契約が期間満了で終了した場合は
その終了を再転借人には対抗できない
事業用ビルの賃貸借契約が期間満了により終了した場合、賃貸人は信義則上その終了を再転借人に対抗できないとされた事例(最高裁平成14・3・28判決、判例時報一七八七号)
(事案の概要)
1、 |
(原告)は、ビルの賃貸、管理を業とするA社の勧めにより、Xの土地上にビルを建築してA社に一括して賃貸し、A社から第三者に店舗又は事務所として転貸させ、賃料の支払を受けるということを計画しビルを建築した。 |
2、 |
そしてXとA社は、ビル全体について期間20年の賃貸借契約を締結した(本件賃貸借)。同時にA社は、Xの承諾を得てその一室(店舗)をBに転貸し、さらにBは、XとA社の承諾を得てYに再転貸した(本件再転貸借)。現在もYが店舗として使用している。 |
3、 |
A社は、平成8年にXとの賃貸借の期間20年が満了するに際し、転貸方式によるビル経営が採算に合わないとして撤退することとし、Xとの賃貸借契約を更新しない旨の通知をした。そこでXはBとYに対し、A社との賃貸借契約が期間満了により終了する旨通知した。 |
4、 |
XはYに対し本件店舗の明渡しを求めたが、Yは、信義則上、XとA社間の賃貸借の終了をもって承諾を得た再転借人であるYに対抗することはできないと争った。 |
(判決要旨)
本件再転貸借は、本件賃貸借の存在を前提とするものであるが、本件賃貸借に際し予定され、前記のような趣旨、目的(ビルの各室を第三者に店舗又は事務所として転貸することを当初から予定していたこと、A社の知識、経験等を活用して収益を上げさせること、Xは自ら個別に賃貸する煩わしさを免れ、かつ、A社から安定的に賃料収入が得られること)を達成するために行われたものであって、Xは、本件再転貸借を承諾したにとどまらず、本件再転貸借の締結に加功し、Yによる本件転貸部分の占有の原因を作出したものというべきであるから、A社が更新拒絶の通知をしても本件賃貸借が期間満了により終了しても、Xは、信義則上、本件賃貸借の終了をもってYに対抗することはできず、Yは、本件再転貸借に基づく本件転貸部分の使用収益を継続することができると解すべきである。Xの敗訴。
(短評)
第一審はX敗訴、第二審はX勝訴、そして第三審はまたX敗訴という具合に結論が分かれた。本件は、いわゆるサブリースの事案について、賃貸人(X)が賃貸借の終了をもって信義則上転借人(Y)に対抗できない場合のあることを判示した初めての最高裁判例であるとされている。
XとA間の賃貸借契約が合意解除された場合には、Xは転借人Yに対抗できるというのは古くから確立された判例であったが、この判決は、合意解除ではなく、期間満了により終了させた場合について、しかも、それがサブリースである場合について、新しい判断を示したものである。
【再録】(弁護士 白石光征)
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