ビルの賃貸借で借主から貸主に対する
電気料金の水増分の返還が認められた
ビルの賃貸借契約において、賃借人から賃貸人に対する電気料金の不当利得返還請求が認められた事例(東京地裁平成一四年八月二六日判決、判例タイムス一一一九号)
(事案の概要)
賃借人は、宝石・貴金属の加工販売をするため、ビルの七階部分を賃借していたが、契約が終了した後、契約期間中、電気料金を払いすぎていた、として返還請求訴訟を提起した。
貸主は、一階から八階までの各テナント部分及びエレベーター等の共用部分の電気使用料を各テナントに割り振って徴収していた。本件賃借人は、自分の賃借部分以外の共用部分の電気料金合計一一一万円は支払義務がなかった、と主張。
本件では、賃借人が支払わなければならない電気料金は、本件事務所内で使用した電気料金だけか、それとも、ビル全体の共用部分についての受電配電設備の保守点検費、受電配電設備の維持管理修繕費用、検針費用等の費用をも分担して支払わなければならないのか、という点が問題になった。
(判決の要旨)
本件賃貸借契約においては、月額賃料は三二万九千円のままとするが、管理費、共益の負担を求めない条件で契約が成立したこと、賃借人が遵守しなければならない管理規定によれば、本件事務所内で使用する電気料金は賃借人が負担し、その電気料金の支払い方法については、東京電力によるその月分の検針日を基準として、設置メーターの検針量により実費計算して請求することとされていたこと、本件管理規定によれば、共用部分で使用する照明、その他動力に使用する電気料金は、管理費に含めるものとすることとされていたことが認められる。以上の認定事実によると、本件事務所の賃借人は、本件事務所内で使用した電気料の負担をすればよく、本件ビルの管理に要したあるいは要する費用、共益費については支払い義務がないという条件で本件賃貸借契約を締結したと認めるのが相当である。そうだとすると、共用部分についての負担金等は通常管理費に含まれるものとして、これらを電気料金に含めて請求する賃貸人の主張は理由がないというべきである。
(解説)
テナントビルの賃借について、家主がビル全体の電気料、水道料等の光熱費、管理費などを賃借人から徴収し、賃料値上や解約時の保証金清算時に、賃借人が、その計算方法や徴収方法について、不明朗さを問題にすることがある。賃借部分以外の共用の光熱費について、支払い義務があるかどうかは、賃貸者契約においてどのように定められているかが判定の第一基準である。本件では共用費用の負担の約束がないという点で賃借人勝訴となったが、契約書には支払義務規定があるが、その解釈が問題になるケースもある。
【再録】
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