東京借地借家人組合連合会（過去のページ）

1999年12月15日
第393号

借地の更新で頑張る
　　大田区南蒲田の飯田さん

更新料を断ると明渡請求　地主の車の出入の邪魔という理由

　大田区南蒲田二丁目に居住する借地人の飯田さんは、高額な更新料を請求されて知人の紹介で組合に加入した。
　知人も借地人で今年二月に地上げされたことから組合に加入し、地上げ業者と対応して希望する価格で底地を購入することができたことを説明して、組合への加入を勧めた。
　飯田さんは一八坪の借地権付の建物を四○年前に購入し、クリーニング業を営んできた。前回の更新時は坪当たり五万円の更新料だったが、今回は坪一五万円の請求で、あらかじめ考えていた金額を大幅に上回っていた。
　しかも円満に更新ができればと思い、近隣よりも高額な地代に応じてきたのに、地主は周辺の更新料請求額の二倍強の高額な請求をしてきた。
　飯田さんは、坪一五万円の更新料の支払を断り、月々の地代を提供したが受領を拒否された。地主は「立退料を出すから明渡せ」と言ううので、それも断り、地代は供託すると伝えた。
　地主は、道路の角地にある飯田さんの建物が車の出入りの邪魔だと言う。飯田さんは、こんな無謀な話しには絶対に妥協しないと決意している。

相続で明渡請求

家主代理の業者は強制的な
明渡しは求めないと言明　府中市

　府中市白糸台に居住する海老沢さん他六名の借家人は、今年の六月に「家主が死亡し、相続税を支払うので貸家契約を解約する」との通知を近くに住む相続人代表者から送付された。
　海老沢さん達の住む借家は木造一戸建で、古い人で新築当時に入居して三二年になる。契約期限もまちまちで、早い人で今年一○月に切れ、来年の一一月まで存続している人もいる。
　七月に海老沢さん達は居住者全員が署名捺印して、「当地での生活の継続を強く希望します」との通知を相続人代表者の家主に送付した。
　家主は話合いには姿を見せず、代理の不動産業者と数回話合いをもった。不動産屋は「立退くなら今の家賃の一○ヶ月程度、買いたい人には売ってもいいが坪当たり八二万円以下では売らない」と言っている。　海老沢さんは、七月に国分寺で行われた多摩借組主催のセミナーに参加し、組合に入会した。他の借家人にも集まってもらい、一名を除き組合に入会し、組合を通じて交渉する旨不動産業者に通知した。一一月に入り不動産業者は(1)立退きに応じていただける方は、納得のいく立退料を提示してほしい。(2)土地買い取りを希望する方は、買取り金額を提示してほしい。(3)現状のまま住み続けたい方はその旨を申し入れてほしい。以上を提案し、明渡しの強制はしないと言明。そこで五名の組合員は「現状の条件で住み続ける」と回答した。

業者、底地買取を強要　北区

　北区滝野川で中華料理店を営んでいる杉本さんの家に、関西に本社がある不動産業者が訪れたのは九月の中頃だった。業者は「地主からこの土地を買った。底地を買うか買わないかハッキリさせろ、買わないなら追出してやる」と脅し、今問題になっている商工ローンの取立てみたいな連中だった。
　その後も、営業中にもかかわらず、訪ねてきては「早く土地を買い取れ」と脅迫してくる不動産業者に、杉本さんは、精神的にもまいってしまい、以前から知っていた組合を訪問した。そして、今後の交渉は組合を通じて行うことにした。
　その後、組合事務所を訪れた不動産業者は担当者を入替えて「お宅の組合は大阪でもお世話になっています」と一応低姿勢の挨拶だった。「買うか買わないかは借地人が選択する事、しかも、正当事由がなければ立退きも認められない事、更新料については一切支払わない事」を組合から通告した。最近、この業者が他の土地でも同じような事をしている事がわかった。

■判例紹介

賃料債権差押後に物件が売却されて
も借主は債権者に賃料支払義務あり

　不動産の賃料債権の差押があった後に当該不動産が第三者に譲渡されても賃借人は債権者の取立てに応じなければならない。（東京高裁平成一○年三月四日判決、判例タイムス一○○九号）

（事案）
　負債を抱えていた賃借人は、債権者から自分が賃貸した賃料を差し押えられてしまった。その後、賃貸人は、賃貸建物を他人に譲渡して名義変更をした。賃借人は、賃料を新しい建物名義人に支払い、差し押さえた債権者への賃料支払を拒絶した。そこで、債権者が賃借人に対して、差し押さえた賃料を取り立てる訴訟を起こした。
　判決は、賃借人は、賃料を新建物所有者に支払ったとしても、債権者への支払を拒絶できないと判断した。
（判決の要旨）
　「不動産の賃料債権に対する差押の効力が生じた後に、右不動産が第三者に譲渡され、所有権移転登記がされた場合には、右賃貸借関係は譲受人に引き継がれるが、差押の効力はそのまま継続し、譲受人たる新賃貸人を拘束すると解するのが相当である。
　不動産の賃料債権について差押の効力が生じた後に執行債務者（賃貸人のこと）が、その賃料債権を第三者に譲渡した場合、差押債権者には対抗できない。その不動産が第三者に譲渡された場合には、その賃貸人の地位は当該第三者に移転する。賃貸人の地位は、賃料債権者たる地位と不動産を賃借人に使用収益させる債務を負担する地位とから成るが、この場合の賃料債権の移転は、すでに差押があるから差押債権者が優先する。（不動産を賃借人に使用収益させる債務を負担する地位だけが新所有者に移動する。）
　不動産の譲渡による賃貸人の交代の場合には、賃料債権について引き続き差押の拘束を受けることにしても賃借人が何ら不利益を受けるものではない。」
（説明）
　賃料が賃貸人の債権者によって差し押さえられるケースが、最近では多いので、係争事例の一つとして紹介する。賃料が差し押さえられた場合の注意点は、賃料を二重に請求されることがないようにすること、処置を誤って賃料不払いとなり契約を解除されることがないようにすることである。本件では、賃借人は六人いたが、賃料差押後に賃貸建物が譲渡されたため、新しい所有者に賃料を支払ったことから、賃料を差し押さえていた債権者から二重に賃料の支払請求を受けたケースである。判決は、賃料が差し押さえられた後に建物が譲渡されても賃料差押の効力は続くので、新所有者に支払ってはならないと述べている。この取り扱い自体は通常のことである。賃料が差し押さえられたとき、賃貸人からさまざまな働きかけを受けることがあり、その説明がどこまで正確なのかの判断が付きにくいこともあるから、組合とよく相談して対処することが必要である。　（弁護士　川名照美）

「借地借家相談室」

借地上の建物が火災で全焼したが借
地権は大丈夫か。借地権を守る手段

　知人の話によると「借地の上に建物が無い状態だと借地権は消滅する」とのことで、大変心配しています。また、建物がない状態で、地主が土地の所有権を誰かに売却すると、その買主から借地人は追出されるとも聴きましたが本当でしょうか。
　借地権を守る手段があったら教えてください。
　（足立区・無職78歳）

（回答） 建物が火災で消失しても、地震で崩壊しても、建替えのために取壊しても、原因は何であれ、建物が無くなることを「滅失」といいます。
　借地借家法第一○条１項に「借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる。」と規定しています。このため、登記した建物がない場合は、原則として第三者に対抗できません。しかし、同条2項には「前項の場合において、建物の滅失があっても、借地権者が、その建物を特定するために必要な事項、その滅失があった日及び建物を新たに築造する旨を土地の上の見やすい場所に掲示するときは、借地権は、なお同項の効力を有する。ただし、建物の滅失があった日から二年を経過した後にあっては、その前に建物を新たに築造し、かつ、その建物につき登記した場合に限る。」と規定しています。このため、借地上の建物が火災で消失（滅失）した場合に借地権を守るためには、滅失した日から二年以内に新たに建物を建てて登記すればいいのです。

1999年11月15日
第392号

家賃値下げで頑張った
　　豊島区巣鴨の若林さん

店鋪賃料値下げで和解　調停で現行賃料を月額一万円減額

　豊島区巣鴨で商売をしている若林さんは、二年前には、家主から家賃値上げの調停を申立てられた。その際は、不調になり値上げをさせることは出来なかった。
　その後の二年間は、景気はますます悪くなる中で近隣の店鋪、事務所の賃料は安くなる一方だった。家主からの嫌がらせも後を経たず、この際、家賃値下げを裁判も辞さずの覚悟で調停を簡易裁判所におこすことを決意した。
　組合の全面的な援助をもらい、調停手続きを行った。近隣の店鋪を賃貸している人や不動産屋からも資料をもらい調停の場に提出した。家主側も近隣の相場を資料として提出したが、家賃が高くて入居者がいないところの資料を出してきた。
　若林さんは、もし値下げに応じないならば本裁判も辞さない決意を表明した。その後、一万円値下げするならば和解に応じてよいと言う提案をしたところ、家主はしぶしぶ和解に応じた。
　若林さんは「組合のお陰で値下げすることが出来ました。この景気の悪いときに大変有り難い結果をえる事ができました」と語った。

不明な明渡断る

家主と町会費でのトラブル
が原因でいやがらせが急増　府中市

　府中市本宿町のアパートに四年前に入居した安藤さんは息子さんと二人暮らし。六畳四畳半に四畳のＤＫが付いて家賃は月額七万一千円。
　近くに住む家主に町会費を支払っていたが、町会の回覧板も回って来ないし、領収書ももらったことがなかった。どうもおかしいと思いつつ四年が過ぎ、今年になって町会の役員に直接聞いてみたところ、役員は回覧板を回さず領収書を発行しない理由はないと説明した。
　町会の役員からも家主に問い合わせがいったのか、家主の態度が急変。今年の五月から二年契約だが、家主は不動産業者を介して「親戚の娘が出て来るので、契約を一年間のみで一年後に明渡してほしい」と言ってきた。
　不動産屋は「引越代として二〇万円に礼金・敷金は払う」と言ってきたが、安藤さんはどうにも納得がいかなかった。その後、家主の親戚の地主がアパートの前の栗林に農薬をまいたり、車止めの石を運んで部屋の前に落としたりと嫌がらせが続いた。
　安藤さんは嫌がらせに負けず、その都度厳しく抗議し、町会費の件も家主に謝罪させ回覧板も回ってくるようになった。安藤さんも明渡しの話があった当初は慌ててしまい市議の紹介で弁護士に依頼したがうまくいかず、組合に入会してからは大分落ち着いて自信を持てるようになった。現在、家主の代理人の弁護士より「円満解決したい」との申し入れがあり、組合役員と共に話合いを行っている。

更新料の供託で危機脱出　台東区

　谷本さん夫妻は、台東区今戸で作業場（十坪）を月八万円で借りている。前回の更新時に更新料で揉め、調停で更新料が家賃の三ヶ月分から一ヶ月分へと減額された経緯がある。
　七月の更新を前に六月中旬、家主は翌月からの家賃値上げを通告し、現行家賃での受取を拒否。組合は供託の手続きをした。七月末に家主は更新料支払と更新料支払い特約付きの契約書へのサインと押印を強要してきた。
　八月、家主と交渉をした結果、値上げのみ撤回。後日、「更新料を払わない場合は、家屋の明渡しを要求する」と内容証明郵便で通告してきた。これ以上、更新料拒否を強行するのは危険であり、得策で無いので、取敢えず更新料も供託し、法定更新に持込むことに方針転換した。供託による更新料支払いには家主も肩透かしを喰った状態で、特約付の契約書にサインと押印をすること無く、契約更新は成された。そして、更新料支払から解放される第一歩を踏み出すことができた。

■判例紹介

賃料増額請求権が５年の消滅
時効により消滅したとされた事例

　賃料増額請求権が五年の消滅時効により消滅したとされた事例（判例タイムス五三五号二七四頁以下。名古屋地裁昭和五九・五・一五判決）

（事案）
　本件土地の賃料は昭和四五年四月一日当時一ヶ月当たり一万二○○○円であった。
　賃貸人Ｘは右の賃料が不相当になったとして、昭和四八年一二月一三日到達の内容証明郵便をもって、翌年一月一日以降の地代を三・三平方メートル当り五○○円に増額するとの増額請求をしたが、賃借人Ｙがこれに応じなかった。
　そこで、Ｘは昭和五二年五月に賃料増額の調停を申立てた。その後、調停は不調となり、本訴を提起し、昭和五六年八月一日以降の賃料を三・三平方メートル当り一、二○○円に増額する意思表示をした。この訴訟で、Ｘは昭和四九年一月一日以降の賃料が三・三平方メートル当り月額五○○円であることの確認をも求めていた。
　これに対しＹは、昭和四九年一月一日以降の増額請求のうち、訴状送達の日である昭和五六年七月三一日までに五年を経過した分については民法一六九条により時効で消滅したと主張して争った事案。Ｘの請求を一部却下。
（判旨）
　Ｘが最初に本件土地の賃料増額の意思表示をしたのは昭和四八年一二月一三日である。月単位の賃料債権は五年間行使しないことによって時効消滅するから、Ｙの右時効援用によって本訴提起（昭和五六年七月一四日）に五年以上隔たる賃料債権差額分は消滅したことになる。したがって、Ｘはこれをもはや請求し得ないのであるから、その金額を確定する利益がなく、則ちこの部分は訴えの利益を欠いて却下を免れないこととなる。
　Ｘが主張する、賃料額が判決によって確定されるまで消滅時効は進行しないとの立論は、一旦賃貸人が増額請求をすればその後どれ程放置しても訴提起に至るまで時効期間は進行しないという結果を招くに等しく、採用できない。
　Ｘは、Ｘ申立の賃料増額調停中にＹが多少の増額には応じる旨の債務の承認をしたから時効は中断したとも主張するが、右調停はＸの主張によれば不調に終わったというのであるから、民事調停法第一九条の趣旨に則り、その後に訴の提起がなかった本件にあってはこれに時効中断の効果を認めることはできない。
（寸評）
　判旨は当然のことである。この判決の後に、平成一○年八月三一日東京地裁の判決で、本判決と全く逆のものがあったことは、本紙で既に紹介した。
　長期間にわたり供託している組合員が結構多いことを見ると、本件と同様に、相当以前の地代の増額請求を受けることがあると思われるので、参考のために紹介した。　（弁護士　田中　英雄）

「借地借家相談室」

競売で取得した新家主の明渡し請求
に従前からの借家人は対抗できるか

　五年前から３ＤＫのマンションを借りています。
　先日、この建物を競売で取得した新家主から「あなたには対抗力がないので法律上強制的に追い出すことができる」と言って、立退きを要求されました。
　こういう状態でこの先、ずっと借りつづけることがてきるでしょうか。
　（江東区・会社員43歳）

（回答） あなたが五年前に借りた時に、この建物にすでに今回競売の原因になった抵当権が設定されていたのかどうかによって借家人の対抗力の有無が決まります。賃借権の設定と抵当権の設定のどちらが先かによって分かれるのです。
　あなたが賃借した後に抵当権が設定されたのであれば競落した新家主に対抗できるので、従前どおり借り続けられます。
　抵当権の設定の方が先の場合は残念ですが原則として対抗力はありません。ただし、民法三九五条の規定で三年以下の短期契約については、残存期間だけ保護されます。賃貸借契約期間の決め方によって以下の三通りになります。
　(1)契約期間が三年以上の場合
　例えば五年契約の場合は対抗力はありません。五年のうち三年だけ保護されるということでもありません。この場合は新家主と明渡しの猶予期間などで折り合いを付けるほかありません。
　(2)契約期間が三年以下の場合
　この場合は残存期間だけは保護されます。例えば二年契約で契約期間満了まで後一年残っているときは一年だけは借りられますが、それを過ぎると対抗力は無くなります。
　(3)契約期間の定めがない場合
　期間の定めのない契約をした場合や当初は期間を定めたけれども途中で法定更新になり以後期間の定めのない状態になった場合は、競落した新家主の契約解除の請求は、６ヶ月前の通知とか、その建物を自ら使う必要性などの正当事由がなければなりません。もっとも、この場合の正当事由の判断は、普通の場合と違いゆるやかにされ、家主有利に判断されます。
　右の(2)と(3)いずれの場合も新家主と、立退料や明渡しまでの猶予期間など相当な明渡し条件で折り合いを付け、和解する事例が多いようです。

1999年10月15日
第391号

不当な更新断る

更新は九年後だと契約を見せても地主は偽物だと主張　大田区

　大田区大森南三丁目に居住する監物さんは、約一八・三四坪と一三・九二坪の二ケ所の土地を賃借して、それぞれ木造二階建ての建物を建て、そば屋を営んで来ました。
　この地域は、明治の時代から昭和の三○年ころまで、大森の海水浴場として栄えた所で、とくに、ここは鉱泉の源泉があって、森が崎鉱泉場として賑わったという。いまでは地名は大森南だが、バスの行き先名には「森が崎」と往年の地名が残っている。
　監物さんは、突然地主の代理という不動産業者から、五月末日で契約期間満了であり、更新するなら、更新料約九○万円払えといわれて、知人の紹介で組合に加入した。
　まったくあきれた不当な請求である。借地の残存期間は、四年ともう一方は九年も残っている。このことを不動産業者に伝える監物さんに対し、業者はそれはウソだその契約書は偽物と主張するばかりで、事実経過を無視するために話合いは平行線をたどる。
　この相談を受けて組合は、監物さんが賃借する土地の期限は、契約書で明らかであることを内容証明郵便で通告した。その後一ヶ月余を経過したが、地主側は沈黙している。

建替えで建物明渡し　府中市

　府中市若松町一丁目に居住する西宮さん、小椋さんは、木造平家建て一棟をそれぞれ借りている。今年八月二七日に家主代理の不動産業者から「本件建物は老朽化し、すでに建替えの時期がきています。そこで私共では、建物を取壊し新築共同住宅を予定しております」との文書が届き、今年の一○月末日までに借家を明渡すよう請求された。
　賃貸借契約は、西宮さんは今年の一一月二○日まで、小椋さんは今年の三月に更新したばかりで一年四ヶ月も残っている。ここは甲州街道から旧街道まで家主の所有地で、甲州街道沿いにあった家主が貸していた日産の自動車販売所が立退いたため、急にマンションの建設を思いたったようだ。京王線多摩霊園駅にも近く、生活するには大変便利なところで、一戸建てとしては家賃も手頃で、西宮さん達は転居したくない。
　早速、組合から契約期間も残っていること等を理由に不動産業者に明渡し拒否の回答を出し、ねばり強く交渉していく予定でいる。

風呂付きとウソの調停申立書　練馬区上石神井

　練馬区上石神井に住む橋本さんは今年五月に明渡しを家主から求められた。橋本さんは二年前に賃貸借契約を結びこのアパートに住み始めたばかりだった。六六歳という年令の事も考え引越先などの問題もあったが、適切な補償があれば明渡してもよいと返事をしていた。
　しかし、家主側は、引越料は二○万円以上は出せないと通告してきた。これに対し橋本さんは、組合や弁護士に相談した上、内容証明郵便の通知書を出した。
　家主は、簡易裁判所に明渡請求の調停をかけてきた。調停申立書には、建物は三五年経過した古い建物で二○年前に風呂、トイレを設置したが、最近は修繕費ばかりかかってしまうので改築することにした、とその正当事由を主張している。
　二年前の賃貸借契約書によれば、築一六年の建物で風呂もないという状況にもかかわらず、申立書には平気で嘘をつく家主の態度に橋本さんは調停の場で堂々とその不当性を主張していきたいと言っている。

■判例紹介

貸共同住宅で隣人に嫌がらせを繰
返し賃貸借の信頼関係破壊とした例

　共同住宅の一室の賃借人が共同生活上の秩序を乱し近隣の迷惑となる行為をしたとして契約解除が認められた事例（東京地裁平成10年5月12日判決。判例時報一六六四号）

（事案の概要）
　一、Ｙら二名（五○代と四○代の男女）は平成七年七月、Ｘから鉄筋コンクリート五階建てのマンションの五○六号室を賃借して入居した。
　二、Ｙらは入居直後から隣室五○五号室の住人に対し、同室から発生する音がうるさいなどと執拗に抗議を続け、夜中に両室の間の壁を叩くなどし、また、五○五号室入口の扉を強く足で蹴飛ばしたりした。一方、五○五号室の住人は平成四年に入居した幼児一人のある夫婦共働きの家庭であり、Ｙらが入居するまでは両隣りから音がうるさいなどと苦情をいわれたことはなく、Ｙら入居後も従前同様、夜九時には子供を寝かせ、朝、家族全員が起きて出掛けるという生活を送り、夜中に騒音を発したことは全くなかった。しかし、五○五号の住人はＹらから執拗な抗議を受け、夜、壁を叩くなどの嫌がらせを受けたためＹらと深く対立することになり、平成八年五月退去した。五○五号室は以後空室のままである。
　三、Ｙらは隣室の五○七号室の住人（公務員の独身女性）に対しても同じように音がうるさいなどと何回も怒鳴ったり壁を叩くなどした。この住人も恐怖感を募らせ平成七年一一月に退去した。
　四、Ｙらは平成八年一月に五○七号室に入居した夫婦に対しても音がうるさいなどと大声で怒鳴ったりした。右夫婦はＸの取り計らいで四○二号室へ移転した。
　五、Ｘは五○五、五○七号室の入居者の募集を仲介業者に依頼したが、五○六号室のＹらの言動が噂になって斡旋を受けられず、今もって空室のままである。
（判決要旨）
　Ｙらは、隣室から発生する騒音は社会生活上の受忍限度を超える程度のものではなかったのであるから、共同生活における日常生活上通常発生する騒音としてこれを受容すべきであったにもかかわらず、これら住人に対し、何回も執拗に音がうるさいなどと文句を言い、壁を叩いたり大声で怒鳴ったりするなどの嫌がらせ行為を続け、結局これら住人をして隣室からの退去を余儀なくさせるに至ったものであり、Ｙらの右各行為は、本件契約の特約において禁止されている近隣の迷惑となる行為に該当し、また、解除事由とされている共同生活上の秩序を乱す行為に該当する。そして、両隣りの部屋が長期間空室状態でＸが多額の損害を被っていることなどの前記事実関係によれば、Ｙらの各行為は賃貸借における信頼関係を破壊する行為に当たる。
（雑感）
　実はＹらは本件の訴えを起こされて北区借地借家人組合に相談に来た。しかし組合はＹらの主張の正当性にいま一つ自信が持てなかったので前の事件の弁護士に依頼するようすすめた。判決の認定事実の下においては結論は当然であろう。　 （弁護士　白石　光征）

「借地借家相談室」

家主から立ち退きを求められた時の
立退料で和解する場合、手順と考え方

　二階建ての古い木造アパートを借りています。先日家主から「このアパートは老朽化して危険なので建替えます。来年三月末日までに立退いて下さい」という通知がきました。
　この建物は確かに古く、隙間だらけですが、住んでいて危険とは全く感じません。むしろ古いだけに家賃が安いので大変気に入っています。とは言え建替えるのでは仕方がないと思い先日移転先捜しをしてみました。その結果、移転するには相当纏まったお金が必要なことと家賃が相当高くなることが分かりました。
　世間では、引越料とか立退料をもらった話を聞きますが、一般に立退料というのは、いくらもらえるものなのでしょうか。　（中野区・無職72歳）

（回答）立退料は、建物を明渡すと一定額が自動的に出る、と言うものではありません。家主の明渡し要求を借家人が断ると、正当事由（建物が朽ち果てる状態だと正当事由になる）がある場合を除いて、もう無理矢理追い出すことはできません。それでも追い出したい家主は「立退料を○○円払うからどいてくれませんか」と借家人に話を持ちかけ、両者の意見が一致してはじめて立退料が決まります。
　立退料を決める前に移転先を捜すのは手順前後で最もまずいやり方です。立退料は一円も払いたくない家主からは取りようのないものです。また、出ていくのが明らかな人にお金を出す人はいません。
　ご質問の場合、立退き要求の通知がきた段階に戻って問題を処理しなければなりません。まず「他へ移転するあてが全くないので明渡しはお断りします」という通知を出します。それに対して家主は、(1)立退き要求を撤回するか(2)立退料など明渡し条件で和解を打診するかになります。
　(1)の場合は、言うまでもなく今までどおり借り続けられます。(2)の場合は、話合いであなたが納得いく内容で合意すれば良く、意見が一致しないときは(1)と同様になります。
　立退料の考え方は、他の同様物件に移転するについての必要な費用をすべてはじき出します。また家賃が従前より高くなる場合は、家賃差額の一定期間分（二年あるいは三年分とすることがが多い）を含めて考えます。

1999年9月15日
第390号

火事で明渡請求

老朽化で明渡係争中に出火修繕をし解約の請求を断る　台東区

　浅草橋一丁目に住む木村さんら三名は、昨年から家主に家屋の老朽化を理由に借家の明渡し請求を受けて困った末に組合に加入した。
　組合役員の説明で家屋が朽廃していないので解約に正当事由がないことを知り、安心して解約要求を拒み、今まで借り続けていた。
　最近になり同棟の一部から出火があり組合員二名が消火活動上の水害と営業備品の損傷を受けた。　早速、役員立会いで班会議を開き、早急に原状回復を計り従前と同じように営業や生活ができるようにすることで全員の意思が固まった。
　その後、家主代理の弁護士から「家屋が通常の修繕工事では修復不能につき解体するので明け渡せ」との書面がきた。
　役員協議の上「現家屋は通常の管理と使用に耐えうる状態にあり、解約には応じられない。また、従来どおりに営業と生活を続けることを再確認させてもらう」との回答書を送った。
　その後、木村さんよりも古い借家に住んでいる役員から激励を受け、今後一○年以上まだまだ住めるとの確信を得て頑張っている。

借地更新料三千万円の請求キッパリと拒否し法定更新　府中市

　府中市府中町一丁目で一三七・九五坪を借地し、耳鼻咽喉科医院を開業している正宗さんは、堅固建物所有を目的とする土地賃貸借契約の三○年の期限が今年の五月末で切れた。
　六月に入り地主の代理人から連絡があり、正宗さんは早速「組合と話し合ってほしい」と申し入れた。組合を訪問して来た代理人は「借地契約を解消したいので、土地を買うか等価交換するか、借地権を売るか希望を述べてほしい」と言って来た。組合から「更新したい」と伝えたところ、代理人は三千万円の更新料を請求して来た。
　組合では正宗さんと協議し「更新料は法律上支払義務のない金銭であり、お支払いするつもりはない。法定更新を選択する」と回答した。
　地主の代理人からはその後何の返事もない。

不況で立退料が未払い　板橋区

　板橋の緒方さんは、店鋪兼住宅を昭和三五年から借りていた。平成八年ごろ、家主に委託を受けた受任会社が訪問し「建物が古くなったので建替えを行う予定なので明渡しをしてほしい」と求めてきた。まだまだ商売をしたいという気持ちがあったが、年令のことも考え、適切な補償が行われるならば立ち退いても良いという返事を出した。その後、受任会社と家主とのトラブルなどで代理人が変更されるなどの問題もあったが、平成九年に明渡しに関する合意書が作成された。合意と同時に補償金の半分が手渡された。その後、家主の会社の経営が悪化し、引渡の時期を半年半年と延ばす結果になり、いつ出ていくことが出来るのかと気をもむばかりになり、組合に相談した。組合では、代理人に連絡し、これ以上のばすならば法的処置も含め対処すると通告した。その結果、半月後に代理人から残金を支払うからと通告してきた。「やっと解決した。組合がなければとても一人では出来なかった」と語った。

■判例紹介

貸ビルの譲渡で新旧家主間で合意し
ても借主の敷金返還を保護した事例

　自己の所有建物を他に賃貸して引き渡した者が右建物を第三者に譲渡して所有権を移転した場合に、新旧所有者間において、従前からの賃貸借契約における賃貸人の地位を旧所有者に留保する旨の合意をしたとしても、これをもって賃借人に主張できないとされた事例（最高裁平成一一年三月二五日判決判例時報一六七四号六一頁）

（事実）
　Ａは本件ビルを建築したが、すぐに本件ビルをＢに売却した上、本件ビルを賃借した。その後、賃借人Ｘは、Ａから本件ビルの六階から八階を賃借し、敷金三三八三万一○○○円を差し入れた。
　Ａは、その後、Ｂから本件ビルを買い戻しさらにＣに譲渡した。
　そして、ＣはＹに信託譲渡した。
　右Ａ―Ｃ、Ｃ―Ｙ間の契約に際し、本件賃貸借契約における賃貸人の地位をＡに留保する旨の合意がなされた。
　ところが、その後、Ａに破産宣告がなされた。
　賃借人Ｘは、右Ａ―Ｃ、Ｃ―Ｙ間の契約及び本件賃貸借契約における賃貸人の地位をＡに留保する旨の合意がなされたことを知らないまま、Ａに対して賃料を支払ったが、この間、Ａ以外の者がＸに対して賃貸人としての権利を主張したことはなかった。
　賃借人Ｘは本件賃貸借契約における賃貸人の地位がＹに移転したと主張したが、Ｙはこれを争った。
　賃借人Ｘは本件賃借部分から退去した上、Ｙに対して敷金の返還を請求した。
　これに対し、Ｙは①、Ａから敷金の交付を受けていない。②、債務は信託の対象とならないからＹは本件敷金返還債務を承継しないと主張した。
（争点）
　本件ビルの信託譲渡を受けたＹは賃貸人たる地位を承継し、本件敷金返還債務を負担するか。
（判決要旨）
　最高裁判所は、『自己の所有建物を他に賃貸して引き渡した者が右建物を第三者に譲渡して所有権を移転した場合には、特段の事情のない限り、賃貸人の地位もこれに伴って当然に右第三者に移転し、賃借人から交付されていた敷金に関する権利義務関係も右第三者に承継されると解すべきであり、右の場合に新旧所有者間において、従前からの賃貸借契約における賃貸人の地位を旧所有者に留保する旨の合意をしたとしても、これをもって直ちに前記特段の事情があるものということはできない。』と判示した。
（短評）
　本件は不動産小口商品として売り出された物を、多数の者が共同で買い受け、これを信託銀行に信託譲渡した事案であるが、その際、新旧所有者間において前記合意をしたとしてもこれをもって賃借人に主張することができないとして、賃借人の敷金返還を保護したものである。
　今後とも、賃借人は、いつ、賃貸人の破産や所有権の移転によって、損害を蒙るかもしれないので、注意を要するところである。 （弁護士　榎本　武光）

「借地借家相談室」

堅固な建物所有を目的にした土地
賃貸借契約書を作る場合の問題点

　今年の一○月二○日で二〇年間の借地契約期間が満了します。契約更新の条件については、すでに地主との話はまとまっています。その内容は、私が地主に相当の承諾料（金額も合意した）を支払い、現存の木造建物を堅固建物に建替えるというものです。
　これから更新後の契約書を作成する段階で、私が契約書の案を作って提案することになっています。今回は条件が大分違うので従前と同様の契約書ではまずい気がします。どんな内容の契約書を作ればいいのかお教えください。
　（港区・会社経営62歳）
（回答） 今回の更新は、単に契約期間を更新するのではなく、非堅固な建物所有を目的にした借地から堅固建物所有を目的にした借地へ条件変更をし、同時に更新するというものです。ですから、従前の契約書と異なるのは借地の目的と契約期間だけで、この二点を書替えればいいのです。
　しかし、おそらく従前の契約書も含めて市販の契約書は一方的に借地人に対して義務や禁止条項ばかりが並んでいて公平なものとは言えません。左記の見本を参考にして、思いきり公平でスッキリしたものにしてください。
　「土地賃貸借契約書」
　○○○○を甲とし、○○○○を乙とし、甲乙間において、甲所有の後記物件目録記載の土地（以下本件土地という）の賃貸借に関し、次のとおり契約する。
一、本件土地の賃貸借契約は、堅固な建物所有を目的とする。
二、この契約の期間は○○年○月○日から、三○年間（三○年以上で定めることができる）とする。
三、地代は一ヶ月金○○円とし、乙は毎月末日までに甲方に持参して支払う（振込払いの場合はその旨を記載）。
四、乙が借地権を第三者に譲渡または転貸するときは、甲の承諾を受けなければならない。五、この契約は、甲乙間の平成○○年○月○日に二○年間の期間が満了した前契約を、堅固建物所有を目的に条件変更した上、更新したものである。
　以上に物件目録（測量図を添付すればなおよい）、契約の日付け、当事者の署名捺印で完成です。最後の第五項は、新借地借家法の借地権とのまぎれをなくすためのものです。

1999年8月15日
第389号

借家の明渡しで頑張った

家主、建替で立退を通知　二度断ったが、その後の協議で合意

　去年の五月に不動産屋を通じて、契約更新の拒絶を伝えられ、明け渡しを求められた中島さん。知り合いの人に相談したところ、そういう相談は借地借家人組合がよいと言われ、組合事務所にきた。
　組合では、家主からの一方的明け渡し請求には、応じる必要がないこと、正当な事由がないかぎり住み続ける権利があること等を説明した。家主の理由が、古くなった建物を新しくマンションにしたいという事なので、組合が援助し、借地借家法において住み続ける権利があること、ただし適切な補償があるならば、立ち退いてもよいことを相手に通告することにした。
　その後、半年間、家主からは何の連絡もなかった。ところが、この三月、マンション建設の施工会社の某大手建設会社の社員が家主の代理として、適切な補償とはほどとおく、新しく入る借家の礼金と引っ越し料が補償料だと言ってきたので、再度、前回同様の通知を出した。あわてた家主は別の不動産屋をたてて交渉に臨んできた。
　結果は、中島さんの希望に近い線で解決し、「組合に入ってて良かった、知らなかったら大変だった」と語った。

明渡しの裁判取下げる国分寺市

　国分寺市並木町で木造瓦葺平家建一棟を借りている原田文男さんは、昭和四四年から三○年間住み続けている。
　近所に一○軒あった貸家も原田さんを残して、全て取り壊され、跡には二○世帯が入る賃貸マンションが建った。家も古くなり、汲み取り便所を水洗に直してほしい、倒れかかった外壁を修理してほしいと二年前の一一月に組合を通じて家主に要求した。
　家主は弁護士を介して修理を拒否するとともに、一年以内に家屋を明渡すよう請求してきた。今まで原田さんに対して「そのうち直すから」と言っていたことも、全くいいかげんな話だった。
　その後、調停で四回の話し合いをもったが、家主の明渡しの条件はとても原田さんがのめる条件ではなく結局不調に終わった。昨年九月には訴訟を起こしてきたが、今年二月に裁判を途中で突然取り下げてしまった。今年の五月には、裁判ではなく話し合いをしようと言ってきた。あまりにも勝手な態度には原田さんもあきれるばかり。

三ヶ月の居住にクロスや鍵の取替費用を請求江戸川区

　江戸川区平井の村上さんは同居の母親が腰を痛めて、医者から「ベッド生活」を薦められた。ところが、部屋の入口が狭くてベッドはとても入らない。そこで、僅か三ヶ月しか居住していなかった部屋から引っ越すことにした。賃貸借契約書には、乙が退去する時はクロスの張り替え、鍵の取替え等の費用負担が記載されていた。
　不動産業者に通知したところ「契約書のとおり僅か三ヶ月でも全部取替え費用を払ってくれ」と言われた。組合に相談し、弁護士名で敷金の全額返還を求める書面を送ったところ、敷金二一万円からクロス張替えなど六万七千円程を差し引いた残金を返金。再度全額返せという書面を送った。

「借地借家相談室」

マンション備付けのエアコン故障
家主が修繕を拒否した場合の対策

　私は2ＤＫのマンションを借りています。
　先日このマンションに最初から設置してあったエアコンが故障して効かなくなりました。家主に修繕を頼んだところ「うちでは修繕はみんな借りている人にやってもらっています」といわれてしまいました。
　私は、貸家の修繕は家主がやるものとばかり思っていましたが、家主の考え方次第で借家人に押し付けられるものなのでしょうか。
　なんとか家主に修繕させる方法はないものでしょうか。
　（新宿区・会社員46歳）
（回答）賃貸住宅の修繕問題の基本は、民法六○六条一項の「賃貸人は賃貸物の使用および収益に必要なる修繕をなす義務を負う」とする規定です。貸家の修繕義務は家主にあることが明確に規定されています。
　家主がこの法律の規定する義務を免れるためには、あらかじめ契約で「エアコンの修繕は借家人の負担とする」との特約（特約とは法律の定めに反する約定）を交わしておかなければなりません。
　あなたの場合は右の特約はないので、言うまでもなく修繕義務は家主にあります。以下は家主の負担で修繕をする方法です。
　まず内容証明郵便（配達証明付）で家主に対して通知をします。その内容は「エアコンが故障したので本書到達後一〇日以内に修繕してください。もし右期日までに直していただけない場合は、私が業者に依頼して修繕し、その修繕費用は後日請求しますのでお支払いください。万一お支払いくださらない場合は、やむをえず月々の家賃から差し引きます」。　この通知を出した上で、その内容のとおり実行すればいいのです。修繕費用が月額家賃の半分以上になる場合は二ヶ月に分けて差し引きます。
　ここで、内容証明郵便を出す段取りを省略して、修繕費を家賃から差し引くと家賃の一部不払いとして契約解除の原因にされるおそれがあります。
　借家の修繕問題の解決法には別の方法もあります。それは、家主は完全な物を貸す義務がありますから、エアコンの故障という不完全な度合いに応じて家賃を減額し、直ったら元に戻す方法です。しかし、これではいつ直るか分からず、前の方が現実的です。

1999年7月15日
第388号

「借地借家相談室」

年金暮しなので更新料は断るつもり
ですが、借地契約はどうなるのか

　今年の七月一二日で二〇年間の借地契約期間が満了します。地主は近所の不動産屋を通じて更新料を坪一〇万円、三四坪で総額三四〇万円請求してきた。
　二〇年前は坪一万円だったし、私はまだ若く収入もそれなりにあったので支払いました。ところが現在、収入は年金だけで、とても地主の請求に応じられません。
　借地借家人組合では、更新料は支払義務がないと言っていますが、更新料を支払わないと新しい契約書がもらえないと思います。その場合、借地契約はどうなるのでしょうか。
　（中野区　無職６８歳）

（回答）借地契約の更新には、地主と借地人が更新契約条件に合意して、新しい契約書に署名捺印する「合意更新」と、新しい契約書を作らずにそのまま従前の契約期間が過ぎると法律の定めで自動的に更新してしまう「法定更新」の二通りあります。
　法定更新した場合の契約条件は、借地上の建物が木造などの非堅固建物ならば契約期間は二〇年で、その他の契約条件は従前と同一で続きます。
　借地借家法が九二年八月に改正されましたが、借地契約を今更新しても新法の適用はされず、旧借地法が引き続き適用されます。
　更新料は地主に契約を更新してもらう対価として支払うものですが、更新は地主にしてもらわなくても法律の定めで自動的にできるのですから、更新料は支払う根拠はありません。また地主は更新料を請求する根拠として「更新料の授受は世間の慣習だ」と主張しましたが、最高裁判所で慣習説は否定され、借地更新料は支払義務なしとされました（最高裁判所昭和五一年一〇月一日および五三年一月二四日判決・東京借地借家人組合連合会発行のパンフレット「借地借家更新料について」参照）。
　借地更新料は支払うことはありません。更新料を支払わなくても借地人が後に不利益をこうむることは全くなく、すでに更新料を支払わなかった借地人は大勢いますが、今も従前どおり借地を続けています。安心して断わりましょう。
　具体的にすることは①契約期間満了後も従前どおり引き続き借りたいとの更新請求。②更新料の請求を断わる。の二点で組合を通じて行えば一層効果的です。

1999年6月15日
第387号

「借地借家相談室」

不景気の打開策として相場より大幅
に高い店舗の家賃を値下げしたい

　一六年前から一二．五坪の店舗を借りて飲食店を営業しています。
　家賃は三年ごとに値上げされ坪二万四千円です。最近、この付近の商店街では空店舗が多く、家賃の相場が大幅に下がっているようです。近所の不動産屋の話では、同じ程度の店舗で坪一万八千円前後だそうで、実際に借りる段になると、さらに値引きしているという話です。
　最近、不景気で営業成績がふるわず赤字経営に陥りました。そこで打開策を考えていたら、家賃が世間相場より大幅に高いことに気付いたのです。
　この際、家賃の安いところに移転してしまえば簡単なのですが、移転するとなるとまとまった資金が必要です。
　家賃を相場並みに値下げすることができないでしょうか。 （港区・自営業54歳）

（回答）まず家主に家賃の値下げ要求をします。値下げ要求の時期は賃貸借契約の期間途中でもかまいません。ただし、すでに支払済みの過去の家賃の値下げ要求はできません。
　世間では、貸店舗の賃借人からの家賃値下げ要求に応じる賃貸人が結構いるようです。空店舗が増えているので、テナントに逃げられては元も子もないからでしょう。
　家主がどうしても値下げに応じない場合は、簡易裁判所に家賃減額の調停の申立をします。調停申立の手続きはきわめて簡単です。裁判所に備付けの「賃料増減額調停申立書」に必要事項を書き込めばいいので、誰にでもできます。　調停は、裁判所が結論を決めるのではなく、申立人と相手方双方の意見をとりまとめるのです。両者の意見が一致すれば、それで調停が成立し家賃額が決まります。
　家賃額が確定するまでの間の家賃は、値下げ前の額を支払います。確定前に値下げ額で支払うと家賃の一部不払いで契約解除の原因になります。
　最近は、近隣の家賃の水準が大幅に下落している状況なので、調停で値下げの成果を挙げる事例が増えていますが、もし調停で双方の意見が一致せず、調停不調になったら本裁判にします。裁判で減額が確定すれば、すでに支払った家賃との差額は年一割の利息が付いて返還されます。

1999年5月15日
第386号

「借地借家相談室」

マンションを引越したが預けた敷金
が返ってこないが、取り戻す方法は

　七年間借りていたマンションを私の都合により三月二五日に引越ししました。
　預けてあった敷金二四万円は、管理業者が「後日清算します」と言って返してくれません。一〇日後に請求書を送ってきました。その内容は「乙は本物件を明渡す時は本物件を原状に回復しなければならない」という契約条項を根拠に請求金額は「畳の表替え、クロスの張替え、玄関ドアーとベランダ手摺りの塗装、鍵の交換、ハウスクリーニング代の合計額から敷金二四万円を差し引いた不足分三六万三千二〇〇円」となっています。
　私には、請求された金額の支払義務はないと思います。敷金を取り戻す方法はないものでしょうか。　（江東区・会社員41歳）

（回答）敷金は借家人の家賃など債務の担保として家主に預けているものです。
ですから建物を明渡す時点で家賃の未払分など借家人が家主に支払うべき債務があれば、それを敷金から差し引いた残金が返還されます。もちろん、債務がなければ敷金は全額返還されるものです。
　貸家の修繕について、民法六〇六条一項は「賃貸人は賃貸物の使用及び収益に必要なる修繕を為す義務を負う」と規定していますから、借家人が建物を普通の使い方で使用した結果、年月が経過して汚れたり、腐ったり、壊れたりしたものの修繕は、家主に修繕義務があります。
　もっとも、普通の使い方ではなく、壁に穴をあけたとか畳に焼け焦げをつくったようなものについては借家人が弁償しなければなりません。
　原状回復とは、借家人が建物を借りた後に、和室を洋室にしたとか間仕切りをしたとか棚を吊ったとかしたものを借りる前の形に戻すことで、修繕とは別のことです。
　管理業者が請求してきたものは、次の人に貸すために家主のする仕事の費用です。それを前に借りていた人から取ろうとするのはとんでもない悪徳商法です。もちろん、あなたの支払うべき債務ではありませんから、敷金は全額返せという請求をしましょう。
　請求しても返さないときは裁判所に支払命令の申立をすれば取り返すことができます。支払命令申立の用紙は、東京簡易裁判所の窓口にあります。

毎月１回１５日発行一部２００円／昭和５０年５月２１日第三種郵便物認可

借地の更新で頑張る 大田区南蒲田の飯田さん

更新料を断ると明渡請求 地主の車の出入の邪魔という理由

相続で明渡請求

家主代理の業者は強制的な明渡しは求めないと言明 府中市

業者、底地買取を強要 北 区

賃料債権差押後に物件が売却されて も借主は債権者に賃料支払義務あり

借地上の建物が火災で全焼したが借 地権は大丈夫か。借地権を守る手段

家賃値下げで頑張った 豊島区巣鴨の若林さん

店鋪賃料値下げで和解 調停で現行賃料を月額一万円減額

不明な明渡断る

家主と町会費でのトラブルが原因でいやがらせが急増 府中市

更新料の供託で危機脱出 台東区

賃料増額請求権が５年の消滅 時効により消滅したとされた事例

競売で取得した新家主の明渡し請求 に従前からの借家人は対抗できるか

不当な更新断る

更新は九年後だと契約を見せても地主は偽物だと主張 大田区

建替えで建物明渡し 府中市

風呂付きとウソの調停申立書 練馬区上石神井

貸共同住宅で隣人に嫌がらせを繰返し賃貸借の信頼関係破壊とした例

家主から立ち退きを求められた時の 立退料で和解する場合、手順と考え方

火事で明渡請求

老朽化で明渡係争中に出火修繕をし解約の請求を断る 台東区

借地更新料三千万円の請求キッパリと拒否し法定更新 府中市

不況で立退料が未払い 板橋区

貸ビルの譲渡で新旧家主間で合意しても借主の敷金返還を保護した事例

堅固な建物所有を目的にした土地 賃貸借契約書を作る場合の問題点

借家の明渡しで頑張った

家主、建替で立退を通知 二度断ったが、その後の協議で合意

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マンション備付けのエアコン故障 家主が修繕を拒否した場合の対策

年金暮しなので更新料は断るつもり ですが、借地契約はどうなるのか

不景気の打開策として相場より大幅に高い店舗の家賃を値下げしたい

マンションを引越したが預けた敷金が返ってこないが、取り戻す方法は

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　　大田区南蒲田の飯田さん

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