他の賃借人が発生させた悪臭により賃貸人に損害賠償が認められた事例
他の賃借人が飲食店経営により発生させた悪臭について、賃貸人に債務不履行に基づく損害賠償責任が認められた事例(東京地裁平成一五年一月二七日判決、判例タイムス一一二九号)
(事案)
賃借人は、ビルの一階部分を、賃料月額二〇万円で賃借して婦人服販売店を経営していたが、賃料不払のため賃貸借契約を解除された。賃借人は、賃貸人から店舗明渡訴訟を起こされたが、和解の中で、次のような主張をした。ビル内の飲食店から魚の生臭い匂い、煮魚・焼き魚の匂いなどが発生し、賃借人が賃貸人に苦情を申入れ換気装置の改善措置がとられたが、やはり悪臭は止まらなかった。顧客は減り売り上げも減った、だから賃料を支払わなかったと。しかし、その点は、別訴を起こして裁判所の判断を受けるということで、店舗を明渡す和解をした。
そこで、賃借人から賃貸人に対して、悪臭による損害賠償請求の訴訟を提起した。
(判決の要旨)
「地下一階の飲食店の営業活動によって、魚の生臭い匂い、煮魚ないし焼き魚の匂いが発生し、賃借人の婦人服販売業に影響を与えたことが認められる。しかし、賃貸者契約における賃貸人の義務を考えるに、賃貸人には、あらゆる匂いの発生を防止すべき義務があるというものではなく、賃貸借の目的から見て、目的物をその目的に従って使用収益するうえで、社会通念上、受忍限度を逸脱する程度の悪臭が発生する場合に、これを放置もしくは防止策を怠る場合に、初めて、賃貸人に債務不履行責任が生ずるというべきであり、悪臭発生の有無、悪臭の程度、時間、当該地域、発生する営業の種類、態様などと、悪臭による被害の態様、程度、損害の規模、被害者の営業等を総合して、賃借人として受忍すべき限度内の悪臭か否かの判断をすべきである。
本件についてみると、賃借人の三〇数人の顧客が、地下飲食店からの魚の匂いについて、かなりの不快感を示しており、主たる商品である婦人服等に魚の匂いが付着し、悪臭によって被害を被った事実が認められ、他方賃貸人において、悪臭に関する抜本的な解決策をとらなかったことが認められる。
したがって、賃貸人は、賃借人に目的物を使用収益せしめる義務を怠ったものであるから、賃借人に対して債務不履行責任を負うというべきである。賃借人の被った損害額であるが、平成一二年五月ころから同一四年七月一五日までの間において、悪臭の発生等相当因果関係にある損害は、八〇万円と認めるのが相当である。」
(説明)
本件では、顧客の報告書によって悪臭の被害が認定されたが、立証の難しさがある。損害について賃借人が月二二〇万円の二割程度の収入ダウンがあったと主張したが、裁判所は総額八〇万円が相当な損害額だとした。本件賃借人は、賃貸人の悪臭防止義務不履行対して賃料不払いで対抗しているが、一般的にはこのような対抗はすべきでないだろう。
【再録】
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