賃料増額を拒否し支払額が税額以下と知っていた時は相当賃料に当らない
一、賃借人が主観的に相当と認めていない額の賃料が借地法一二条二項にいう相当賃料といえるか
二、賃借人が公租公課の額を下回ることを知りながら支払う賃料が借地法一二条二項にいう相当賃料といえるか(最高裁平成八年七月一二日第二小法廷判決。ジュリスト最高裁時の判例U三一五頁以下)
(事案の概要)
X(地主)はY(借地人)に対して平成六年一一月分以降の賃料の増額請求(月額六万円を十二万円)をしたが、Yはこれに応じることなく従前の地代額の支払を続けた。Xらは平成二年二月に増額分の支払催告を一週間以内に支払がないときは契約解除をする旨通知した。
そして、Xらは、建物収去土地明渡等を求める訴を提起。Xらは「Yは月額六万円が公租公課にも満たないことを知り、主観的にも月額六万円は相当でないと認識しながら、増額請求以後も従前額の支払を続けたから、借地法一二条二項にいう相当と認める賃料の支払をしたものとはいえず、債務不履行に当る」と主張。原審は、Yは増額を正当とする裁判の確定までは従前の賃料額を支払う限り債務不履行責任はないとして、Xらの明渡請求を棄却。本判決は、Yがその支払額を主観的に相当と認めていたか、その支払額が公租公課の額を下回ることを知っていたかを審理して解除原因の存否を判断させるため、明渡請求に係る部分を原審に差し戻した事案である。
(判旨)
一、賃料増額請求につき当事者間に協議が調わず、賃借人が請求額に満たない額を賃料として支払う場合において、賃借人が従前の賃料額を主観的に相当と認めていないときは、従前の賃料額と同額を支払っても借地法一二条二項にいう相当賃料を支払ったことにはならない。
二、賃料増額請求につき当事者に協議が調わず、賃借人が請求額に満たない額を賃料として支払う場合において、賃借人が自らの支払額が公租公課の額を下回ることを知っていたときは、賃借人が右支払額を主観的に相当と認めていたとしても特段の事情のない限り、借地法一二条二項にいう相当賃料を支払ったことにはならない。
(寸評)
判旨一は、賃借人が従前額以上の賃料を支払う場合には、その主観的な認識如何にかゝわらず、相当賃料として、債務不履行にならないか、という問題である。
借地法一二条二項の解釈について最高裁の判断として注目される。判旨二は、かつての最高裁第一小法廷判決(平成五・二・一八)が傍論として、公租公課額を下回ることを知っていた場合には、債務不履行になると示していたが、その事件は、公租公課額を下回ることを知らなかった事案であった。
若干の判例の動きを経ての最高裁の判決である。公租公課額を下回る賃料の支払について、注意を要するので紹介した。
【再録】
(弁護士 田中英雄)
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