが、最高裁判所で慣習説は否定され、借地更新料は支払義務なしとされました。最高裁判所昭和五一年一○月一日および昭和五三年一月二四日の判決で法的には決着済みの問題になりました。（パンフレット「借地・借家　更新料について」には右の最高裁判決文がそのままコピーして掲載されています。定価は五○○円で、各組合で販売しています）。

毎月１回１５日発行一部２００円／昭和５０年５月２１日第三種郵便物認可

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清掃代と畳の表替料金 家主は敷金から10万円差引要求

建物の転貸人の転貸賃料債権に抵当 権者の差押が認められなかった事例

家主が変って明渡し期限の付いた 契約書の作成を求められているが…。

ヤクザ風の業者が強要 底地の買取りか借地権の売渡し

対抗力ある借地権は競売中に建物が 滅失しても土地買受人に対抗できる

抵当権の登記があるのを知らず借地 上の建物を建替えたが心配はないか

厨房機の所有権争い 債権額に関わらず10万円で合意

室内に多量のゴミを放置したことが 契約解除の理由になるとされた事例

最近借家の法律が改正されて 借家人の権利が弱くなったというが本当か

地主の妨害全く受けず 組合役員が付っきりで見張り

抵当権設定前からの賃借人が当該 建物に抵当権を設定した場合の対抗力

終戦の年に契約書がないまま亡父が 借地した土地の明渡しを請求された

更新料未払との理由 法定更新の主張に家主反論できず

競落した業者の強引な底地 買取要求に5名で一致団結 板橋区

市街地再開発組合が訴訟で賃借人に 建物明渡を請求できるとされた事例

２年後にアパートを取り壊すので移 転料などは支払わないと言われたが

新家主が契約を否定 単なる使用貸借だと明渡を督促

２０年間地代を正確に支払っ て来たのにいきなり更新料 豊島区

建物の所在地番が間違った登記で借 地借家法の対抗力が認められた事例

借地人に不利な特約付の契約書の作 成を要求されたがどうしたらよいか

修理代で家主と交渉 保証金の償却分を除く全額返還

地上げ屋が突然あらわれ旧 大家の明渡要請書面で強要 台東区

賃貸人が転貸借契約承継の特約ある 時賃貸人は転貸人の地位を承継する

賃貸マンションを引越したが敷金が 返って来ない。敷金を取戻す方法は

２月に更新し、３月に明渡請求 立退料と更新時の費用返還で合意

冷酷で評判の大地主が２０年 間の供託差額３１９万円を要求 昭島市

土地賃貸人が賃借人に対し下水道敷 設につき承諾義務を負うとした事例

木造瓦葺き一戸建て借家の雨漏りを 家主の負担で修繕させる方法はないか

いい加減な修繕で再び雨漏り 今度は和解条項で独自に屋根を直す

檀家の駐車場確保のためと ６回調停不調の後協議成立 台東区

借家人の保証人は法定更新後の債 務を負わなくてよいとされた事例

賃貸マンションの契約書に支払約束 がある更新料は支払を拒否できるか

３年越しの明渡裁判が和解 立退料は家賃の１６０～１７０ヵ月分

法定更新の選択を通知する と家主は特約の削除に合意 豊島区

転貸人が家主に契約更新拒絶通知を すると転貸借も終了するとした事例

期間満了で更新しない店舗契約を３ 年前にしたが、借り続けられるか!?

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成を要求されたがどうしたらよいか

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地上げ屋が突然あらわれ旧
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設につき承諾義務を負うとした事例

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檀家の駐車場確保のためと
６回調停不調の後協議成立　台東区

借家人の保証人は法定更新後の債
務を負わなくてよいとされた事例

賃貸マンションの契約書に支払約束
がある更新料は支払を拒否できるか

３年越しの明渡裁判が和解　立退料は家賃の１６０～１７０ヵ月分

法定更新の選択を通知する
と家主は特約の削除に合意　豊島区

転貸人が家主に契約更新拒絶通知を
すると転貸借も終了するとした事例

期間満了で更新しない店舗契約を３
年前にしたが、借り続けられるか!?

交渉で三万五千円の減額　店舗補償金補充の減額交渉も三回

「檀家総代で決まった」と坊さんがウソ八百の暴言
　瑞穂町

抵当不動産の賃借人が転貸して得る
転貸賃料に差押が認められた事例

店舗と住居を別々に借りているが定
期借家契約が出回った場合の注意点

同居の母親が明るくなった　老人介護の必要性を認める判決

借家の明渡調停中に家主が
駐車場の解約を突然申入れ　府中市

更新料を払えば借地契約書名義を相
続人に書替えてあげると言われた