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東京借地借家人新聞


2006年6月15日
第471号
 ■判例紹介

管理会社に賃料を払っていた借主が
貸主に直接払えといわれての供託は有効

 賃貸人から賃貸用建物の管理を委託されていた会社に賃料を支払っていた賃借人が賃貸人から直接に賃料の支払いを求められた場合に、債権者不確知を理由として行った弁済供託の効力を有効とした事例(判例タイムス一一三六号一九一頁以下。東京地裁平成一五・二・一九判決)

(事案)
 建物の賃貸人Xが、賃借人Yに対して、その賃料二か月分が未払いとなっており、遅延損害金を付加して支払えと求めた。これに対し、Yは二ヶ月分の賃料は債権者不確知を理由として弁済供託をしており支払義務はないとして争った事案。Yが弁済供託をしたのは、建物を賃借していたところ、Xが競売により建物を取得し、賃貸人の地位を承継。Xは承継後、Zに対し建物の管理を委託し、ZとYの間で賃料の改定の合意もされた。その後、XとY間で建物の管理をめぐり争いが生じ、そのことを契機にYは、二ヶ月分の賃料について、債権者不確知を理由に弁済供託した事情にある。

(判旨)
 「前認定事実によればZがYに対して本件建物部分の賃料の支払いを求めて訴えを提起した場合を想定すると、当該訴訟の受訴裁判所が最終的にどのように判断するか否かはともかく、当事者であるYにおいてZがXの単なる代理人にすぎず、Zが自ら当事者能力を有するわけでもなくXに代わって当該訴訟を提起したとしても、いわゆる任意的訴訟担当が許される場合に当たらないとして、Zの請求ないしその前提となる当事者能力を排斥し得ることが明白であったとはいえず、Xを賃貸人と明記した賃貸借契約書も取り交わされないままZがXとの管理委託契約に基づき、賃料も改定し、本件建物部分の明渡しを求める調停も申し立てている事情も併せ考えると、Yにおいて、Zを本件建物部分の賃貸人であるか、賃貸人でないとしても、自ら固有の権限で訴訟上でも、その取立てが可能な権限を有する立場にあると判断してしまうことは無理からないところというべきであって、Zの立場が現に本件建物部分の賃料の固有の取立権者であったとすれば、債権者不確知を理由とする弁済供託にいう「債権者」と同視して差し支えなく、実際にはZに固有の取立権限がなかったとしても、YがZを取立権者であると判断したことに過失はないといわなければならないから、本件供託は少なくとも債務者であるYにおいて過失なく債権者である本件建物部分の賃料の賃貸人ないしその取立権者を確知することができない場合であったとして、有効なものであったと認めるのが相当である」

(寸評)
 判旨は妥当といえる。Zの立場がXの単なる代理人であった場合には、Zに対する弁済供託の効力は否定されると思われる。参考になる事例として紹介した。【再録】

(弁護士 田中英雄)




敷金で頑張てる
豊島区東池袋の後藤さん

敷金を超える修繕費の要求
故意過失がないので敷金全額返還請求

 豊島区内のマンションに住んでいた後藤さんは三月末に退去した。管理している不動産会社から五月に入り、十七万円の原状回復費用の請求があった。家賃の二ヵ月分の敷金十四万円を預託しているので三万円を支払えといってきた。僅か二年の居住でしかもきれいに生活していた後藤さんにとっては納得いかない請求であった。インターネットで組合事務所の電話を調べ相談しにきた。国土交通省や東京の原状回復のガイドラインや、昨年の最高裁判決も説明し「不動産会社にもう一度ガイドラインに基づいて請求をしなおしてください。話合いに応じない場合は東京都に通告し、法的手続きをします」と通告するよう指導した。不動産会社はしぶしぶガイドラインについては知っていること。貸主にそのように説明し、敷金は全額返却するが、貸主を説得するために三万円くらい支払ってくれないかと提案してきた。「組合のおかげで敷金は返ってきましたが、納得のいかないお金は支払えない、最期まで頑張る」と後藤さんは話していた。




更新料請求

地主からの更新料請求は断わり、
法定更新を主張した

昭島市

 昭島市拝島町で113坪を借地している森谷さんは、地主から今年の4月末で借地契約が満了するので、更新料として205万9000円を試算したので協議に応じるよう通告された。
 森谷さんは、戦後間もなく義理の兄が工場として借地していた土地を地主の了解を受け、昭和30年に名義変更して借地権を引き継いだ。
 その後、地主から20年経過した昭和51年に契約書を作成するとの話があり、森谷さんは法律のことは何も分からず、言われるままに契約期間10年の更新契約書を作成した。
 当初、旧借地法第5条に基づきさらに20年間法定更新されると、平成28年が更新時期で今年は更新時期ではないと主張したが、地主は借地法2条1項に基づき、期間10年は無効となり、当初の存続期間30年で、そこから契約時期が始まっていると主張してきた。
 その後、森谷さんに事情を聞いたところ、戦後兄が契約した当時は、契約書もなく借地の目的が建物所有を目的としていたかどうかも不明で、昭和51年に森谷さんの自宅を建てるために初めて契約書を作成した経緯があった。そこで、今年の4月末日で契約期間が満了したという地主の主張は認めるが、契約期間満了後も借地の継続について地主は異議を述べていないことから、森谷さんは法定更新を主張することにした。また、更新料については支払い義務がないことから、はっきりと拒否することにした。




借地の買取合意

大田区

 正月の目出度さも終わったころ、普段あまり見慣れぬ黒背広の二人組みが我が家を訪れたのは、昨年1月だった。新しい地主に依頼された。借地権を買い取るから立ち退け、それ以外に方法は無いとまで言われて体調を崩した。大田区羽田5丁目の野村さんが同一借地人の紹介で、組合に相談されたのが同年5月。大きな問題は借地6坪という狭い面積の上、建物の一部が越境している状況を踏まえつつ、公道に面している有利さを生かして、現状より広い土地を取得することだった。世間では地上げ屋という不動産業者も組合との過去の実績を考慮し、約6ヵ月に渡る交渉の結果、野村さんの希望価格で更地にする分譲地17坪を譲渡することで合意した。しかし、道路位置指定確認作業が耐震強度偽造マンション問題等で手薄となり、大田区の確認がおりて手続きの全て完了したのが5月19日。まる1年がかりの案件でだった。組合に入会してよかったと野村さんは笑顔だった。




【借地借家相談室】

備え付けのガス給湯器が故障したが
家主が修繕をやってくれない場合は

(問)先日、最初から設置してあったガス給湯器が故障した。家主に何度も修理を頼んだが、やってくれない。何とか家主に修理をさせ、その費用を支払わせる方法はないものか。
(答)賃貸住宅の修繕は、民法606条1項の「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要なる修繕をする義務を負う」と規定されている。借家の修繕義務は家主にあることが明確に規定されている。家主が修繕義務を免れるためには、予め契約で「ガス給湯器の修繕は借家人の負担とする」との特約を結んで置く必要がある。
 しかし特約が認められるには「条項に具体的に明記されているか(略)契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約が明確に合意されていることが必要である」(最高裁2005年12月16日判決)。特約の成立に厳しい制限加えている。特約があるからといって何でも認められる訳ではない。相談者の場合は修繕特約がないので修繕義務は家主にある。
 民法615条で賃借物に修繕が必要な場合は賃借人が遅滞なく賃貸人にその旨を通知する義務があると規定している。同じく民法608条1項では「賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。」とされているこれらに基づいて以下、家主の費用負担で修繕をさせる方法である。
 先ず配達証明付内容証明郵便で家主に対して修繕請求通知をする。その内容は「ガス給湯器が故障し、現在使用不能の状態で、困っています。修理業者に点検してもらい、修繕が必要でその修繕見積は**万円という報告を受けたのでお知らせします。本書到達後10日以内に至急修繕して下さい。もし期日までに修繕していただけない場合は、私が業者に依頼して修繕し、その修繕費用は後日請求しますのでお支払いください。万一お支払いくださらない場合は、月々の家賃と修繕費用を相殺することをご承知措きください」という趣旨のものである。
 この通知を出した上で、その内容の通り実行すればいい。修繕費用が月額家賃の半分以上になる場合は何回かに分けて差し引いて修繕費用を回収する。



毎月1回15日発行一部200円/昭和50年5月21日第三種郵便物認可


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