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東京借地借家人新聞


2006年10月15日
第475号
 ■判例紹介

借地上の建物が朽廃したことにより借地権が消滅したと認定された事例

 朽廃の意味
 建物の朽廃により借地権が消滅したと認定された事例(東京高裁平成5年8月23日判決、判例時報1475号72頁)

(事案の概要)
 借地人の先代は、昭和43年12月31日、地主の先代から、普通建物所有の目的、賃貸借期間20年の定めで借地した。その借地契約は、昭和63年12月30日法定更新された。借地上の建物は、昭和27年頃に建築され、築後すでに40年を経過していたが、長らく、使用収益されず、修繕・補修もされないまま朽ち果てるままに放置されていた。建物は、(1)北側の瓦屋根は全て剥がれて錆付いたトタンが剥き出しとなっており、南側の瓦屋根もあちこちでずれ落ちたり剥がれたりしている。(2)建物の土台が腐り、東側に大きく沈んで建物全体が歪み、戸、窓などは風雨に打たれて木が腐り、開け閉めも困難な状況である。(3)電気、ガス、水道は10数年来供給停止となって便所も使用されていない。(4)床や壁もあちこち崩れ落ち、沈み、裂けるままに放置されている状態であった。
 そこで、地主は、建物は朽廃止し、全面的改築と殆ど選ぶところがない措置を講じなければならない状況にあるので、借地権が消滅したとして、建物収去土地明渡しを求めた。

(判決)
 東京高等裁判所は、「本件建物が建築後約40年という長期間を経過した建物、全体的に経年による劣化が進んでいるほか、無人のままに長年放置され、更に、もと六畳の和室の一部を解体撤去して四畳の和室にした際の補修が充分されないなど保守管理が不十分であったことから、基礎、土台、柱及び屋根といった本件建物の構造部分にほぼ全面的な補修を行わなければ使用できない状況に至っていることを考慮すると、その補修には新築同様の費用が必要であると確認されるので、本件建物は平成5年6月30日までにはすでに建物としての社会的、経済的効用を失い、朽廃したものと認められるとして、建物朽廃により借地権が消滅したものと判断した。

(評論)
 建物の朽廃とは、自然の推移により、建物が社会的経済的効用を失う程度に腐朽し、通常の修繕程度ではその寿命を延ばすことができず、建物の効用を維持できない状態になったことをいうとされている。
 これまで、最高裁判所は、柱や桁、屋根の小屋組などの一部に腐食箇所が認められる場合でも、これらの部分の構造に基づく自らの力によって屋根を支えて独立に地上に存在し、内部への人の出入りに危険を感ぜしめるようなものでないときは、朽廃を認めていず、判例上、建物の朽廃の認定については、極めて厳格で、容易に朽廃を認めない傾向にあるといえる。

【再録】




更新で頑張る
練馬区旭丘の酒井さん

契約期限を新法で請求
旧法者は20年なのに10年と地主記載

 練馬区旭丘で借地して40年を経過した酒井さんは、この10月で期間が満了し、更新の時期を迎えた。
 地主から今回、更新後の契約書が送られてきた。契約書案には、その第2条で、契約期間を10年とするというものであった。組合の新聞その他で、借地借家法が改定される以前に契約したものは旧借地法が適用されると聞いていた酒井さんは、心配になった組合事務所に相談に来た。
 組合では、酒井さんが賃借している借地は旧借地法が適用されること並びにその期間については20年以上とすること。それ以下の期限を定めた場合はその条項は無効となり、期限の定めのない契約となって、堅固でない木造の場合は20年となることを説明した。相手の地主は、平成4年に施行された借地借家法で2回目以降の更新は10年とするという条項を勘違いして契約書に記載してきたものと考えられるとし、相手の地主に通知することにした。
 酒井さんは「これで安心しました。ゆっくり眠れます」と話した。




更新料断る

地代は更新が終わってない
と受領拒否したので即供託

大田区

 大田区西蒲田1丁目所在の宅地約32・21坪を借地している赤木さんは、約3年前借地の譲渡に関する承諾を求めたが、地主は回答を引き延ばすばかりなので組合に相談し入会された。
 組合役員が交渉を行うことになって、地主はこれまでの理不尽な対応は改めたのです。しかし、組合役員が借地権購入者を提示して承諾を求めたにも関わらず、地主は自分が買い取るというものの、赤木さんの希望を無視した低額な価格を提示して時間稼ぎするという態度に終始したのです。
 土地の契約更新を迎えて不動産業者を代理人にして更新料を請求する地主に対して、赤木さんは譲渡を取りやめて息子さんが祖父の借地権を相続するとともに住むことを通告した。交渉継続中に組合役員が死去するとの不幸な状況が生じたのですが、担当交代して交渉に臨むことになりました。新たな担当者は赤木さんから預かった地代を地主に直接会って、提供したのですが「更新手続き」が終わっていないと受領拒否。そこで更新料の金額を尋ねると代理人の請求額より100万円も多い金額を提示するので、代理人の業者に確認して間違いが明らかになっても、侘びもしない地主には呆れるばかりです。この交渉内容を聞いた赤木さん親子の決断は早く明確でした。借地法第4条・6条を理解し、更新料の支払いの習慣はないとの最高裁判決に確信をもって、更新料支払いを拒否することを決意した。
 地主代理人との交渉は決裂し地代供託となった。




 

賃料減額で和解

春日部市

 春日部で和菓子の製造販売を行っている宮地さんは、2年前に司法書士を代理人として減額請求をしたが、成果はなかった。近隣並みの賃料にしたいという希望で組合に入会した。
 賃料減額については双方の合意が必要なこと。出来ない場合は調停を行い、合意が出来ない場合は、裁判で決着することなどを説明した。 相手は弁護士を代理人にして、「近隣の相場と比較しても高くない」と主張した。宮地さんは知合いの不動産業者の資料などもとに高額であると主張したが合意できず、不調に終わった。裁判で決着をつけることにし、組合の援助で裁判所に賃料減額の裁判をおこした。同時に「話合いで合意したいと言うならば応じる用意があるが、だめならば鑑定の申し出を行い、判決をもとめる」と通知した。弁護士はここにきて賃料減額に応じ、4万円の減額を申し出た。不服はあるものの宮地さんは合意に応じ和解。「弁護士も使わずに一人で調停、裁判までできたのも組合のおかげです。ありがとうございます」と宮地さんは話した。




慌てて同額に減額

新入居者より家賃が高いと抗議

足立区

 足立区花畑に住んでいる中田さんは、現在のアパートを借りて15年になる。
 最近どうしても許せない事があり悩んでいた。と言うのは、最近、新しく入居する人の家賃が自分より安い事に気がついてしまった。、管理会社に抗議したところ、皆さんいろいろ事情があり条件も違うと、抽象的な返事。これはなめられてると思い相談する所を探しまくった。そして、組合にたどり着き交渉に入った。組合で管理会社に連絡をとったら「来年3月の更新時期までにオーナーを説得しておきますので待って頂きたい」と低姿勢だった。ところが、3日後に本人に連絡が入り10月から皆さんと同賃料でいいですという事になった。




【借地借家相談室】

店舗契約で借地借家法を回避する脱
法的営業委託契約があるので注意

(問)6年前から建物所有者から厨房設備一式を居抜きで引継ぎ、テイクアウトの焼餃子屋を営業しているが、最近、期間が満了したから明渡してくれと言われている。契約は建物賃貸借ではなく、営業委託となっている。しかし、貸主は営業には全く関与していない。契約時から委託料は定額となっており、実質は建物賃貸借と思われるので、私の場合、借地借家法の適用を受けるのではないか。

(答)貸店舗では、契約内容によって借地借家法の保護を受けるかどうかで大きな差異がある。
(1)純然たる店舗賃貸借契約。使用者が場所使用の対価として賃料を支払う。これに対しては借地借家法が適用される。
(2)経営或は営業委託契約。店舗使用者(借主)は、売上の一定割合を報酬として営業委託者(貸主)に支払う。この場合は、借地借家法の保護はなく、貸主はいつでも営業委託契約を解除し、借主に対し店舗からの立退きを請求出来る。使用契約が容易なため、借地借家法を回避するための方法として利用されている。
 今回の相談者と同様の問題で争われた裁判例で検討してみる。賃借人は契約書では経営委託契約になっているが、実質は建物賃貸借であると主張し、賃借権の確認を求めて提訴した。一審では賃借人が敗訴し、二審で逆転勝訴した。
 裁判所は「本件契約書では店舗経営委託契約とされているものの、そこでの店舗の経営は経営者の名義で、その計算と裁量により行われ、建物オーナーがその経営に関与することはなく、分配金、共益費の名義の金員は店舗経営による収益にかかわりなく定額であることからすると、本契約は、店舗経営委託契約の性格を持たず、かえって経営者に本件物件を内装、器具を飲食店のために自由に使用収益して、その収益の取得することを許し、その対価として一定額の金員を受領することとする建物賃貸借の性格を有することは明らかである」(大阪高裁1997年1月17日判決)
 委託か賃貸借かの分かれ目は、経営権の実質が受託者(借主)にあって委託者(貸主)は一定額の金銭を受領するに過ぎないものであるか否かということにある。相談者の場合は、借地借家法の適用がある賃貸借と認められる可能性が高い。



毎月1回15日発行一部200円/昭和50年5月21日第三種郵便物認可


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