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2005年7月15日
第460号 |
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賃料差押え後明渡した場合敷金を賃料に充当できるとした事例
抵当権者が物上代位に基づき賃料を差押え後、賃貸借契約が終了し目的物を明け渡した場合、賃借人が敷金を賃料に充当することができるとされた事例(最高裁平成14年3月28日判決、判例時報一七八三号42頁)
(事案の概要)
X(信託銀行=抵当権者)は、A(建物所有者)との間で、A所有建物について根抵当権を設定した。AはB(賃借人)に対して建物を賃貸し、BはY(転借人)に対しさらに建物を賃貸した。
転貸借契約において、YはBに対し敷金一千万円を預託した。
XはAが借入金の返済をしないため、根抵当権の物上代位権に基づき、BがYに対して有する賃料債権を差押えた。
その後、YはBとの間の建物賃貸借契約を解除し、建物を明け渡した。
そして、YはXに対して、敷金により賃料支払債務は消滅したと主張した。
(裁判)
一審は、「敷金返還請求権は、物上代位による差押え後に発生したものであるからYはXに対抗できない。」として、Xの請求を認めた。
二審は、「賃貸借契約が終了し目的物が明渡されたときは、賃料は当然敷金が充当される結果、差押えにかかる賃料債権は消滅すると解さざるを得ない。」として、Xの請求を棄却した。
最高裁は、「敷金の充当による未払賃料等の消滅は、敷金契約から発生する効果であって相殺のように当事者の意思表示を必要とするものではないから当然消滅の効果が妨げられないこと、抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権を差押える前は、原則として抵当不動産の用益関係に介入できないのであるから、抵当不動産の所有者等は敷金契約を締結するか否かを自由に決定することができることから、敷金が授受された賃貸借契約にかかる賃料債権につき抵当権者が物上代位権を行使してこれを差押えた場合においても、当該賃貸借契約が終了し、目的物が明け渡されたときは、賃料債権は敷金の充当によりその限度で消滅する」と判示した。
(短評)
賃貸人の資力が悪化した際に、賃借人が賃貸借契約を終了させて賃借物件を明け渡せば敷金を賃料債権に充当することによって回収する方策を認めたものである。なお、抵当権者が物上代位権を行使して転貸賃料債権を差押えることは原則として否定されている。(最高裁平成12年4月14日判決) 【再録】
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立退で頑張った
大田区羽田の田中さん
業者との交渉で底地を取得
価格も想定以内で面積も10%増しで合意
今年3月、組合事務所を訪ねて即刻入会したのは、羽田5丁目に居住する田中さんです。相談内容は、地主が土地開発を主要な生業とする会社に替わり、委任状持参の代理人の挨拶は驚きであった。借地20坪を買い上げると価格提示するばかりで、田中さんの主張を受け入れようとはしない。つまり、借地人を立ち退かせて更地に仕上げることを目的とする不動産業者の登場であった。悩む田中さんは以前知人に紹介された組合を思い出したという。
聞くと組合を良く知っている業者だった。直ちに、今後一切組合の承諾なく、田中さんに接触しないことを確約して交渉に入った。
底地を購入したいという田中さんの希望を4カ月に渡る交渉で業者を説得、価格も想定以内で面積が以前より1割増しで合意。
隣接する同一地主の借地人も田中さんの紹介で入会し、希望通りの条件で同時合意となった。
測量分筆の作業に着手したので、近々に決済を迎える。
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借地権を譲渡
譲渡申立てすると地主が先
買権を行使し、調停で和解
台東区
桑田さんは借地(65・2坪)を地代1か月6万1300円で借りている。平成13年3月の更新の際に、建物を担保にして更新料615万円を支払った。
借金までして更新料を払ったことに疑問を感じ、組合員の紹介で台東借組に加入した。負債を整理するため、借地権を売却するにしても建物の抵当権を抹消しなければならずその資金の目途も無い。それに加えて借地に対しては地主の債務に関する抵当権が設定されているので、第三者への譲渡は難しい。当事者間の協議で桑田さんは地主に対して借地権と建物の買取を要請し、6285万円を買取要求額として希望したが、地主は4300万円の買取額を提示して来た。
結局当事者双方の妥協点が見出せなかった。そこで組合の顧問弁護士と相談して債務整理のために、台東借組組合員の「住宅監修業(株)力建」の協力を得て借地借家法19条1項による借地権譲渡許可申立書を2005年1月26日東京地裁に提出した。すると地主側は3月25日の答弁書で借地借家法19条3項の「介入権」行使の申立をして来た。これは地主の先買権と呼ばれるもので地主が第三者に優先して借地上建物と借地権との譲受を認めるものである。地主の土地所有権回復の手段とされている。借地人は投下資本の回収を図ることが出来るのであるから買受人が地主であっても特に不利益はない。
裁判所の調停で、地主の提示より110万円高い5690万円で借地権を地主に売却することで2005年5月24日和解が成立した。
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土地買取で合意
豊島区
豊島区駒込に住む梅村さんは、親の代から一軒家を借家として借りていた。三年前に契約更新に際して建物の老朽化を理由に契約更新のない契約を押し付けてきた。梅村さん、知人の紹介で組合に入会し、直ちに「正当な事由とは認められない」としてその部分の削除を要求し、合意更新した。昨年の更新時に今度は不動産会社を代理人として更新拒絶を通知してきた。そのうえで梅村さんが退去しないならば、建物を第三者に売却すると通知してきた。明渡しを拒絶すると共に売買については値段の折り合いがつければ買取る意思のあることを回答した。明渡しを断念した貸主と不動産会社は相場価格坪一七○万円を提示してきたが、梅村さんは、借家権と建替えに際してはセットバックしなければならない地形などを考慮し価格を提案した。半年以上の交渉のなかで当初の提案より五十%以下の価格で提案してきたので話合いをまとめる事にした。
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更新料請求をきっぱり拒否
小平市学園西町
小平市学園西町で昭和37年に借地契約をしている佐藤さんと湯沢さんは、今年二回目の契約更新を迎えた。
地主の先代と長男が次々に死亡し、この度孫が相続したが相談役である不動産業者から更新料の請求通知が両名に届いた。更新料の金額は路線価÷0・8×3%で、坪当たり2万2933円となる。
佐藤さんは20年前に自宅を改築する条件で更新料を115万円支払っている。湯沢さんは平成2年に同じ不動産業者から「更新料を払っておいたほうが、土地を買うとき有利になる」といわれ、更新料120万円支払った。今回も「更新料は強制しないが、法定更新だと建物が朽廃すると借地権は消滅する」と脅かしている。
佐藤さんと湯沢さんは、以前から組合に加入し更新料についてしっかりと学習し、今回はきっぱりと拒否した。
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【借地借家相談室】
父親名義の借地に息子名義の建物を建てたらどのような問題が生ずるか
(問)借地契約の名義は父です。新築の建物は銀行融資の関係で息子である私の名義にしようと思っていますが、何か不都合がありますか。
(答)「借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる」(借地借家法第10条1項)。借地上の建物につき、借地人が登記をしておけば、土地の所有者が代わっても新所有者に対し、自分の借地権を主張できるので借地の明渡しを求められることはない。この建物登記が、借地人本人の所有名義でなされていれば問題はない。だが、相談者の場合のように建物登記を長男名義にしなければならない場合も出てくる。また、借地人の死後の相続問題を顧慮して、借地上建物の登記名義を予め妻子名義にしておく場合もある。その場合、借地権を第三者(土地の新所有者)に対抗(主張)出来るのかという問題がある。
従前は長男名義の建物登記(東京地裁1951年2月2日)・母名義の建物登記(同1952年6月5日)・未成年の子を名義とする建物登記(東京高裁1954年5月11日)
に関して第三者に対抗できると判断されていた。しかし、最高裁〈大法廷〉は、借地人が同居の長男名義で建物の登記をした場合について「地上建物を所有する賃借権者が、自らの意思に基づき、他人名義で保存登記をしたような場合に、当該賃借権者は、その賃借権を第三者に対抗する事はできない」(1966年4月27日)としてその借地権の対抗力を否定した。1審・2審の借地人勝訴の判決を破棄し、借地人に建物収去・土地明渡を命じた。その後も最高裁は、妻名義の登記(1972年6月22日)・子名義の登記(1975年11月28日)・義母名義の登記(1983年4月14日)について大法廷判決の趣旨に従い終始一貫、借地権の対抗力を否定し続けている。
以上のことから窺えることは、最高裁の判例の変更の可能性は殆どない。借地人としては、こういう厳格な形式論の判例があるということを承知して借地名義と借地上の建物名義を一致させておく努力は必要である。
結論としては、最高裁の判例の変更がない限り、借地人と一致しない家族名義の建物登記では第三者には対抗できない。
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