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東京借地借家人新聞


2005年11月15日
第464号
 ■判例紹介  

家主が修繕義務を履行しなかった場合その分家賃が減額できるとした事例

 賃貸人の修繕義務不履行により建物の一部が使用できなくなった場合、賃借人は家賃の減額請求権を有する(名古屋地裁昭和62・1・30判決。判例時報一二五二号)


(事案の概要)
 1 Yは昭和55年6月1日、Xから二階部分を居宅、一階部分をお好み焼屋店舗として使用する目的で本件建物を賃料月額10万円で賃借した。
 2 二階部分には三つの居室があったが、56年9月前からいずれの部屋にも雨漏りがし、特に南側と真中の部屋の雨漏りは、雨天の場合バケツで受けきれず、畳を上げて洗面器等の容器を並べ、Yらが椅子の上に立って、シーツやタオルで天井の雨漏り部分を押さえざるを得ない程であり、押入に入れたふとんが使用不能になったこともあり、本件建物二階部分は、同年9月以前からその少なくとも三分の二以上が使用不能となった。
 3 YはXに対し、しばしば雨漏りの修繕を求めたが、Xはこれに応じず、右の使用不能状態は、Yが本件建物を明渡した昭和58年7月31日まで続いた。なお、一階店舗部分は、右の雨漏りにより使用不能となることはなかった。
 4 これに対し、Yは56年9月分から賃料の支払を拒絶し、Xに対し、右使用不能部分の割合に応じて賃料を減額する旨意思表示した。
 5 しかし、Xは減額に応じず、Yに対し、56年9月分から明渡し済みの58年7月分までの賃料二三○万円の支払を求めた。

(判決)
  本件建物の二階部分の少なくとも三分の二が56年9月1日以降58年七月末日までXの修繕義務の不履行により使用できない状態にあつたことが認められるところ、修繕義務の不履行が賃借人の使用収益に及ぼす障害の程度が一部にとどまる場合には、賃借人は当然には賃料支払義務を免れないものの、民法六一一条一項を類推して、賃借人は賃料減額請求権を有すると解すべきである。
 本件の場合、右減額されるべき賃料額は、右使用できない状態の部分の面積の本件建物全面積に対する割合、本件賃貸借契約は一階店舗部分とその余の居宅の使用収益を目的としていたところ、Yの右店舗部分自体の使用収益にはさしたる障害は生じなかったこと及び雨漏りの状況等の諸般の事情に鑑み、本件賃料額全体の25㌫をもつて相当とする。

(寸評)
 判決はもとより妥当である。家主が修繕義務を履行しなかった場合、二つの対応がある。一つは賃借人側で修繕しその費用を家賃と相殺する方法で、組合がよく利用する。もう一つは本件のように民法六一一条一項を類推適用する方法である。いずれの方法が良いかは事案によって異なってくる。【再録】

(弁護士 白石光征)




明渡で頑張った
府中市宮西町の桜井さん
借家の解約合意書を撤回
家主は調停2回目で明渡しの調停を取り下げ

 府中市宮西町で昭和初期から借地の店舗と借家の住宅を両方同じ地主から借りて商売をしている桜井さんは、今年の2月に突然借家の明渡しで立川簡易裁判所に調停を申し立てられた。
 家主側は、桜井さんの借地の建替えを無条件で認める条件で借家の明渡しの合意があったと主張をした。
 昨年5月に桜井さんは、「貸家賃貸借解約合意書」に作成し、平成16年12月13日に明渡すことを一旦約束した。
 その後、家主が会社名義で契約をしなおしたいと言ってきたが、今度は桜井さんは拒否し解約合意書を白紙撤回した。
 それというのも、家主の代理で来た業者に騙されて、建替え承諾付の定期借地契約書を結んでしまったからで、50年で契約が満了し更新ができないことも桜井さんは理解できないまま契約してしまった。調停は、2回目を迎える前に家主側が調停を取り下げ終了した。
 その後、家主の方からは何事もなく地代と家賃は受け取っている。




更新で係争
頑張ったら家主は更新契約
の条件変更を認め契約した

豊島区

 埼玉県新座に住む向井さんは、今から2年前にこのマンションに入居した。入居の際のトラブルやその後の結露などの問題で借地借家人組合に入会。向井さんは、今年の8月末で期間満了となり更新をして、新しい契約を締結するつもりでいた。契約書には「更新時には、更新は新賃料の1ヶ月分を支払って更新することが出来る。又、更新手数料は借主、貸主から〇・五ヶ月分づつとする。火災保険は管理業者指定した○○保険とする。」と記載されていた。
 更新に際して、請求できることは、貸主にきちんと伝えようということになり、本人が「(1)更新料支払い特約の削除。(2)管理会社は貸主の代理人であるから、更新手数料は貸主に請求すること。(3)火災保険についてはもっと掛け金の安い全労災にするので管理会社の要求には応じられない。(4)借地借家人組合に入会しているので今後の窓口は組合にする。」と記した通知書を出した。早速、貸主からは「更新料削除や火災保険会社の変更など、貴殿の一方的な主張は認められないので契約を解除する」とする内容証明書が送られてきた。向井さんは組合と相談し、「契約更新は双方がその契約条件などで要望や請求を出し合い話し合うのが筋で気に入らないからといって契約を解除することこそ一方的である」とする文書を用意していた。ところが、貸主からこちらの主張を全面的に認める更新契約書を送ってきた。「やはりがんばるものだ」と向井さんの感想である。




底地の買取合意
板橋区

 豊島区南長崎で戦後まもなく商売をはじめた大浦さんは、地元でも商売熱心で、商店会や町会の仕事もすすんで行う地元の有力者である。十数年前に地主から明渡しを求められ、相談ができ、信頼できるところといって組合に入会した。その後、地代の受領を拒否され、供託をしていた。途中、地主の相続人が不明になるなどしたが、昨年、相続したという息子の代理人が訪問し、底地を買い取らないかと申し入れをしてきた。その条件は、更地価格の借地権割合、未払いの更新料、供託していた地代の差額分を提示してきた。大浦さん組合と相談し、底地を買い取るならば、地主の代理人が示した金額の半分ぐらいならばということで、交渉した。当初、金額の譲歩は出来ないといっていた地主の代理人も今年の十月に大浦さんが示した条件で売買することに合意した。大浦さん「組合に入会してがんばったおかげです」と語った。




底地を買うか借地
を売るかと強迫
大田区多摩川

 大田区多摩川1丁目の宅地約44・2坪を賃借中の落合さんは、5年前地主から依頼された不動産業者から底地の買取を求めたが、経済的に無理する考えはないと拒否。
 今年4月譲受人と称す不動産業者(地上げ屋)から挨拶状が届くと、すぐに業者が訪れて「土地を買うか借地を売るか」と捲し立てるが、すでに組合員で自らの権利を自覚していた落合さんには適わない。その意志はないと伝え、交渉は組合を通すことを求めた。さらに同一借地の2世帯の相談にも応じて組合を紹介し入会を勧めた。3世帯の団結により1世帯は組合と相談の上提示した額に業者が応じて土地売買が成立。しかし、落合さんら2世帯に手を焼いた業者は新たな業者に転売。組合員であることを承知で買受けた業者は組合と交渉の結果、前地主からの契約を継承することを了承してこのほど合意した。




【借地借家相談室】

借地人に不利な特約付の契約書の作
成を要求されたがどうしたらよいか

(問)父の代から土地を借りています。10年前に父が亡くなり、長男である私が借地権を相続し、地代を支払っています。父が土地を借りてから70年以上が経過し、建物も相当古くなっていますが、修理しながら建物を維持し生活しています。契約書は全く作成せず口約束で借りていて、地代の領収印が押された通い帳が契約書時から全部残っています。
 地主も代替りし、最近になって契約書を作成したいと言って、契約書の案文を郵送してきました。それを見ると契約期間は10年となっていて「更新時には借地権価格の10%の更新料を支払うことによって契約を更新することができる」「建物の増改築は一切行わないこと」と書かれています。どうしたらいいでしょうか。
(答)土地や家の賃貸借契約は口約束でも契約は成立する。借地借家法が一部改正され、更新のない定期借地や定期借家契約が法律で認められたが、定期借地や定期借家契約の場合は書面で契約して置かないと契約として認められない。それ以外の普通の借地や借家の契約は、地代なり家賃の領収書があれば立派に契約は成立する。
 契約書を作成して置かないといつ追出されるか不安だと思っている人もいて、契約書の内容が借地人にとって不利なものであっても判を押してしまう人がいる。契約書は契約内容を証明する一つの手段に過ぎない。貸主側が作成する契約書の多くは、借地人の権利を拘束し、義務ばかり押付けた不利なものが多く、作成したために後で取り返しの付かないことになり兼ねない。
 契約書の特約の中で借地借家法の強行規定に反する条文は無効である。10年の契約期間も旧借地法が適用される借地契約では最低が非堅固な建物では20年、堅固な建物では30年以上でなければ無効となる。更新料の支払特約は判例上、一概に無効とは言えない。
 いずれにしても借地人にとって不利な特約は削除させるか、削除に応じない場合は契約書の作成は拒否した方が得策だ。借地人の中には契約の更新時に莫大な更新料を支払った上に、著しく不利益な契約書を作成し、後で後悔している人が見かけられる。是非とも契約書を作成する前に組合に相談し、充分に点検して貰ってから押印しましょう。



毎月1回15日発行一部200円/昭和50年5月21日第三種郵便物認可


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