借地上の建物が朽廃したことにより借地権が消滅したと認定された事例
朽廃の意味
建物の朽廃により借地権が消滅したと認定された事例(東京高裁平成5年8月23日判決、判例時報1475号72頁)
(事案の概要)
借地人の先代は、昭和43年12月31日、地主の先代から、普通建物所有の目的、賃貸借期間20年の定めで借地した。その借地契約は、昭和63年12月30日法定更新された。借地上の建物は、昭和27年頃に建築され、築後すでに40年を経過していたが、長らく、使用収益されず、修繕・補修もされないまま朽ち果てるままに放置されていた。建物は、(1)北側の瓦屋根は全て剥がれて錆付いたトタンが剥き出しとなっており、南側の瓦屋根もあちこちでずれ落ちたり剥がれたりしている。(2)建物の土台が腐り、東側に大きく沈んで建物全体が歪み、戸、窓などは風雨に打たれて木が腐り、開け閉めも困難な状況である。(3)電気、ガス、水道は10数年来供給停止となって便所も使用されていない。(4)床や壁もあちこち崩れ落ち、沈み、裂けるままに放置されている状態であった。
そこで、地主は、建物は朽廃止し、全面的改築と殆ど選ぶところがない措置を講じなければならない状況にあるので、借地権が消滅したとして、建物収去土地明渡しを求めた。
(判決)
東京高等裁判所は、「本件建物が建築後約40年という長期間を経過した建物、全体的に経年による劣化が進んでいるほか、無人のままに長年放置され、更に、もと六畳の和室の一部を解体撤去して四畳の和室にした際の補修が充分されないなど保守管理が不十分であったことから、基礎、土台、柱及び屋根といった本件建物の構造部分にほぼ全面的な補修を行わなければ使用できない状況に至っていることを考慮すると、その補修には新築同様の費用が必要であると確認されるので、本件建物は平成5年6月30日までにはすでに建物としての社会的、経済的効用を失い、朽廃したものと認められるとして、建物朽廃により借地権が消滅したものと判断した。
(評論)
建物の朽廃とは、自然の推移により、建物が社会的経済的効用を失う程度に腐朽し、通常の修繕程度ではその寿命を延ばすことができず、建物の効用を維持できない状態になったことをいうとされている。
これまで、最高裁判所は、柱や桁、屋根の小屋組などの一部に腐食箇所が認められる場合でも、これらの部分の構造に基づく自らの力によって屋根を支えて独立に地上に存在し、内部への人の出入りに危険を感ぜしめるようなものでないときは、朽廃を認めていず、判例上、建物の朽廃の認定については、極めて厳格で、容易に朽廃を認めない傾向にあるといえる。
【再録】
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