管理会社に賃料を払っていた借主が
貸主に直接払えといわれての供託は有効
賃貸人から賃貸用建物の管理を委託されていた会社に賃料を支払っていた賃借人が賃貸人から直接に賃料の支払いを求められた場合に、債権者不確知を理由として行った弁済供託の効力を有効とした事例(判例タイムス一一三六号一九一頁以下。東京地裁平成一五・二・一九判決)
(事案)
建物の賃貸人Xが、賃借人Yに対して、その賃料二か月分が未払いとなっており、遅延損害金を付加して支払えと求めた。これに対し、Yは二ヶ月分の賃料は債権者不確知を理由として弁済供託をしており支払義務はないとして争った事案。Yが弁済供託をしたのは、建物を賃借していたところ、Xが競売により建物を取得し、賃貸人の地位を承継。Xは承継後、Zに対し建物の管理を委託し、ZとYの間で賃料の改定の合意もされた。その後、XとY間で建物の管理をめぐり争いが生じ、そのことを契機にYは、二ヶ月分の賃料について、債権者不確知を理由に弁済供託した事情にある。
(判旨)
「前認定事実によればZがYに対して本件建物部分の賃料の支払いを求めて訴えを提起した場合を想定すると、当該訴訟の受訴裁判所が最終的にどのように判断するか否かはともかく、当事者であるYにおいてZがXの単なる代理人にすぎず、Zが自ら当事者能力を有するわけでもなくXに代わって当該訴訟を提起したとしても、いわゆる任意的訴訟担当が許される場合に当たらないとして、Zの請求ないしその前提となる当事者能力を排斥し得ることが明白であったとはいえず、Xを賃貸人と明記した賃貸借契約書も取り交わされないままZがXとの管理委託契約に基づき、賃料も改定し、本件建物部分の明渡しを求める調停も申し立てている事情も併せ考えると、Yにおいて、Zを本件建物部分の賃貸人であるか、賃貸人でないとしても、自ら固有の権限で訴訟上でも、その取立てが可能な権限を有する立場にあると判断してしまうことは無理からないところというべきであって、Zの立場が現に本件建物部分の賃料の固有の取立権者であったとすれば、債権者不確知を理由とする弁済供託にいう「債権者」と同視して差し支えなく、実際にはZに固有の取立権限がなかったとしても、YがZを取立権者であると判断したことに過失はないといわなければならないから、本件供託は少なくとも債務者であるYにおいて過失なく債権者である本件建物部分の賃料の賃貸人ないしその取立権者を確知することができない場合であったとして、有効なものであったと認めるのが相当である」
(寸評)
判旨は妥当といえる。Zの立場がXの単なる代理人であった場合には、Zに対する弁済供託の効力は否定されると思われる。参考になる事例として紹介した。【再録】
(弁護士 田中英雄)
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