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東京借地借家人新聞



2002年9月15日
第426号
 ■判例紹介  

契約が期間満了で終了した場合はその終了を再転借人には対抗できない

 事業用ビルの賃貸借契約が期間満了により終了した場合、賃貸人は信義則上その終了を再転借人に対抗できないとされた事例(最高裁平成14・3・28判決、判例時報一七八七号)

(事案の概要)

1、 (原告)は、ビルの賃貸、管理を業とするA社の勧めにより、Xの土地上にビルを建築してA社に一括して賃貸し、A社から第三者に店舗又は事務所として転貸させ、賃料の支払を受けるということを計画しビルを建築した。
2、 そしてXとA社は、ビル全体について期間20年の賃貸借契約を締結した(本件賃貸借)。同時にA社は、Xの承諾を得てその一室(店舗)をBに転貸し、さらにBは、XとA社の承諾を得てYに再転貸した(本件再転貸借)。現在もYが店舗として使用している。
3、 A社は、平成8年にXとの賃貸借の期間20年が満了するに際し、転貸方式によるビル経営が採算に合わないとして撤退することとし、Xとの賃貸借契約を更新しない旨の通知をした。そこでXはBとYに対し、A社との賃貸借契約が期間満了により終了する旨通知した。
4、 XはYに対し本件店舗の明渡しを求めたが、Yは、信義則上、XとA社間の賃貸借の終了をもって承諾を得た再転借人であるYに対抗することはできないと争った。
(判決要旨)
 本件再転貸借は、本件賃貸借の存在を前提とするものであるが、本件賃貸借に際し予定され、前記のような趣旨、目的(ビルの各室を第三者に店舗又は事務所として転貸することを当初から予定していたこと、A社の知識、経験等を活用して収益を上げさせること、Xは自ら個別に賃貸する煩わしさを免れ、かつ、A社から安定的に賃料収入が得られること)を達成するために行われたものであって、Xは、本件再転貸借を承諾したにとどまらず、本件再転貸借の締結に加功し、Yによる本件転貸部分の占有の原因を作出したものというべきであるから、A社が更新拒絶の通知をしても本件賃貸借が期間満了により終了しても、Xは、信義則上、本件賃貸借の終了をもってYに対抗することはできず、Yは、本件再転貸借に基づく本件転貸部分の使用収益を継続することができると解すべきである。Xの敗訴。
(短評)
 第一審はX敗訴、第二審はX勝訴、そして第三審はまたX敗訴という具合に結論が分かれた。本件は、いわゆるサブリースの事案について、賃貸人(X)が賃貸借の終了をもって信義則上転借人(Y)に対抗できない場合のあることを判示した初めての最高裁判例であるとされている。
 XとA間の賃貸借契約が合意解除された場合には、Xは転借人Yに対抗できるというのは古くから確立された判例であったが、この判決は、合意解除ではなく、期間満了により終了させた場合について、しかも、それがサブリースである場合について、新しい判断を示したものである。

(弁護士 白石光征)

   


明渡で頑張った

江戸川区船堀の中谷さん

台風で看板が落ちて急転

納得できる立退条件で家主と合意

 江戸川区船堀七丁目の借店舗で靴屋を営む仲谷さんは、40年前の建物新築時から入居していた。建物は、各所で雨漏りがする状態になり、居住者が一人減り二人減りして、今では仲谷さんがたった一人になってしまった。
 家主は2000年8月に明渡調停を。調停は、結局2回開いて取り下げた。仲谷さんは雨漏りがひどいので家主に「…本書到達後10日以内に修繕してくれない場合は、当方で修繕しその費用は家賃と相殺します」という内容証明郵便をだしていた。
 ところが、本年7月に来た台風で隣の店の表看板が落ちた。家主は、消防署と警察から警告を受けた。
 この事件を契機に、こう着状態であった交渉が一気に進展した。
 家主の代理人の不動産業者と組合の協議が7月24日に再開。組合は仲谷さんの営業補償を要求。即日、家主は応諾した。8月2日には、仲谷さんが納得できる条件で立退合意を家主と行った。

   


家賃一万円値下げ

豊島区

 豊島区南大塚でスナックを営業している大平さんは、この八月に店舗の契約更新を迎えていた。七月に家主から突然契約更新するならば、更新料を二ヵ月分(契約書では一ヵ月分)支払って更新をする。しかも事務手数料半月分請求された。驚いて前回更新時の不動産屋に相談した所、組合を紹介され入会した。その後大平さんは、組合と相談しながら家主の代理人である不動産会社と交渉した。その際、賃料の値下げとケーブルテレビ設置の工事も要求する事にした。まず、賃料の値下げを先行して交渉し、現行賃料の九万円を一万円値下げさせた。その上で、更新料については、前回の契約通り一ヵ月分、事務手数料については支払わないことにし、受け入れなければ法定更新にすることも含め交渉した。家主の嫌がらせが続いていた中で、ケーブルテレビの工事についても最終的に契約書の中に書き込ませる事ができ決着した。
大平さんは「組合と相談しながらの交渉でやる事が出来ました」と述べていた。

   


地代通帳に損害金と書込む

足立区中川

 足立区中川に住んでいる田中さんは、平成13年11月で借地の更新の時期だった。
 地主からは何の連絡もなく田中さん自身もすっかり忘れていたため、毎月月末になると地代を持って行っていた。
 今年の7月に、いつものように地代を支払いに行ったら地主は「昨年の11月で契約期限が切れているから更新料を払って貰う」と言われた。田中さんは突然のことだったので「ええ、じゃもう法定更新してますね」と口から出てしまった。すると地主いわく「ふざけんじゃねえ」と言って、持参した地代の通帳に平成13年11月までさかのぼって損害金と書き込まれてしまった。
 すぐに撤回を求めに行ったが聞き入れてくれないので、地代として支払った旨と今後は供託すると通知をだした。

   


建替えるから立退け

家主の乱暴な請求を断固拒否

品川区

 目黒区自由が丘でアパートを借りている川西さんは、部屋の扉に張り紙で、「建て替えるから9月中に立ち退いて下さい。」との通告を受け、川西さんはびっくりして組合に。組合から、立ち退けない旨を家主に通知すると、家主は「他の人は1ヶ月の敷金を返しておとなしく立ち退いてくれたが、2ヶ月分を立退料として出しましょう。」と回答。川西さんは、単身で働きながら生活をしているので、急に1ヶ月中に立ち退けとは、人の生活を無視した乱暴なやり方として許せないし、現在の住まいから立ち退いてしまうと、勤務先への通勤にも影響が出て、勤務先を辞めなければならないことにもなり兼ねないので、到底、家主の請求には応じられないとして、居住者も少なくなって、一人暮らしなので心細いが、組合の力で頑張るとしている。




【借地借家相談室】

原状回復費用は借主が支払うものか
それとも全く支払う必要はないのか

(問)4年間生活した部屋を綺麗に掃除して明け渡した。しかし、家主は敷金を返還しないどころか契約書の原状回復条項を楯にして、追加27万円を原状回復費用として請求してきた。この費用を総て借家人の負担で支払わなければならないのか。(武蔵野市 公務員)
(答)原状回復の規定は民法598条を根拠にしている。借主は、賃借物に設置物を取り付けた場合はそれを取り除き、運び込んだ物は撤去する。民法では、原状回復義務は、賃借人の収去義務のことであって、「借りた当時のまっさらの状態へ戻す」という意味での賃借人に「原状回復義務」が課されている訳ではない。判例は「一般的に、建物賃貸借契約に原状回復条項があるからといって賃借人は建物賃借当時の状態に回復すべき義務はない。賃貸人は、賃借人が建物を通常の状態で使用した場合に時間の経過にともなって生じる自然の損耗、汚れによる損失は賃料として回収しているのであって賃借人に負担させるべきではなく、原状回復条項は賃借人が故意、過失によって又は通常でない使用をしたために建物の棄損等を発生させた場合の損害の回復について規定したものと解するのが相当である。」(東京簡判平成7年8月8日)
 相談者は、賃貸借契約に基づいて建物を通常の使い方によって使用するとともに、善良な管理者の注意義務をもって賃借物件を保持、管理した。4年の使用中には多少の汚れ、損耗は認められるかもしれないが、いずれも時間の経過による自然汚損・損耗である。通常使用に従った使用に必然的に伴う自然汚損・損耗は原状回復義務の対象にならない。
 因って、「賃貸目的の返還にあたって自然の損耗や汚損についての改修の費用を負担して賃貸当初の原状に復する義務を負っているとは認められない。したがって、仮に賃貸人が賃貸当初の原状回復のためにこれらの費用を支出したとしても、それを賃借人に請求し、あるいはそれを敷金から差し引くことは許されない。」(京都地判平成7年10月5日)。退去時の原状回復費用を相談者が負担すべき謂れはない。それを、賃借人である相談者に請求することは許されない。又、勝手に敷金から差し引くことも許されない。





毎月1回15日発行一部200円/昭和50年5月21日第三種郵便物認可


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