建物競売の場合に借地権譲渡許可の
裁判で敷金の差し入れを命じた事例
建物競売等の場合における借地権譲渡許可の裁判で、敷金(保証金)を差し入れることを命じた事例(最高裁平成13年11月21日決定、判例時報一七六八号86頁)
(事案の概要)
YはAに対して、堅固建物所有を目的として、土地を賃貸し、Aはその土地上に5階建ビルを建築して所有していた。
ところが、Aの建物について競売が申し立てられ、Xが借地権付建物として競落した。
XはYに対して、借地権譲渡の承諾を求めたが、Yが承諾しなかったので、Xは、借地借家法第20条に基き、裁判所に対して地主の承諾に代わる許可を求める申立てをした。
ところで、本件においては、もともとAがYに対して敷金(保証金)一千万円を差し入れていた経過がある。
鑑定委員会は、申立てを容認するのが相当としたうえ、付随的裁判としてXに対して譲渡承諾料の支払をさせるほか、敷金として金一千万円を差し入れさせるのが相当であるとの意見を出した。
大阪地裁及び大阪高裁は、借地権譲渡を許可し、付随的裁判として、譲渡承諾料の給付のみを命じ、敷金に関しては、借地借家法第20条1項後段の付随的裁判として敷金の差し入れを命ずることはできないと判示した。
これに対し、Yは付随的裁判として敷金の差し入れを命ずべきであるとして、もしそれを命じないのであれば、申立てを棄却すべきであると抗告許可の申立てをした。
(裁判)
最高裁は、「旧賃借人が交付していて敷金の額、第三者の経済的信用、敷金に関する地域的な相場等の一切の事情を考慮した上で、法20条1項後段の付随的裁判の1つとして、当該事案に応じた相当な額の敷金を差し入れるべき旨を定め、第三者に対してその交付を命ずることができるものと解するのが相当である」として原決定を破棄し、大阪高裁に差し戻した。
(短評)
競売・公売により借地権付建物を取得した場合、競落人には譲渡の承諾に代わる許可の制度が設けられている。そして、許可の申立てを認容する場合、裁判所は当事者間の利益の衡平を図るため、必要があるときは、付随的裁判として借地条件を変更し、又は財産上の給付を命ずることができるとされている。(借地借家法第20条)
ところで、これまで敷金(保証金)の差し入れを命ずることができるかどうかについては最高裁の判例がなかったところ、今回の決定により、敷金(保証金)の差し入れも借地条件の変更・財産上の給付とされたことから、今後は、競落に当たって、従前の敷金(保証金)の有無・金額を調査する必要があり、また、敷金(保証金)の差し入れを命じられることがあることを覚悟する必要が出てきた。【再録】
(弁護士 榎本武光)
|