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東京借地借家人新聞


2006年9月15日
第474号
 ■判例紹介

ビルの賃貸借で借主から貸主に対する
電気料金の水増分の返還が認められた

 ビルの賃貸借契約において、賃借人から賃貸人に対する電気料金の不当利得返還請求が認められた事例(東京地裁平成一四年八月二六日判決、判例タイムス一一一九号)

(事案の概要)
 賃借人は、宝石・貴金属の加工販売をするため、ビルの七階部分を賃借していたが、契約が終了した後、契約期間中、電気料金を払いすぎていた、として返還請求訴訟を提起した。
 貸主は、一階から八階までの各テナント部分及びエレベーター等の共用部分の電気使用料を各テナントに割り振って徴収していた。本件賃借人は、自分の賃借部分以外の共用部分の電気料金合計一一一万円は支払義務がなかった、と主張。
 本件では、賃借人が支払わなければならない電気料金は、本件事務所内で使用した電気料金だけか、それとも、ビル全体の共用部分についての受電配電設備の保守点検費、受電配電設備の維持管理修繕費用、検針費用等の費用をも分担して支払わなければならないのか、という点が問題になった。

(判決の要旨)
 本件賃貸借契約においては、月額賃料は三二万九千円のままとするが、管理費、共益の負担を求めない条件で契約が成立したこと、賃借人が遵守しなければならない管理規定によれば、本件事務所内で使用する電気料金は賃借人が負担し、その電気料金の支払い方法については、東京電力によるその月分の検針日を基準として、設置メーターの検針量により実費計算して請求することとされていたこと、本件管理規定によれば、共用部分で使用する照明、その他動力に使用する電気料金は、管理費に含めるものとすることとされていたことが認められる。以上の認定事実によると、本件事務所の賃借人は、本件事務所内で使用した電気料の負担をすればよく、本件ビルの管理に要したあるいは要する費用、共益費については支払い義務がないという条件で本件賃貸借契約を締結したと認めるのが相当である。そうだとすると、共用部分についての負担金等は通常管理費に含まれるものとして、これらを電気料金に含めて請求する賃貸人の主張は理由がないというべきである。

(解説)
 テナントビルの賃借について、家主がビル全体の電気料、水道料等の光熱費、管理費などを賃借人から徴収し、賃料値上や解約時の保証金清算時に、賃借人が、その計算方法や徴収方法について、不明朗さを問題にすることがある。賃借部分以外の共用の光熱費について、支払い義務があるかどうかは、賃貸者契約においてどのように定められているかが判定の第一基準である。本件では共用費用の負担の約束がないという点で賃借人勝訴となったが、契約書には支払義務規定があるが、その解釈が問題になるケースもある。

【再録】




借地で頑張ってる
豊島区目白の島田さん

相続で業者が底地を買収
底地の買取請求には資金が無いと断り続ける

 豊島区目白に借地している島田さんの底地は、平成16年に地主が相続のために業者に売買した。その後、代理人として大阪のA業者が訪問し「この地域の更地価格は二百万円する5対5で買取れ」と迫った。Aさんは怖くなって組合に入会した。借地の売買及び契約については組合を窓口にして行うことを通知した。業者は底地の売買について、7対3にするなどの案を提案してきたが、島田さんは、このまま借地として住み続けたいし、買取る資金もないと断ることにした。
 その後、業者は一年以上にわたって、組合事務所に地代の集金にきて売買の話を持ち出したが、折り合いはつかなかった。いつのまにか担当者が替わり、島田さんに面会を強要するようになった。「いるのはわかっているんだ」「はやくでてこい」などと声を荒げて何度も戸をたたいた。ただちに警察に通報するよう指導し、現場に出向いた。今後は、警察などと連絡を密にし対応することにすると共に必要ならば法的手段も検討することにした。




借地の譲渡

洗濯物は美化が損なう等と
いう難くせ地主と決別決意

大田区

 大田区大森西4丁目所在の宅地約12坪を借地していた平野さんは、長年地主からいじめられていたという。母の思い出の多い建物でもあり、JR京浜東北線大森駅と蒲田駅間を走る循環バスに、京浜急行「梅屋敷」駅に徒歩8分という交通の便の良さ。大田区内最高の商店街として名高い梅屋敷商店街には徒歩2分、更に、区内唯一の医療設備の整った「東邦大学病院」が、目の前という条件がこの地を平野さんが離れられなかった理由だった。
 地主は本当にえげつない、洗濯物や布団などを干すと美化が損なうとか、越境するとか難癖を付けるし、ドアーを直しても、雨漏りの補修工事にも契約違反だと怒鳴り込むこともたびたびあったという。組合に入会したことを伝えて、組合役員の口頭や書面による忠告で大分静かになったという。しかし、建物の老朽化に伴い建替えを考えるとき、この地主と毎日のように顔を合わせるこの地を母の思い出や便利の良さで判断するのではなく、老後の生活を張り詰めた緊張感をなくし、のんびりと心にゆとりを持って過ごしたいと、妹が住む地方に住み替えることを平野さんは決意した。
 組合は、地主に借地権譲渡の承諾を申し込んだのだが購入者は現れず、地主に買取を求めるが条件が合わない。平野さんは移転の時期もせまり無償での引渡しを検討し始めたが、組合役員の努力が実りこの程、平野さんの満足する金額で地主と合意。後日、組合事務所に姉妹は笑顔で挨拶に来た。




高額修繕費撤回

練馬区

  練馬区に住む山下さんは、シンナーなどに過敏に反応するアレルギー性の体質であった。今年初め家主は、いきなり外壁の塗装工事を行ったために住み続けることが出来なくなってしまった。退去することにしたところ原状回復費用は50万から100万はかかるかもしれないと通知された。襖や障子のガラスなどが壊れていたり、穴があいている所もあるが、余りにも高額な原状回復費用の請求であるので、東京都のガイドラインのコピーを渡すことにした。明渡しの当日、本人の父親が組合の名刺とこのコピーを渡したところ貸主から組合に電話があった。組合は借主の過失の部分もあることを認めると共に原状回復はガイドラインにそって請求するよう通知した。
 貸主の態度は激変し、敷金の枠内で原状回復を行うのでいますぐ了解してほしいと父親にいってきた。余りの変わりようにびっくりした父親は「このような結果になるとは想像していなかった。あまりの結果に感動しました。今後、何かお手伝いできることがありましたら、できる範囲で協力します」と語った。




【借地借家相談室】

増改築を制限する特約付の場合でも
火災後の再築には地主の承諾は不要

(問)火災で借地上の建物が焼失してしまった。20年間の借地契約の残存期間は4年であるが、再築することは出来るのか。又、地主の承諾がいるのか。

(答)借地借家法施行(1992年8月1日)前に設定された借地権については建物滅失後の建物築造に関しては、なお従前の例によるとされている(借地借家法附則7条)。相談者の事例は借地法7条が適用される。7条には次の趣旨のことが書かれている。(1)借地権の存続期間が終了する前に借地上の建物が滅失しても借地権自体は消滅しない。(2)借地人は新たに建物を築造することが出来る。(3)その再築建物の耐用年数は、借地権の残存期間を超えることが多いが、地主が滅失建物最築に異議がなければ借地権の存続期間の延長を認める。(4)借地権は建物滅失の日から起算して堅固建物については30年間、その他の建物は20年間存続する。(5)但し、残存期間の方が長い時は、その期間による。(6)また、地主が借地人の再築に反対する旨の異議を述べた場合、その異議の効果は、従来の借地権の存続期間が延長されないだけである。従って借地人は建築工事を中止する必要は無く、そのまま建物の建設が出来る。
 だが増改築を制限する特約がある場合はどうであろうか。実際の借地契約では増改築をする場合は地主の承諾が必要であり、承諾なしに増改築をすると地主は契約を解除出来るという特約条項がある。このような特約は建物が火災で焼失した場合にまで適用されるのか。借地法7条は、建物が滅失しても建物を再築することが出来ると規定している。7条の規定に反して再築を禁止する特約は、借地法11条の規定によって借地権者に不利なものとして無効とされる(最高裁1958年1月23日判決)。従って増改築を制限する特約は火災・地震・風水害が原因で滅失した建物の再築までを制限したり禁止する趣旨ではないことは明らかである。判例も「建物を新築する時は、地主の承諾を得る旨の特約があるとしても、この特約は、消失した建物を再築する際にも地主の承諾が必要である趣旨ではない」(東京高裁1958年2月12日判決)。このように増改築に制限のある特約がある場合でも火災によって建物が滅失し、それを再築する場合は地主の承諾は不要という結論になる。



毎月1回15日発行一部200円/昭和50年5月21日第三種郵便物認可


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