過去のページ
東京借地借家人新聞


2002年6月15日
第423号

明渡しを拒否

府中市北山町の池田さん

女子学生限定の物件に

同棲したとデタラメな調停申立て

 府中市北山町で木造瓦葺居宅一棟を平成9年4月1日から借りている池田さんは、結婚するので事前に家主の許可を受け、平成10年2月から夫と同居し、翌年の更新では契約人員を2名に変更した。
 ところが、平成12年12月に突然家主から「家が古くなったので更地にして不動産屋に売る約束をした」ので、翌年の3月末までに明渡すよう請求された。移転料を負担すると言うので池田さんも一旦は移転しようと思ったが、2度目の話し合いで家主は「そんな約束は知らない。出て行くのは当たり前だ」と怒鳴りだしたので、池田さんはきっぱり明渡しを拒否した。
 家主は弁護士を代理人に立て、昨年11月に調停を申し立ててきた。申立書は「女子学生限定で入居者を募集したのに、相手方は入居数ヶ月後に同棲を開始した」等々嘘とデタラメの主張をしてきたので、池田さんは事実をもって反論し、家主に謝罪を要求したが家主から回答はなく、謝罪しなければ移転の話し合いを拒否するつもりだ。

   


 

敷金返還請求

特約事項を盾に18万円償却
原状回復費用25万円を要求

台東区

 台東区谷中の大塚さんは、今年4月に三筋のマンションから引越した。三筋のマンションは家賃が1ヶ月9万円で、敷金36万円を差入れていた。契約期間は平成12年8月1日から2年間。「敷金は中途解約による明渡の場合は2か月分を償却するものとする。」という特約事項が書かれていた。契約書第15条には、契約が終了したときは、「賃借人は賃貸借物件を原状に回復し、賃貸人より賃貸借物件の検査を受けたうえ、賃貸者に明渡すものとします。」と書かれている。家主はこれを根拠にして、25万円を原状回復費用として請求してきた。家賃の4ヶ月分の敷金を返金しないで、更に原状回復費用の不足分7万円を追加払いしろというのである。
 敷金の2ヶ月分の償却は、問題があるが、取敢えず、家主に残りの敷金の返還請求を以下のような文面で行なった。「賃借人は建物を既に明渡しておりますが、預けてあった敷金18万円をまだ返還して頂いておりません。本年5月20日までに当方の口座にお振込下さるようお願い致します。期日までにお返し頂けない場合は、東京簡易裁判所に訴訟手続をとります。」
 5月18日、不動産屋から、敷金18万円を返しますが、原状回復工事の不足分7万円を払ってもらいたいという返事があった。それに対して「通常の用法に従った使用に必然的に伴う汚損・損耗は原状回復義務の対象にならない」(東京地判平成6・7・1)とあるように、原状回復費用を賃借人が負担すべき謂れはないとして、工事代金の支払いを拒否する返事をし、小額訴訟の手続をすると伝えた。

   


 

雨漏り修繕を借家人が実行

大田区の上岡さん

 大田区西馬込一丁目居住の上岡さんは、賃借中の木造瓦葺二階建一棟居宅兼作業場の建物を取得した隣人から、老朽化を理由に明渡しを請求され調停は不調となった。しかし、これまでも雨漏りの修繕を申し出たが返事がなく、改めて書面で請求したら家主代理人弁護士は家賃と比較して工事費が高額と拒否。上岡さんは依頼した見積書は二九万円余で九万円の家賃と比べても適正と通告したが返事がなく、やむを得ず上岡さんが工事着工。梯子設置等に家主の協力で二日で工事終了。家主の協力でやや期待したが、工事代金の支払を家主が拒否したので、供託中の家賃から月額三万円毎九回、最後二万円余を相殺することを通知し、二月分の供託から実行した。

   


 

今は店を閉めたくないと頑張って明渡し拒否

足立区

 足立区江北に住んでいる儘田さんは店舗兼居宅を借りて50年定食屋を営んできた。今年に入って突然「マンションに建替えるから明渡せ」と「業者」に言われた。あわてて家主に連絡したら「もう売りました」の一言。途方に暮れていたところ知人の紹介で組合に加入した。
 その後も毎日「業者」が定食を食べに来るが、顔を見るたび「明渡しできない」の気持ちが強くなる。5年前に夫が他界してから一人で細々とやっているが、開店以来の常連さんもいて「おばあちゃん頑張ってよ俺達来るとこ無くなるよ」と言ってくれる言葉に励まされている。
 「今は店を閉めたくない」頑張るぞーという気持ちで定休日を利用して、九段下まで供託に行っている。

   


 
 ■判例紹介  

借地法定更新で更新料支払いの慣習は認められないとした事例

 土地賃貸借契約の法定更新の場合でも更新料の支払義務があるとする慣習は認められないとした事例(平成一四年一月二四日、東京地方裁判所民事第四五部判決。未掲載)

(事案)
 Xは、東京都墨田区内に土地四二八・○八平方メートルを所有し、これをYに建物所有の目的で賃貸していた。

 右契約が平成一二年一○月三一日の経過により満了するため、Xはその一○ヶ月前に期間満了の通知をした。

 YはXに対し、契約更新の希望と更新の際の条件の提示を要請した。

 Xは堅固建物の存在を前提として、契約期間を三○年とする場合の更新料を二○四○万九九六三円(一平方メートル当たり四万九一二五円)と提示。

 合意に達しないまま、平成一二年一一月一日、法定更新となり、XはYに対し、賃貸借契約の更新に当たっては、合意更新であると法定更新であるとを問わず、更新料の支払いが条件になることは、現在では社会的な慣習となっていると主張して、更新料二○四○万九九六三円等の支払を求めた事案。Xの請求棄却。


(判旨)
 「YがXに対して本件賃貸借契約更新の条件の提示を要請したのは、YがXの条件の提示を見て、これに応じるかどうかを検討しようとしたものであって、更新料の支払義務を認めたものということはできない。……また、賃貸借契約の法定更新の場合でも更新料の支払義務があるとする慣習は認められない」

(寸評)
 法定更新の場合に、更新料支払の義務があるとする慣習はないとするのが判例の立場であることは、周知のこと。それにもかかわらず、依然として、更新料請求の訴訟が提起されるのは、更新料の支払拒絶を明言せずに、条件交渉をする賃借人が多いことをあらわしている。更新料交渉について注意を喚起するために紹介した。 

(弁護士 田中英雄)

   


【借地借家相談室】

陽当りのよい南側窓の網入りガラス
の自然破損は施工不良と考えられる

(問)ベランダの網入りガラス2面の破損代金を請求されています。自然にヒビが入ったのでも、弁償しなければならないのでしょうか。(北区 学生)

(答)網入りガラスに何もしないのにヒビが入ったという経験をした人、現在ヒビが入っているという人は結構多い筈である。普通、ガラスに物が当って割れる場合はぶつかったところから放射状に亀裂が入る。
ところが、自然にヒビが入いたと考えられる網入りガラスは、陽当りのよい部屋の南側に位置している筈である。そして、ヒビはガラスの下部に集中。このヒビ割れはガラスの端から始まり、次に90度の方向に曲線を描いて割れるという特徴がある。このような状態にヒビ割れていたら、それは金属とガラスの熱膨張率の差から自然にヒビ割れが生じたものである。また最近、結露や雨水が下方のパッキンの中に溜まり、鉄製の網の錆による体積の膨張も原因の一つと考えられるようになっている。近頃業者は、網入りガラス交換に際し底面と下方側面に防水テープを貼っている。これは切口の網部分からの水の滲入を防ぐためである。熱と錆二つの理由が競合していると考えるのが合理的であろう。
質問者と同様の問題で争われた保土ヶ谷簡裁の判例がある(平7・1・17)。「網入りガラスは切断する際に網も切らなければならないために切り口に傷がつきやすく、そのため端部の強度が網のないガラスの半分程度に落ち、より小さな温度差で割れが起こり易いこと、熱割れの特徴は必ず端部から生じ、しかも端部に直角に生じること、本件建物の窓ガラスの破損は右熱割れの特徴に符号するものである」として網入りガラスは熱膨張により破損し易いと認定し、賃借人がガラスを破損したということを認めるに足りる証拠がないから、賃借人が窓ガラス破損の責任を負う謂れはないと判示している。ガラスの破損は貸主の負担すべきものとして、借家人の金銭的負担を免除している。ヒビ割れの根本原因は、網入りガラスの切口の錆止め対策不備に因るものである。錆の拡大がなければ、熱膨張だけではガラスの亀裂は起こり得ない。
 結論、判例などからも相談者は網入りガラスの破損代金を払う必要はない。


毎月1回15日発行一部200円/昭和50年5月21日第三種郵便物認可


 ← インデックスへ